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  ◆


 ギシ、と、

 震えていた居間の畳が、数cm真下にガクリと落下する衝撃を身体が感じた。

 眩暈のような感覚に頭をグヤグヤ揺らされているような気分だ。


 その瞬間。


 『アぇ?』


 目の前で動きを止めた蛇の頭が、きょとんとした顔をしながら真っ二つに裂けた。


  ◆


 蛇の割れた頭からどくどくと湧いていた大玉の血は、すぐに顎から眉間に向かって噴水のように一直線に噴き出した。すこしずつ観音開きになっていく大蛇の頭蓋が断面を露わにしていき、口の中に仕舞われていた筈の舌も、突然現れた虚空になす術もなく垂れ下がって行った。


 「う、うわ・・・。」


 今まで襲って来た恐怖とはまた別種の脅威に身体が硬直する。絶対に見たくない筈なのに、目の前でどんどんと情けなく露出されていく蛇の白い脳みそから目線が離れない。


 そこにあったのは、人だった。


 脳味噌に見えていた筈のモノに対する意識が深く鋭くなっていくほどに、単なる脳の断面に見えていた皺がムズムズと蠢きだし、その複雑な模様が、幾人もの白装束を来た人間が重なり合いながら苦しみ藻掻いて頭蓋骨の中に押し込められている惨状以外に見えなくなっていく。


 蛇の泣き声ではなかった。蛇の頭の中に押し潰されていた人々の、呻き声や、悲鳴が、何十個も重なって生み出された惨劇の断末魔だった。


 「うわぁ・・・あぁ・・・!」

 絶句するしかない。


  ◆


 「あらヤダ。」


 あまりにも浮世離れした世界の中で、

 あまりにも聞き馴染みのある涼し気な声が聞こえた。


 「見ちゃダメよ。翔ちゃん。」


 横に回転する力が眩暈を助長させる。まるで舞台装置が作動したように、居間から庭を見る方角に開いていた筈の襖の向こう側の景色が、ギシギシと木の軋む音を立てながら少しずつ反時計回りにスライドしていく。


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