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途中で一本の、恐らくは居間の隅に立つ柱だろうが、柱の縦線を境目にして現れたのは猟銃を胸の前に抱きしめながら腰を抜かしてこちらを見ている父親の姿だった。
居間が丸ごと回転した?そうとしか言いようのないおかしな事が、今目の前で起きた。
「うわぁああ!」
「父さん!大丈夫!」
「あ、あぁ!大丈夫だ!それより翔太!お前!今、部屋が丸ごとガガガって回転して・・・何がどうなってんだ!」
「僕もわからない!でも今、鈴ねぇの声がした!」
「あぁ!?鈴ちゃんが!?どこにいるんだ。」
「わからない。でも、きっと・・・。」
「翔太!大丈夫!?え、キャァ!なんで家具の位置変わってるの・・・?」
母さんが慌てて襖を開けて入ってきて、目の前にあった事に更に慌てていた。
「翔ちゃん大丈夫かい!」
今度は仏間から祖母がヨロヨロと入って来た。
「大丈夫だよばあちゃん。心配かけてゴメン。」
祖母は凄くホッとした表情を浮かべてその場にへたり込んでしまった。
◆
「凄い雨だったなぁ。」
「えぇ、本当に。」
「ありゃ蛇の仕業だ。」
「え?雨降ってたの?」
「何言ってるんだ翔太。馬鹿みたいに雷鳴って凄かったんだぞ。」
「・・・え。」
急いで自分の丁度右にある閉じた襖、恐らくは庭を向いた襖まで行き、思い切り開くと、確かに、曇り空で乱反射した月光によって薄っすらと鼠色に照らされた庭からは、草や土がよく水を吸った匂いと、夏の夜の温い湿気が押し寄せて来て、一瞬で顔中に塗りたくられた。
「いつ頃上がったの?」
「今だ。部屋が回転してお前が現れる直前くらいに上がった。」
「ちょっと!部屋が回転ってどういうことよ!」
「うるさい!俺が聞きたいくらいだ!」
「きっと鈴ちゃんだぁ。」
「うん。ばあちゃん、鈴ねぇの声がしたよ。」
「あぁ・・・。すずちゃんが、たすけてくれたんだぁ・・・。」
祖母はその場に腰を抜かしたようにへたり込んでしまった。
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