23

  ◆


 「ねぇ、私たちもしてみない?」

 「何言ってんの。」

 「だって、もっと仲良くなってお互いの事を深く知れるかもしれないわよ?」

 「俺たちはもう十分すぎるくらい・・・いや、そんな事もないのかもしれないけど。」

 「楽しいし、気持ちいいし、仲良くなれるんなら、してみない?」

 「俺たちは姉弟じゃないか。」

 「でも血は直接繋がってないでしょ?」

 「まぁそうだけど。」

 「私、翔ちゃんの事もっと知りたい。それに人間の心の事も。」

 「俺とするとそれがわかるのかは、俺がわからないよ。」

 「でも私は知らない事なの。」

 「神様で、こんなに純粋な鈴ねぇにとって、それが良い事なのかもわからない。人間はこれで間違える事だって沢山ある。」

 「例えば?」

 「そうだなぁ。浮気とか、結局実際にしてみても心が通じ合わなかったとか、とにかく色々。」

 「私たちみたいに何年も一緒にいる2人でもそんな事起きるのかな。」

 「それは、なってみないとわからないけど。」

 「ほら。」

 「でもなぁ・・・。うーん・・・。」

 「もう裸は見てるじゃない。一緒に寝たし。」

 「・・・じゃあ、一旦キスしてみない?」

 「いいわよ?」

 「人から聞いた話なんだけどさ、相性ってキスでわかるらしい。」

 「そうなの!?」

 「うん。俺も別に証明したり根拠まではわからないけど、まぁなんとなくそうかもしれないなって程度。」

 「じゃあしてみよ!本当かどうかわかるかも!」

 「あはは。すっごい乗り気・・・いいの?これで全然だったら。」

 「翔ちゃんこそ勘違いしてるわ。」

 「何を。」

 「私たちはもう十分相性いいじゃない。だから、気持ち良くなかったら、その噂が間違ってたって事でしょ。」

 「・・・わかった。もっと身体寄せて。」

 「うん。」


 良く知っている筈の顔が少しずつ近づいてくる。よく知っているし、きっと今までだってこれくらい近付いた事は何度だってあった筈だ。でも、今が今までのそういう接近と明らかに違うのは、きっと、目の前の女性の目が真っ直ぐ自分を見つめてくれているからだろう。偶々自分の向こうにある物を取ろうとした時だとか、足元の物を拾う為に屈んで不意に近かっただとか。今はもう、そうじゃなくなったんだ。


 唇は、無意識のうちに勝手に膨らんでいた妄想とは裏腹に、意外な程に冷たかった。彼女が泣いているうちに軽く湿っていたせいで、血色の良く見えた紅色に騙された。手慣れた風に首を締め始めた二の腕が後頭部と首の境目に優しく回ってくる頃には、もう少し彼女の表情を眺めていたかった視界の右側は頭部が作る影に落ち、左目から斜め左上に覗く青空と2,3個の白い雲と、それから広場を囲む木々の先。そんなもので残った緊張を誤魔化すしかないと思った。

 重ねた唇の間にお互いの唾が溜まったせいで、やっとお互い、最後の羞恥心で以て出していなかった舌の気配を匂わせたのだと自分は思う。一度離した唇が、今度はほんの少し開き気味で重なり直し、仕切りの直ったお互いの隙間に恐る恐る舌を這わせていく。自分が上顎の歯列を前から軽く舐めたかった時、その時はもう、姉の舌に敷き詰められた自分の口内が姉の生温い吐露の息に蹂躙されていた。姉の舌は驚くほど長かった。


  ◆


 「翔ちゃん。翔ちゃん。」

 「なに・・・?」

 「私、ちょっとわかって来た、かも・・・。」

 「そう言って貰えると自分も嬉しい・・・。」

 「・・・ねぇ、もうちょっと、知りたい。」

 「・・・どうしよう。」

 「ふふ、続きは祠の裏でしようよ。」

 「なんで裏?」

 「昔見た村の子供たちの真似、かな・・・。それに・・・」

 「それに・・・?」

 「そっちの方が、楽しい気がする。」


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