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目を見張る程立派な作りの宮殿の中にいた。
寝殿造らしい広大な屋敷の柱という柱は鮮やかな朱色に塗られ、等間隔に立つ人ほどの太さがある柱が果てしなく廊下の先まで続いている。
自分たちが立っている板張りの回廊は、恐らくこの屋敷の一番外側であることがなんとなく理解され、自分たちが進むべきこの御殿の中心が遠くの方で自分達の到来を待っているかのような息衝きが、胸の鼓動を加速させた。
「ハァ・・・。」
佐藤巡査がまた青い顔をしている。
「大丈夫ですか。」
「大丈夫。ただ色々起こりすぎて頭が痛い。」
「・・・自分もです。」
「銃は構えて行きましょう。それと、鈴が鳴らないか注意して。」
「はい。」
父親のハーフライフルをとうとう両手に携えた。この銃は元々祖父から受け継いだものだ。
広大な宮殿をひたすら奥へ奥へと走る。
途中、この屋敷の中には水路が通っている事が分かった。サラサラと清い水が流れている1m程の幅がある水路が複雑に蛇行しながら宮殿内を循環し、廊下と水脈が交差する度に赤い反り橋が座敷同士を渡している。
また、この宮殿は山なりに作られている事にもすぐに気付いた。
数十畳はあるかという座敷を走り抜ける度に、膝程の高さから時には1m以上はあるだろう段を無数に連ね、奥へ行くほど高くなっていく。
「流石は山の神の宮殿と言ったところか。骨が折れる。」
一度立ち止まり、息を整えながら辺りを見渡す。来た道は気付けば遥か下方、しかし、進めば進むほど、山頂の気配は強くなっていく。その事が、先のループする山道を乗り越えられた自分たちにとってはそこはかとない自信になっている。
それに・・・
「どうやら、そろそろみたいですよ・・・。ほら・・・。」
「えぇ・・・。あぁ・・・。」
先程までは澄み切った清流だった水路の水が、仄かに赤い色を帯び始めた。
きっと蛇の血だろう。
「あと少しだ。急ぎましょう!」
山頂に登る頃には血の匂いは濃く深く、まるでそのものが鼻に流れ込んできてると錯覚するほどになっていた。
時折交差する水路も赤黒いヘドロのようになり、血の散乱こそ見ていないものの、最早この先に広がっているだろう血の海を想像するに難くなかった。
そして、とうとう我々はその中枢、鮮血滴る山頂に足を踏み入れたのだった。
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