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  ◆


 「ヨシ!それじゃあ自己紹介も済んだし!もう誰も後には引き返せなくなっちゃったし!腹を括ってこれからの事を話し合おう!」

 「ハァ・・・。まぁ、そうするしかないかぁ・・・。」

 「ちょっと待って下さい!」

 「何を待てばいい?」

 また大男が天井から冷たい覇気を振り降ろして来た。その冷たさは、腰を抜かして椅子に転がり落ちた事で広がった高低差の分だけさらに前頭葉に衝撃を喰らわせた。


 「それは・・・それは・・・。」

 たしかに、何を待てばいいんだ。咄嗟に言ってしまったけれど、実際何が意味が分かっていないかと言われれば、何もかも意味が分からない。これじゃあ相手に待ってもらうだけ時間の無駄じゃないか。まずは頭を整理しよう、そう俺は元々高校を卒業してから特殊部隊に憧れるなんて馬鹿な憧れを抱いて警察学校に入校してそれで頑張ったけど特殊部隊には入れなくてそれで、それで、山が好きだったから、好きだったから、好きだったから。


 「・・・。」

 「・・・うん。・・・うん!やっぱり俺たちが悪かった!こんなのいくら何でも酷だぜ!ただでさえ”クニトリ”を直接見ちまってそれの報告書をでっちあげなきゃいけない筈だったんだ。もし俺が佐藤くんの立場なら初日から熱出して逃げてるね!」

 「うん、僕もだ。僕が佐藤くんの歳の時なんかはもっとちゃらんぽらんだったよ。」

 「あの・・・じゃあ俺は・・・」

 「全部君に合わせてやる。一つずつ、幾ら質問してきてもいい。それに答えるのは、俺が任されている仕事でもある。そんで、自分について何も気に病む必要はない。多分、時間も結構ある。」

 「まずはさっきに戻って、白蛇村についてからだ。順を追って話していこう。」


  ◆


 「じゃあ・・・、まずは1つ、質問いいですか・・・?」

 「「いいよ。」」

 「・・・なんで、こんなに捲し立てたんですか。」

 「「なんでって、そりゃあ・・・」」

 目の前の渋くて怖いおっさん達が2人で3秒見つめ合ってから、視線を戻してこちらを見つめ直した田中の口が開いた。


 「・・・ささやかな、入隊試験さ。」


 そう言ってから、片側の口角だけがニッっと上がったのを見た。

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