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  ◆


 「翔太~。食後にスイカ切ろうと思うんだけど~。」

 「わぁ、美味しそ~!食べたい!」

 「そう来なくっちゃ!いつ頃がいい?」

 「う~ん、そうだなぁ・・・。鈴ねぇはいつ頃がいい?」


 我が家の夕食は相変わらず早い。夕方の6時半なんて、今の季節じゃまだまだ昼下がりみたいな日の高さをしている。それでも、我が家では夕ご飯。ここ数年の生活からしてみれば少しビックリもするけど、やっぱり、自分には小さい頃から刻み込まれたこれくらいの時間が合っているなと、すぐに思い出せた。


 「鈴ねぇ・・・?あ、寝てる!」

 「んぅ~・・・。」

 「牛になるよ。」

 「んもぉ~~!!」

 「スイカ、いつがいい?」

 「・・・おにゃかいっぱい。でも、たべたい・・・。」

 「まぁ、そうだよね・・・。」

 「翔太~!鈴ちゃんはなんて~?」

 「もうちょっと時間開けたいって~!」

 「は~い。じゃあ8時半頃にしましょうね~。おと~さ~ん!ちょっと裏で西瓜冷やしてほしいんですけど~。」


 母さんが今度は親父の方にドタドタと歩いていく音がした。相変わらずの賑やかな家だ。


 「んぐルルんぁああ・・・。」

 「あ、クロ起きちゃった。」

 「クロ~、いっしょにおゆうねしよ~。」


 チリン、と首の鈴を鳴らして返事をしたクロが、一度伸びをしてからトコトコと鈴ねぇの胸まで歩いて行き、再び柔らかい枕を見つけ手ご機嫌に毛玉に化けた。

 「はは、真っ黒毛玉だ。」

 「んふふ。」


 窓を閉めていてもどこからか吹き込んでくる隙間風が、うっかりぶつかった風鈴を一度チリンと鳴らしていった。ガラス玉の余韻が消えて、一時のあたたかい静寂が家全体を包み込む。


 やっぱり、俺はこの家が好きだ。

 母さんの作る唐揚げ。お祖母ちゃんの作るお稲荷さん。親父と飲むビール。お昼寝好きのクロ。


 それに、なんだかんだ俺はこの町も好きだ。

 何にもない。いや、田んぼと畑くらいしかないけど、豊かな思い出の山がある。そしてその山頂には、中々厳しい思い出も追加されたけど、小さい頃から祖父が手入れをしていた祠がある。


 それに・・・


 「鈴ねぇ。」

 「なぁに?」

 「俺、この町に帰ってこようと思うんだ。」

 「・・・ほんとに?」

 「うん、こっちで親父の畑仕事一緒にしながら、それで足らなければ、町まで行って仕事もするよ。」

 「でも、大変じゃない?」

 「あはは・・・。どうだろう・・・。通勤が何もない道を車で一時間なら、向こうの満員電車に押し込まれるよりむしろ楽かも。家は、こっちなら家賃もかからないし、家に家賃入れたってそっちの方が安いんだよね。それに、こっちの方が広い!」

 「そっか・・・。」

 「でも一番の理由は・・・」

 「理由は・・・?」

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