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◆
「うん?・・・うん。つまり、最後の被害者が当時の村長の娘だったから、村長一族は掟に則って新しい村長が立てられなくなり、現在は一族ごと消滅した、と。なるほど・・・。」
「・・・はは。」
「なにか変ですか?」
「いいやぁ?」
相変わらず不適な笑みを浮かべた安倍さんがこちらを面白そうに見ている。
「まぁ、”そんなことで”という感じはしますが、高度経済成長やバブル以降は全国各地で似たような話は結構あるのかなという気もするので・・・。ただまぁ、一つ変な事があるとしたら・・・それは・・・」
「それは?」
「・・・掟そのものが、何か、変・・・?」
「・・・。」
「・・・。」
駐在所の中が一瞬シンと静まり返った。
「え!?自分、なんか変な事言いましたか・・・!?」
心に痛いタイプの静寂だ。
「・・・フフ。」
「・・・ククク。」
静寂は、より一層不気味な笑い声で終わりを告げた。なにか企んでいる男の笑みというのがこんなに不気味だという事を、今、心の底から学ぶ事ができている。
「「大正解~!!」」
余りにもパッと咲く良い年したおっさん共の笑顔も十分不気味だと言う事も追加したい。
「少し意地悪な質問をするよ。どの辺が変だと思う?佐藤くん。」
「どの辺が、かぁ・・・。」
「佐藤くん!佐藤くん!」
また、胡散臭い眼鏡がニカニカしながら声をかけて来た。
「思惑だ!思惑!この掟から滲む思惑を掬い取ってみて!」
「思惑・・・思惑・・・。」
「・・・。」
「・・・どうかな。」
「・・・この『村長の娘が婿に迎えた人間が村長を継承する』という掟は、『村長の娘』に村長選出というかなり大きな仕事を任せている。もっと言うなら、この掟で数代が続くと、恐らく『村長一族の女性たち』に、村の権力が集中するようになる。」
「・・・うんうん!その通り!」
「佐藤くん。」
田中巡査部長が、なんだか嬉しそうにも、楽しそうにも見える穏やかな笑顔を浮かべて言葉を放った。
「追加情報を2つ与えよう。この村の掟は、実は始まったのが江戸の中期頃だと言う事が分かっている。」
「それって、例の治水工事の・・・。」
「そして、この掟が始まったのは、治水工事の際に山頂の祠に鈴を奉納した巫女が、村長一族に嫁いだ事がきっかけだ。」
「・・・つまり、治水工事を行った以降の村長一族というのは、『山を鎮める巫女を継承する事』を第一目的として存続していた一族だった。」
「そんな一族が大切に育てていた巫女の末裔が、都市開発計画の事故で、流されてしまった・・・。」
「「いや違う。」」
2人が同時に否定の言葉を発した。それは音の重なりによって、それぞれの語気以上に力強い否定の意を帯びていた。
そんな強い否定に揺らされた脳味噌が不意に思考を端から転がしてしまった恐ろしい可能性は、そのまま言葉を抑える理性を躱して机の上に転がり落ちた。
「・・・流した?水害を鎮める役割を背負った巫女の少女を、その命を以て、川を鎮めさせた?」
◆
「この写真を見てくれ。佐藤くん。」
「これは、集合写真ですか。」
田中巡査部長が胸ポケットから取り出した一枚の白黒写真を覗き込もうとした。
「佐藤くん。」
「はい。どうしました安倍さん。」
「また、注意だ。頭の混乱を防ぐ為のね。」
「この写真を見ると、また自分は取り乱しますか?」
「んん、あぁ、それはまだわからんが・・・、その写真を見ると、恐らく君は、結構驚くだろうなって、思ったからさ。」
「・・・ありがとうございます。じゃあ、覚悟して見ます。」
「うん。頼む。」
言われた通り、少し慎重に、その白黒の集合写真を覗き込んだ。まるで、怖い場所を聞いた上でお化け屋敷に入るみたいなズルい気分だ。
十数人の人間が横2列に並んで写っている。何かの縁日の記念だろうか・・・。
「・・・ん?この真ん中の人・・・。・・・あれ?」
目にゴミでも着いているのかと思って顔を袖で拭いてみたが、やっぱり、そこに写っている、写真の下段真ん中で微笑んでいる晴れ着の女性には、よく見覚えがあった。
「・・・鈴さん?」
「その通り、そして、”偶然にも、”その写真の女性も、”そう”だ。」
「”そう”?」
「そこに写っているのは、この子込村に生まれた最期の村長の娘、そして、子込町都市開発工事の災禍を止める為に自ら川に身を投じた、この村最後の巫女である、子込すずさんだ。」
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