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◆
「・・・ん?どうしたの鈴ねぇ?」
2人で縁側に座り、西瓜を食べながら夜空をボゥっと眺めていた。
不意に覗いた鈴の横顔が、どこか嬉しそうにも、逆に、どこか遠くを見つめて、悲しそうにしている様にも見えたのだから。
鈴ねぇの膝の上では、相変わらずクロがゴロゴロとうたた寝を続けていて、今は器用にお腹を天井に向けて間抜けなポーズを取っていた。
「あっ、クロが馬鹿みたいなポーズしてる。見てよ鈴ねぇ。」
「ん・・・?あはは。クロかわいい・・・。」
「そうだ鈴ねぇ。これ、返した方がいいかなって。」
ポケットに入れていた赤い縄の鈴を差し出した。
「・・・その鈴、明日一緒に祠に返しに行こっか。」
「え・・・、でも鈴ねぇって、この鈴と一緒なんじゃ・・・。」
「うん。もう、大丈夫になったの。」
「・・・そっか。じゃあ明日はまた、鈴ねぇとデートだ。なんか最近毎日登山してるなぁ。」
「・・・ん!?デート!?翔ちゃん!私とデートしてくれるの!?」
「うわ!今までだってそんな感じだったろ!?」
「全っ然ちがう!」
「お!若い衆が惚気てやがるぞ!」
「あらあら!毎日ご馳走日和ね。」
声に気付いて居間の方に振り返ると、襖を半分だけ開けた隙間から3人の顔が半分だけ覗いて、物凄く面白そうにニヤニヤと自分を見物していた。
「もう!父さんも母さんも!」
「鈴ちゃん。明日は美味しいお稲荷さん作ったげるかんね~。」
「・・・うん!楽しみ!」
◆
今朝の一件以来、鈴ねぇは今までにも増してうんと明るくなった気がする。きっと皆も、鈴ねぇの口数が増えている事には薄々気付いているのだろう。
結局、目の前にいるこの女性は、僕にとって掛け替えのない姉のような存在であり、でもしかし、どうやら神様らしかった。
神様ってもっと仰々しくて、神殿の奥で偉そうに座っているようなモノだと思ってたのに・・・。なんだか拍子抜けかもしれない。
でも、きっと鈴ねぇは、自分にとって最高の神様で、最高の、僕のお姉ちゃんだ。
「鈴ねぇ。」
「ん?」
「・・・これからも、いっぱい、よろしくね・・・。」
「・・・うん!私の方こそ、よろしくね。翔ちゃん!」
自分を見つめる姉のどこか自慢げな笑みは、自分がこの町に帰って来て本当に見たかったものなんじゃないかと、思った。
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