37
◆
静かな夜だった。
虫もカエルの声も聞こえない。
それは、この田舎の夜を知っている人間にとっては明らかに普通ではない事なのは確かな事だった。
少しの風が風鈴の短冊をゆらゆらと揺らし、そのランダムな振幅が時折大きく振れて微かにガラスを小突く音がするだけ。
居間を囲むのは四部屋、一部屋は台所で、そこには母がいる。もう一つは仏壇のある部屋で、そこでは祖母が祖父の遺影と共にお祈りをしてくれているらしかった。玄関からの途中にあるリビングは父親が猟銃を抱えて座り込んでいるらしい。猟銃には空砲しか込めていないと言っていたけれど、先程の音を聞くにケモノを追い払うのには十分な気もした。最後の部屋は庭へと続く部屋で、人は誰もいない。しかしその部屋はクロのお気に入りで、何より鈴ねぇのお気に入りのお昼寝スポットだった。だから、きっと鈴ねぇが守ってくれている。全部祖母の受け売りだけど、自分を説得するには十分だった。
台所からは母親が何かを料理している音が微かに聞こえる。玄関の方からは父親が鼻歌を歌っている声が聞こえる。仏間からは音は聞こえないけれど、独特な線香の香りがふわりと香って来た。
そうした全ての気配に自分は安心した。ふと気配に気づいて部屋の隅の方を見ると、いつの間にか部屋の中にいたクロがジッとこちらを見つめながら座っていた。思い返せば、蛇と一緒にいた時間は一度もクロを見なかった。
父親たちからは、夜のうちは外から開けろと言われても開けなくていいと言われた。
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