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  ◆


 家を飛び出してもうすぐ日が出そうな気配の田んぼ道を走っていると、道の先に幾つかの丸い光がチラチラと漂っているのが見えた。

 あれは、懐中電灯の灯りだ。


 「おーい!翔太くーん!」

 近所に住む征治おじさんだ。祖父の弟で、よく麻雀を打つ為に家に来ていたお互い良く知る人だった。

 他にも数人いるのは、やはり近隣の住民の皆だった。

 「おじさん!ひょっとして。」

 「あぁ勿論!山に行くんだろう。気を付けて行きなさい。」

 「・・・ありがとう!」

 腰に手を当ててどうどうと立ち、しかし控えめな優しい笑顔を浮かべた征治おじさんに、ふと、疑問を投げてみたくなった。

 「・・・ねぇおじさん。聞いていいですか。」

 まるで、いやきっと全部わかられていたんだろう。まるで準備していたみたいな言葉が、おじさんの口から放たれた。

 「・・・君には、できるなりに、普通に育ってほしかったんだ。この訳の分からない場所で、事に巻き込まれても、知らずにいれるなら、元気に育ってくれるだろうってね。」

 「おじさん・・・。」

 「それは勿論、鈴様もだ!君と、鈴さん。この村が守るべき大切な若者だったんだよ。」

 「・・・はい!」

 「ほら行け!」

 「はい!必ず連れて帰ってきます!」

 「当たり前だ馬鹿者!ハハハ!」

 おじさんの快闊な、雨上がりの涼しい早朝に良く響く笑い声を追い風にして、山への道を急いだ。


  ◆


 「なぁ征治さん。」

 「なんだい。」

 「驚いたよ。お鈴様が現れた時に一番反対したのはアンタだったじゃないかい。」

 「まぁね。」

 「一番正雄さんを責めたのはアンタだったのに。祠に返して来いってよ。」

 「意外かい。」

 「いんや、別に。」

 「・・・初恋だったんだ。」

 「はぁ?」

 「あんなに似てるとね、つい。」

 「・・・ワシは帰って眠るよ。翔太くんは、心配ないさぁ。」

 「うん。」


 まだ暗く影のかかった山の頂上を見上げる。


 「頑張れよ、翔太。」

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