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◆
「・・・あっ!!あれ翔太じゃねぇか!?」
「どこだ!?・・・あっ!お~い!翔太~!鈴ちゃ~ん!」
真っ直ぐ伸びた田んぼ道の先にぽつりと建つ、自分の良く知る古いめかしい2階建ての和風建築の前に、4人の人影が立っていた。
一生懸命こちらに手を振っている祖母。腕を組んで仁王立ちしている父親。母さんは、多分クロを抱えてこちらを見ているのだろう。その隅に立っているもう一人、警察の制服を着て真っ直ぐ立っているのは、田中巡査部長だ。
「ただいま~!」
手を振ろうとした矢先、自分が肩を預けていた鈴ねぇの方が我先にと大手を振って返事を返してくれた。振袖が派手にはためき、今の自分が力なく手を振った所で殆ど白い帆布に覆い隠されてしまう気がする。それにしても派手な服装だ、下を見ても朱色の袴が目に刺さる。こんな格好をしている鈴ねぇを見るのは生まれて初めて・・・だったかもしれない。
「やいやい翔太!おめぇ鈴ちゃん迎えに行くって飛び出しておいて、鈴ちゃんに担がれとりゃ!いつまでたっても鈴ちゃんにおんぶにだっこじゃい!」
「うるせぇやい・・・。銃、撃たずに済んだよ。」
「そりゃあ良かった。鈴ちゃんも、お疲れさん。」
「・・・ただいま。」
「おかえり鈴ちゃん!全くどこに行ってたんだか!お風呂沸かしてるよ!・・・まぁ!綺麗にめかし込んじゃって。まるで神様みたい!」
「阿呆おまえ!そりゃおまえ・・・あはは!阿呆!」
「うふふ!」
「鈴ちゃん、よく、また帰ってきてくれたね。翔ちゃんを守ってくれて、ありがとうねぇ。」
「・・・うん。」
「さぁさ!朝ご飯にしましょ!あっ、でも皆眠いかしら。朝ご飯、お昼でもいいわよ。」
「お前は朝から騒がしい奴だな!だけんど俺も眠い!飯は昼にしよう!」
「はいはい!わかりました。翔ちゃんも鈴ちゃんもおうちにお上がり。」
「うん!」
「はい。」
◆
すぐ目の前に広がっているというのに、まるでウンと向こうの騒ぎを遠目に眺めているみたいな気分にさせられる。自分が除け者な訳ではなくて、彼らの家族団欒の結束力の強さに弾かれてしまったのだと自分に言い聞かせる。
「佐藤君!ご苦労だった!」
田中巡査部長にバンバンと肩を叩かれた。肩に伝わる衝撃は、上司から部下の武勲を称える温かさもそこそこに、今は疲労困憊した自分の身体を地面に打ち付けてやろうとしてるのではないかとさえ思えてしまう程に力強い。
「ありがとうございます!」
「発砲は?あったか?」
「いいえ、発砲なしであります。」
「素晴らしい!君は警察官の鑑だ!」
「は!ありがとうございます!・・・しかし、」
「しかし?」
「銃刀法違反を2件、見過ごしました・・・。」
「馬鹿、言うな言うな。そのうち1件は私もだ。」
「・・・はい。」
「・・・ちなみにそのもう1件というのは?」
「はい。・・・あっ。スイマセン、耳元で。・・・鈴さんの刀です。」
「・・・刀か?」
「・・・はい。」
「・・・うん、ヨシ!じゃあ、佐藤君はこの後報告書にまとめておくように!」
「はぁ、はい・・・。」
「ワハハ!警察官の宿命さ!ただ、疲れているだろう。一度帰宅して寝なさい。16時ごろに出勤でいい。」
「あ、ありがとうございます!」
「佐藤さん!」
団欒の中心から声が飛んできた。勿論声の主は翔太さんだ。
「今日は本当にありがとうございました!」
「いえ!こちらこそ!貴重な経験を有難う!お互いゆっくり休みましょう。」
「はい。・・・わっ!?鈴ねぇ!?」
視界の先でこちらに手を振っていた姿に横から飛び掛かって抱き着いた巫女服姿は、相変わらずの派手さだ。
「・・・鈴さんも、この度はお世話になりました。」
抱き着いた勢いで頬を翔太君の顔に押し付けていた美しい顔が「むふんっ!」と鼻で息を吐いてどこか誇らしげな笑みを飛ばして来た。
全く神々しいまでに美しい笑顔だ。
「・・・それじゃあ!」
「はい。」
田中巡査部長と並んで駐在所に帰る。相変わらず背後ではワチャワチャと騒ぎの喧騒が聞こえている。
「ここに来た当初は、もっと寂れた所だと思っていた。」
「ははは。中々侮れないだろう。」
「・・・はい。」
「折角だ。後でこの町の歴史なんかが分かる資料を見せてあげよう。色々、今後の勉強になるんじゃないかと思うよ。」
「はい!ありがとうございます!」
すっかり上った朝陽が照らす田園風景に、夏の清々しい山風が吹いていた。
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