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◆
高く振り上げた刀が落ちた先で、大蛇の身体はボロボロと崩れ落ちていった。山の屋敷にもたれかかるように寝ていた身体は、その純白の鱗をみるみる茶色に染めて、気付いた時にはただの土の山のようになっていた。
「失礼しちゃうわね・・・。」
刀に付いた血を振り払って脇に収めた巫女服の女性は、踵を返し、着物の襟を正しながら、へたり込んでいる青木さんの方に歩いていった。まるで面倒な仕事をやっと片付けたような、災難からの解放を喜ぶ人の表情には見えなかった。
それに―――、
『(男よ―――。)』
『(・・・なんだ?)』
『(もし、そこにいる狐の寵児が、俺の話をしたら―――)』
『(・・・したらなんだ?)』
『(・・・「中々楽しかった」、と、伝えてくれ―――)』
『(おい、それはどういう・・・それに、狐って・・・)』
―――。
聞く前に鼻先まで”土に還った”大蛇の一体なにが本心で、目的はなんだったんだろうか。本当にアレは、翔太君を喰う為だけにこんな大がかりな事をして、そして無残に殺されるような下手を演じたのだろうか。
一人の警察官としての、底知れぬ懐疑心と真実を究明したい性質が、どうしてこうも自分の中で解消できない感覚がある。
その真実の片鱗は、今、素直に聞けば知れるのだろうか。
「あの!」
「ん?」
流し目の視線は、最早「片田舎で平凡に暮らす美女」というには余りに不釣り合いな程、冷たく鋭く自分を刺してきた。
「・・・いいえ。ご苦労様です。」
「・・・うん。佐藤さんも、わざわざこんな所まで翔太をありがとうございます。一緒に送りますね。」
「・・・随分、お話しになるんですね。」
「は?」
「ずっと、無口な方だと思ってましたので。」
「・・・確かに、今日みたいな日は少し、はしゃいでしまうわね。」
視線と同じく、舟に浮かべて川にでも流したようなその言葉は、まるで独り言のように空に吐かれたままになった。
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