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◆
「俺、行かないと。」
「行くってどこへ。」
「鈴ねぇを迎えに行かないと。」
「馬鹿タレ翔太!・・・バカタレ。」
父さんが口から出掛かった自分への、父親として当たり前だろう叱りの言葉を、グッと我慢してくれた事に、もう気付かない自分では無かった。
「どこにいるかは、分かってる。」
「ならねぇよ翔太!」
今度は母親が止めて来た。母の気持ちは少しわかる。なぜなら、鈴ねぇがウチに来ることになった原因、山で自分が行方不明になったのは、母親が自分を見失ったからだった。
「鈴ちゃんも心配だけんど!それよりも!私はお前にもう危ない目に遭わんで欲しい!」
母は今にも泣きそうな顔で自分の目を真っ直ぐに見つめて来た。
自分も今日ばかりは、いつものような斜に構えた体面など無しに、真っ直ぐそのまま、母親の感情を受け止める事ができてしまえた。
「・・・ごめんなさい。でも、」
「翔ちゃん・・・その手に持ってるのは何だい。」
「え?あ、これはクロの首にかかってて・・・。きっと、これのおかげで鈴ねぇが来てくれたんだと思う。」
手に持っていた赤いしめ縄と鈴を家族に見せる。
「あぁ・・・そうだ。それが、じいちゃんがあの日『預かった』っちゅうてたお守りじゃ。」
「え!?・・・これが、鈴ねぇの・・・。」
「翔太。鈴ちゃんに、ちゃんと届けるんだぞ。」
「ちょっとお父さん!」
「うん。わかってる。」
「よし。これ持って行け。」
親父が持っていた猟銃を押し付けて来た。
「俺、撃った事ない。」
「よし。今覚えろよ。」
「・・・はい!」
「まず、ここにあるのが安全装置だ。赤いのが見えてるだろ、今のこれが安全。ここをグッと押して、カチッとなったら、もう撃てる。そんで、撃つ瞬間まで絶対に引き金には触るな。絶対にだ。」
「うん。」
「照準は、左右は真ん中に、上下は上のラインが揃うようにだ。わかったな。」
「うん。」
「狙いすぎるなよ。当たらなくなる。」
「どういうこと?」
「殺す為に撃つんじゃねぇ。殺されない為に撃つんだ。その分別が付けば、獲物に当たる時にしか撃たなくなる。お前には自分の身を守るためにこの銃を貸すんだ。分かったな。絶対に自分で帰しに来いよ。」
「わかった!」
「よし!行け!」
「はい!行ってきます!」
銃の紐を肩に掛けて、鈴をポケットの一番奥に押し込んで、勢いよく玄関を飛び出した。
背後で母さんがヒステリックを起こしている声が聞こえて来た。ちゃんと帰って謝って、いっぱい怒られよう。
僕は、母さんの作った生姜たっぷりの唐揚げを、鈴ねぇと食べたい。
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