34
◆
「は?だって鈴ねぇは俺と一緒に帰って・・・。」
「やっぱりそうだよな。」
「鈴ねぇって、ひょっとして分身できるようなタイプの神様なの?」
「・・・いんや、そんな事ないと思うよ。」
珍しく、祖母が口を挟んで来た。根拠があるかはわからない。ただ、生まれてからずっとこの場所と、この土地の信仰と一緒に生きて来た祖母の口から発せられた、重々しい確信の色だと感じた。
「それで、その鈴ねぇはどうしたの?」
「俺もびっくりして、『なんでここにいるんだ、翔太と帰ってるじゃねぇのか!?』って聞いた。ただそん時の鈴ちゃんは、まずは佐藤さんの治療が先だって言って、俺と一緒にグッタリしてる佐藤さんを家の中まで運んで、それから俺にはよくわからない方法で佐藤さんの首の傷を治療してくれた。」
「・・・なんとなく、”そっちの”鈴ねぇの方が、”本物”って感じがする・・・。」
「あぁ。そこで鈴ちゃんから色々話を聞いて、そこでまた鈴ちゃんは、『まだ自分なりに探してみる』って俺たちと別れて、その後俺たちは、そのまま佐藤巡査や、佐藤さんに呼んでもらった田中巡査部長と一緒に簡単な作戦会議をした。」
「じゃあ、その時点で俺が何に巻き込まれてるを父さんたちは把握していたって事?」
「あぁ、そんで、今日までの3日間、佐藤巡査たちの協力の下、村中の人達に事情を説明して今日の救出作戦の為の準備をした。」
親父はそう言ってから、再び膝の上に持ち直していた猟銃を、ガチャリと金属音を立てながら掲げて見せた。
「だから、これを鳴らして良くなった。」
「わかった。・・・じゃあ、いい加減、俺に教えてくれよ。俺がさっきまで巻き込まれてた事の、正体を。」
とうとう、父親の口から、それの正体に対する予測が告げられた。
「あれは、恐らく山の大蛇だ。理由も目的もわからねぇが、お前を騙して食おうとしてたんだろうと思ってる。
◆
「ちょっと待てよ!でもたしか鈴ちゃんがその山の白い大蛇なんじゃ!・・・あっ。」
「どうやら答え合わせができたな。」
突然机の向かいから泣き声が聞こえた。母さんだ。
「ごめんね・・・。」
「別に母さんは謝らなくても・・・。」
「だってあなた、この3日間何も食べてないんでしょ?それが申し訳なくって。」
「いいって。」
母親を悲しませてしまって、寧ろ自分の方が申し訳なく思っているくらいなのに。
「じゃあ、さっき割った鏡っていうのも。」
「あぁ、お前がなんて言われたか分からねぇが、あんな鏡うちには無かった。」
「じゃああの鏡は・・・。」
「鏡じゃないよアレは。あれは白蛇の鱗だよ。」
また祖母が口を開いた。
「鱗・・・?」
「物の真を映すっちゅうのはな、今じゃ当たり前みたいな事だけんど、大昔はうんと難しくで、神聖な事だと言われていたんだ。だから、お前を騙して喰おうなんていう”ジャ”にできるような行いじゃあねぇんだ。」
「それは・・・」
「翔ちゃんはこの3日、私らと食事したり、鈴ちゃんの姿を見たり、そう言う事が全部幻だったんだよ。私らが翔ちゃんとご飯を食べるのは3日ぶりだし、鈴ちゃんもお父さんと派出所のお兄ちゃんを診た以外一度も姿を出さないんだ。鱗の幻を見せられたんじゃよ。」
「じゃあ、それって鈴ねぇも危ないんじゃ!」
「まぁ待て!鈴ちゃんはそんな蛇に簡単にやられるようなモンじゃない。俺たちにはそう信じるしかない。」
「なぁ、父さん。」
「なんだ。翔太。」
「俺はまだ、一番大事な事を聞いてないよ。」
「・・・あぁ、そうだよな。・・・やっと話せる。」
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