第14話

  ◇


 玄関が開いている。

 「お邪魔します・・・。・・・連理~?蘭さ~ん?」

 呼び声が反響する廊下。

 「ん?なんだあれ。」

 人気の無い廊下の先、床に落ちる明るい色の線を見た。

 「これ・・・着物の帯?」

 見れば、1本だけではない。その帯が一しきり伸びきった先には、また新たな鮮やかな布の線が、まるで自分をおびき寄せてるみたいに廊下を続かせている。

 「なんなんだ・・・。」

 帯の線はとうとう階段に差し掛かった。

 階段を上がると、帯の線の先は。

 「・・・お邪魔します。」

 いつも通りの連理の部屋。しかし、四畳半に区切った部屋真ん中の襖が若干閉じ切っていない事を、見逃す事は無かった。

 「連理・・・?いるのか?玄関、開きっぱなしだったぞ。不用心だ・・・」


 不思議な音を聞いた。と言っても、決して一瞬の出来事ではない、今も聞こえ続けている、空気の微かな震えに似た音。その吐息の漏れは、否応なくねっとりと湿っぽい余韻を耳介に残してくる。

 襖の奥からだ。


 「連理、開けるぞ・・・。」


 自分が開けた襖の先、視界に飛び込んだものに、息を詰めたし、あんぐりと力の抜けた内股の中央で轟々と気性を荒げた自分を隠す気すらも、一瞬で吹き飛んだ。


 「いらっしゃ~い。アンリ君。」

 「えぇ・・・?あんりぃ?」

 「そうよ連理。あなたの大好きなアンリ君が来ましたよ。」

 「いやぁ。恥ずかしい・・・。」

 「ふふ、恥ずかしいね。もう恥ずかしい所全部見られちゃったわね~。」

 「いやぁ・・・母さん言わないでぇ・・・」

 「ふふ、可愛い連理。」


 全裸でM字に開脚したような姿勢で縛られた連理が、仰向けにされた状態で自分を迎えた。その片脇には、恐らくその1枚だけを羽織っている、真っ青な着物に身を包んだ蘭さんが迎えてくれた。明らかに艶っぽい雰囲気。恐らく俺が来るまで、いつからかは分からないけれど、連理を相当辱めて楽しんでいたのだろう

 昨日と同じように少女風のツインテールのカツラを被っているらしい連理の化粧顔は、昨日よりもさらに少女らしい血色の良さと、恥じらいと興奮の産む蕩けたような表情で、今にも自分の理性を舐め溶かそうとでもしているような、恐ろしいまでの魔性の色気を放っていた。昨日は見る事の出来なかった連理の、首から下、自分に比べれば若干控えめで、甘く勃起した性器の反り返った裏筋と、人形の頬のようにサラサラとした肌触りを思わせる綺麗な尻肉の間には、開いた肛門の皺の薄紅色が、自分の網膜に焼き付かせた。


 「蘭さん・・・これは・・・。」

 「昨日、アンリ君が帰ったあと、2人でいっぱい話し合って、触れ合ったの。」

 「・・・はい。それは・・・知ってて・・・」

 「嬉しくて!嬉しくて・・・。」

 「それは・・・良かった・・・」

 「でね、アンリ君。」

 彼女の向日葵畑のような、無邪気と、好奇と、それから高貴さすら纏ったような豪華な笑顔が咲いたのを、見逃す事はできなかった。

 「私たち分かったの!私たち、同じ人のおかげで仲直りできたって!同じ人と知り合って、同じ人に癒されて、同じ人とのキスで悩みから脱せたって!」

 「それって・・・」

 「ねぇアンリ君、来て。」

 「あんりぃ・・・はやく・・・」

 「私たちと、もっと、気持ち良くなろ?」


 呼ばれた時には動き始めていた。足を数歩、指先が布団にかかるまで進めてからは、もう後は、膝を落として這い寄る他ないくらいに、自分は既にその空間の渦中に落ちてしまった。


 「あんりぃ・・・」

 「連理・・・お前・・・」


 最早言葉すら無粋に感じた。自分と連理が熱いキスをしている間に、背後から蘭さんが服を脱がしてくる事にも最早気を取る余裕はなかった。いや、気にする必要性すら、もうどこかに忘れ落としたのだろう。

 熱さに曖昧にされた記憶と視界に、感じたのは甘い熱病に罹ったような連理の至高の惚けた笑顔と、それを高めるように自分の耳に唾液を絡め纏わりついてくる蘭さんの裸体の感触。

 「アンリ君・・・昨日、しなかったんでしょ?」

 「しなかったって・・・しましたよ。」

 「いいえ。しなかったって。」

 「何のこと言ってるんです。」

 ふとした感触に下腹部を見下ろすと、蘭さんの右手が自分の方に伸び、硬くなったそれを優しく包み込むように撫でている。

 「・・・『入れなかったか』、ってこと。」

 「入れるって、俺たち男同士だし・・・。」

 「・・・あるじゃない。」

 耳元で囁かれた彼女の言葉を、自分の中で反芻するうちにモヤモヤと、しかし夕立の前に湧き上がるドス黒い積乱雲の如く浮かび上がってきたその予感は、不思議と、今の自分をただただ順当に興奮させるだけのものになっていた。

 「昨日一晩かけてほぐしたのよ。」

 「でも・・・でも・・・。」

 「あんり~。」

 「なぁ連理!お前は、いいのか!?」

 「・・・ぼくは、アンリともっといっぱいしたいな・・・。」

 「・・・わかった。」

 「・・・それと、おかあさんとも。」

 「連理・・・。」

 「ありがとう。連理・・・。」

 「痛かったら言ってくれ。」

 「うん・・・。」

 「・・・じゃあ、始めるぞ。」

 「うん・・・。来て、アンリ。」

 「あぁ。」




  ◇


 混濁。


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