第10話
◇
自分は夏休みが嫌いだった。その理由は何よりもその圧倒的な暇にあると考えている。俺たち学生は普段、生活の大半の時間を学校で過ごしている。朝起きて1時間もしないうちにサッサと身支度と朝食を済ませて、遅刻しないように急いで家を出る。そして6時限の授業を詰め込んだ後、放課後の活動やなんかまでまるっとこなせばもう夕方の5時は回っている。家に帰って夕飯を食ったら、最近は真面目なので学校の授業の復習予習に小1時間かけて、そうしたら後はもう風呂に入って寝るだけだ。
学生としての俺たちはもう1日の活動時間の大半をあの学校という建物の中に投じている。しかし、そうして投じたものは何も時間と勉強だけじゃない。そんな環境に町中からかき集められた同年代の生徒たちが一同に会し生活を共にする。気付けば、いや気付く間もなく、俺たちの生活に必要な人間関係というのも、凡そ殆どが学校に集約されてしまうのだ。
そんな健全な学生にとって、夏休みという期間がいったいどのような意味を持つのか、先生諸君はもう一度よく考えるべきである。最も、この夏休みというシステムができた当時の情勢について話に聞いたことも無い訳じゃ無い。まだ生徒の大半が百姓家族で家業があった時代、大事な働き手としての子供たちを夏の収穫時期に学校にかせる余裕は無かっただとか、そういう話はもう頭に入っている。それでももう現在の学生にはあまり当てはまっていない事だ。
勿論、学校に人間関係が集約されているとはいうものの、別に学校の外で誰とも交流していない訳じゃあない。現に今も自分は連理の屋敷にお邪魔していて、2人で夏休みの時間を過ごしている。ただ、それで十分かと言われればそうではない。普段のように学校という環境に放り込まれることができれば、学校という共通認識の中で別に特別仲が言い訳でもないような些細な関係性の生徒であるとか、自分に直接関係は無くても、目の前で繰り広げられる生徒たちの人情模様であるとか、そういう見ていて飽きないものが沢山たくさん日々の生活を通して観測できるし、自分を飽きさせない。
要は、あんな超密度の生活を普段は強制しておいて、そういう生活を年中通してほどほどに続けさせてくれればいいのに、なぜか先生共はわざわざ年間を通した休日を夏のこの時期にドカンと1月もお寄越しになるのだ。それが自分には恐ろしい程の暇の塊にしか思えないのだ。
いや、それでもまだ、ひと思いに、本当になんにもない暇を与えてくれればいいのだ。何もかも好きなようにしていい、そんな時間を、純粋な総合学習の機会としてドンと渡してくれる。それだけでもいい。・・・なのに、なのに、先生方は俺たち学生に、まるで嫌がらせのように、特大の置き土産をドカンと押し付けてくるじゃないか。
つまり・・・、つまり・・・、それは、
「おいアンリどうした。鉛筆が止まっているぞ。」
「もう夏休みの宿題なんて懲り懲りだぁー!」
連理の部屋、4畳半ほどの空間の真ん中にちゃぶ台が置かれ、そこに連理と2人で夏休みの宿題を積み上げ、ゴリゴリとその山を崩してく永遠に思える作業をしていた。
「仕方ないだろう、出ちまってるモノは。」
「全く生徒の気持ちにもなってほしい!」
「それは、まぁ、俺もそう思う。」
「・・・意外だ。連理もそう思うか。」
「あぁ、まぁ・・・その部分に関しては俺も幾分同意する。」
「・・・へへ、お前みたいな優等生でもそう思ってるんなら、俺みたいな人間には少し心の支えになるな。」
「別に勉強がしたくない訳じゃ無いんだ。ただ、この夏休みの宿題ってやつの良くない所は、分からない所や質問があっても先生に聞きに行けないじゃないか。」
「たしかにな。」
「量が多けりゃ分からない所も増える。そういう所を秋まで放置するか、自分で必死に調べ上げなきゃいけない。俺だって折角の夏休みを宿題ばかりで終わらせたくないんだ。」
「そういえば軽井沢でも宿題やったのか?」
「それが存外に楽しくて思ったほど手に付かなかった。」
「ハハハ!連理みたいな優等生でもそうなるか。俺は安心するよ。」
「なんだか少し不愉快だが、まぁ・・・そうだな。」
「あっ、でも雛実はもう終わったって言ってたな。」
「本当か!?」
「うん。一昨日の夕方団子買ってったんだよ。そしたら休みだから手伝いだって、店先に三角斤被って立ってて、宿題は?って聞いたら『もう終わっちゃった!』ってさ。」
「さすがは試験の成績上位者常連だな・・・自分も頑張らないと・・・!」
「おれはも~つかれたよ~」
「うるさい!お前は分からない所は俺に聞けばいいだろ!」
「もう答え見ちゃうか・・・。」
「おいお前それは・・・もう少し粘ろうぜ。あんまりあからさまだと印象が悪い。」
「お前もやるんかい!」
「俺だって成績はいいが、この宿題の山を超特急でできる訳じゃ無い!それくらい夏休みの宿題は多い・・・。」
「あぁ、全くだ。」
「集中して片付けよう。」
再び部屋には、開けた窓から吹き込む潮風と、それに時折靡く風鈴の鳴りが響いた。後は、汗ばんだ手が握りしめた鉛筆がノートの紙面を擦り上げる音だけ。
机の上には宿題の山の他に氷入りの麦茶が入ったガラスコップが2つと、筆箱が2つ。そして床には畳んで厚くした手拭いの上に置かれた麦茶のヤカン。ヤカンにも入れられた氷が周りの空気ごと冷やして大粒の結露を鈍い黄土色のボディに浮かび上がらせている。
「暑いな。」
「暑い。扇風機をそろそろ出すか。」
「扇風機は紙を飛ばすからなぁ。」
「仕方ない。」
「軽井沢は涼しかったか?」
「あぁ、過ごしやすかったよ。」
「向こうでは何をしてたんだ?」
「色々したなぁ。虫捕りしたし、鳥の写真も撮ったし、散策もしたし。」
「連理が外で運動しているの、あんまり想像できないな。」
「まぁ、たしかにな。」
「他には?」
「他~?そうだなぁ・・・従姉のお菓子作りに付き合わされた。」
「お前の従兄は菓子を作るのか。」
「あぁ、クッキーとかケーキとか、別荘だから融通が利くんだよ。」
「なんだか女々しいな。」
「・・・は?だってそうだろ?」
「え?だって従兄って、」
「・・・あぁ、従兄じゃない、お姉さんだよ。」
「あぁ、そうだったのか。どうりで変だと思った。」
「まぁ別に、男が菓子を作ったっていいと思うが。」
「ふ~ん。お前、女と軽井沢か、羨ましい奴だな。」
「言っておくが、あの人はそんなに大人しい人じゃないぞ。俺はいつもあの人に振り回されてるんだ。」
「楽しそうじゃないか。」
「まぁ、つまらなくはないけどな。」
「そうか。・・・。」
「・・・。」
会話の花は咲いては枯れる。再び部屋は夏の微睡みにぼやけた静寂と集中に包まれる。
◇
「ん~!疲れた・・・。目がシバシバする。」
「あぁ。」
「ちょっと便所行ってくる。」
「わかった。」
集中した連理は、目付きも去る事ながら、返事の愛想も無い。
連理の部屋を出て右に曲がると左手に1階に降りる階段がある。便所はその階段を降りて交わる廊下の突き当り。だが、まぁ、別にそんな事はどうでもいい。なぜどうでもいいかと言うと・・・。
今日はどこにいるかな・・・。
階段の最後の一段を降り切って、息を殺しながら廊下の床板を踏む。この家についてより深く知っているのは”あっち”だからだ。綺麗にしてあるが古い屋敷だ。自分のような体重の重い人間が歩くと床がギシギシとわざとらしく音を立てる。
彼女は気配を消すのが上手い。いったいどこで身に着けた技術なのか。あの庭の隠し戸といい、この家は彼女の手にかかればまるで忍者屋敷だ。
背後に気配を感じた時には、既に背中から耳にまで伸びていた手のひんやりとした感触が自分の視界を静かに覆っていた。
「だ~れだ。」
「ハァ・・・。誰かな~?連理かな。いや幽霊かもしれない。」
「ふふ、意地悪~。」
「ビックリするので止めて下さい、蘭さん。」
「は~い。」
友人の母。夏と一緒に始まったこの密会の相手は、まるで自分がこの時間に降りてくることを見透かしていたかのように物陰に身を潜めていた。
「あんまり騒ぐと連理に気付かれますよ。」
「ドキドキしちゃうね。」
「あなたね・・・。連理のこと大好きな癖に。」
「当たり前でしょ~・・・。ん・・・。」
もはや合図も示し合わせもいらなくなったこの遊びはまるで会話の延長の、ちょっとした相槌みたいに始まってしまう。冷たい唇に大して驚くほど熱い舌が自分の唇の間に半ば無理矢理挿し込まれてくる。それだけでは無くて、舌を奥へ奥へと挿し入れようとする程に、彼女の腰から上の体重が寄り掛かってくる。こちらもこうなってからは彼女の腰のくびれ辺りを下から支えるように持つのが定型となったが、これをすると、彼女も興が乗って腰を自分の腰に押し当ててくるから、それだけは、自分が反応していることを気取られてしまうことが未だに少し恥ずかしかった。
彼女はこの家の壁の位置を全て把握している。だから、彼女が体重をかけてきた時にひと思いに彼女に身を寄せる方向を委ねてしまえば、気付いた時には、2人が寄り掛かってしゃがみ込めるような丁度都合のいい壁に抑え込まれてしまえるのだ。
「蘭さん・・・!なんか今日・・・圧が強い・・・!」
「だって昨日お預けだったんだもの・・・!」
偶に息継ぎの為に舌が離れるタイミングで進む会話。最初は水の中に潜るみたいな気分だった彼女とのキスも、すっかり手慣れてしまった。ただ、やはり舌や口や、その他の身体についても、普段はしないような動きで、終始相手の気を使っている緊張があるのは未だに疲れるというのが正直な所。少し息を整えたい。
「はっ、はっ・・・。夏休み前は今より少なかった・・・。」
「先週の楽しさが忘れられなくて。」
「もう連理がいるんですから。」
「そうね・・・。ねぇ、じゃあ、こっちも、触って。」
今日はまるでこの為に着ていたかのように、着物の衿を片手で擦り下ろし始め、衿の上辺の奥から、彼女の首から続く白い乳房と少し濃い紅色の乳首が姿を現した。今までに数回彼女と風呂に入る中で、彼女の裸はすっかり目に焼き付いてしまった。それはこの眼が覚えた彼女の、彼女も知らないかもしれない事の中に、彼女の左乳首の影に小さな黒子があるという事も含まれている。
「こんな昼間から廊下で?蘭さん、そんなに虐められたい気分の日なんですか?」
「ん~・・・。」
「そうやって黙ってたら分かんないですよ。ほら、僕は勘違いして、こんな事しちゃうかも。」
右手で露わになった乳房全体ではなく、その先端で恥ずかしそうに突き出ている赤いポッチを摘まみ、それを力点支点にして彼女の乳を少し吊り上げて見せた。やっと上向きになってこちらと目を合わせた乳首のくぼみの首元にチラリと見える黒子を勝手に楽しんでいる。
「ん!んん・・・。」
彼女とは再三、嫌な時は嫌と言うと示し合わせている。だからこの反応なら、まだ大丈夫。試しに指先の辺りに息を強めに吹きかけて見る。
「あ!あひゃ!んっ・・・」
「あ、声上げないで。」
「ごめんね。くすぐったいの。」
「ほら、口。」
口を口で塞ぎ合う。右の掌底で底から持ち上げるようにした乳房の先端を親指と中指で摘まむと、丁度自由な人差し指の腹の部分が彼女の一番敏感な部分をくすぐれるような形になる。
上から下、指先の指紋が作る超微細の凹凸を彼女の柔らかい肉にそっと這わせ、擦り、終わりの名残惜しさを味わわせないように爪先で弾き落す。反対に下から上への帰り道は、彼女の下側の角をこそぐように、硬い爪の甲を滑らせながら弾き上げる。
口の間から時折漏れる涎にまみれた彼女の吐息は、まさにこの指先の刺激が産むくすぐったさのリズムに呼応していた。空気の震えとしての吐息は彼女の舌を伝って自分の口腔へと伝播する。その痺れるような震えが今までに味わった事の無い感覚で、少し面白いと、楽しいと感じれてしまうのは、今の自分も、こうした彼女の色気にすっかり羞恥の感覚が麻痺してしまったのか、それとも、彼女が終始自分に訴えかけ、はたまたねだるように媚びてくるこの被虐の性に、中てられているのか分からない。
「蘭さん。」
「な、なぁに?」
「こっちも、どうかな・・・。」
「えぇ・・・?」
蘭さんが感じただろう下腹部の違和感に、見下ろした先にある押し付けられた左手を見つめる少し寂しそうな表情には、いったいどんな意味があったんだろう。
首に回されていた両腕は降り、左右から身体の間に潜り込むようにしながら腹を撫でる左手が優しく握り包まれたのを見た。
「アンリ君。」
優しく、まるで隠し事を告白する幼子のような囁き声が耳をくすぐった。
「いっぱい気持ちよくして下さい。」
着物の切れ間に、腕を刺し込む。
既に濡れていた。すっかり生温かく湿った下着の生地を撫でると、生地ごしに彼女の毛の層が、素肌の感触をこの手から守らんとするように硬く連なって感触の邪魔をしてくる。しかし、そんな抵抗も虚しく、彼女自身がドロドロと滲ませているつゆが確実に指先を湿らせている事が薄暗がりのさらに奥で、彼女の脚の間の温度から感じる事ができた。
指を布地越しに滑らせているうちに、濡れた生地が微かに食い込むのと、そんな些細な事にも大袈裟に悶える彼女の脚や身体が余計に、感じている、という事実を誇張させ、毛の向こうにある肌の凹凸が、造形が、次第に手の平から触覚信号を伝って前頭葉に浸透してきて、それまでの緊張と焦り、そして暗霧のようだった不安の中にも、ぼんやりと白く輝く終着駅のイメージを写し出したように感じた。
「邪魔だな・・・。」
「恥ずかしいよ・・・。」
「そうですね。」
「もう・・・。」
突然、彼女が首すじに噛み付いた。一瞬、首という致命の部位に彼女の硬い歯が当たった事に全身の血の気が引いたが、それ以上に強く噛まれる事もなかった。彼女が色々な感情を押し殺す為に行った甘噛みは寧ろ、今の自分に重くのしかかっていた背徳感に対する、甘い贖罪のようで、またその奥から伸びた舌が今、彼女の口内にある自分の首の皮膚を涎で濡らしながら、子猫のように舐めている感覚が、恐ろしく自分の快感を刺激した。
「入れますよ。」
薄い下着生地の上辺の縫い線を探り当て、摘まみ上げ、恐ろしく熱い蒸気の漏れ上がった隙間に、そっと濡らされた手を滑り込ませた。
彼女の股はもう見た事がないものではなかった。今まで数度風呂に入る度に警戒心を薄めていく彼女は、よく湯舟に浸かる為に浴槽の縁を跨ぐ時や、身体を洗ってくれる時に目の前で屈まれた時や、それか、興が乗った彼女のちょっとした悪ふざけの時に、まぁまぁ鮮明な光景として脳に刻み込まれていた。自分という思春期の少年の価値観を刺激し固定するには十分すぎる程には。
しかし、触った事が無かったというのが、今までの彼女との関係性の中で一番の心残りだったという事を、やっと告白できる。彼女と僕の関係性の中には、遊びとしての規定の上でも、恐らく彼女の絶頂という要素が抜けていた事は、この関係もそこそこという頃には気付いていた。彼女はもっぱら、僕を愛玩性のものとして扱おうとしていた。だから、こちらが彼女に催淫されすっかり猛ったモノを差し出した時も、彼女は精々キスや、乳首や耳穴への愛撫もほどほどに自分を射精させ、その声を押し殺してビクビクと痙攣している様を愛おしそうに眺めるだけだった。
自分はそれが少し情けなかった。そして、同じく対等な人同士として、快楽を共有するのであれば、彼女もまた自分のように堪らない恥辱の快感に身を痺れさせることに道理があり、何より、彼女にはそうする権利も、自分にはそれをさせる義務すらあると、ずっと彼女に伝えたかった。その時がやっときたのだ。
「ぼくは蘭さんにずっとこうしたかった。」
「ん、わかってたわ。わかってたわよ。でも、怖くて。」
「なにが怖かったんです?」
「あなたが、今までの人たちみたいに抑えなくなったり・・・」
「なったり?」
「あなたみたいな子供に負けるのが情けなくて。」
刺し込んだ中指に当たった、なんだか硬くて小さい豆のようなものを強めに押し込んでみた。
「んぁ!」
「ここ、好きそうだなって、前から思ってたんです。」
「・・・ん~ん。」
さらに指先で弾いてみた。
「ん!ん!ぉぉ・・・。」
彼女がずっと隠したかったんだろう、本当に情けない本能性の動物のような喘ぎが口から鈍く漏れ出るのを、しばらく続けて楽しんだ。漏れ出たのは声だけでは無かった。彼女の股から落ちるヌメリを持った液体は、更に量を増し、滴ったのは余計に下着の内布を濡らしているようだった。
「なんか思ってたより凄い・・・。」
「だから言ったのに・・・。」
もっと細かく見て見たいと思った。
「・・・そういえば僕、便所に行く筈だったんですよ。」
「・・・ん。」
「その返事は・・・?」
「もう。」
内股な蘭さんに歩調を合わせて、大きな足音を立てないように廊下を歩いた。
◇
「もうここなら2人っきりですよ。」
「はぁ、やっと脱げる。」
「僕が見てるのに。」
「あなたにはもういいの!」
「じゃあ、見せて下さい。」
「着物が・・・。」
「持ってますから。」
「・・・じゃあ、パンツ脱いだら腰の辺りまで上げてね。」
蘭さんは内股なまま腰を曲げて、如何にも脱ぎづらそうにグショグショになったパンツを隅の方に脱ぎ落とした。恐らく真っ白だったんだろうその布切れは、もう彼女のなんやらで、濡れ雑巾のような薄暗さの塊に化けていた。
「じゃあ・・・着物を・・・」
何を緊張しているんだろう。いや、何度だって緊張するんだろう。彼女の薄手の着物地の裾を掴んで、左右に開くように持ち上げる。
着物地は、やはりワンピースのような服と比べると生地が重たく、なによりこの夏の季節にはよく蒸れる。そんな分かり切っていた事の実感が今更強く思い出される熱気を顔に浴びながら、彼女の濡れた股を拝んだ。
「凄い濡れてる。」
「涼しい・・・。」
「蘭さんはどう弄るのが好きなんですか?さっき自分が弄ってたのは多分。」
「もうアンリ君、ちょっと落ち着いて。それに私、」
「どうかしました?」
「実は、さっき君にいきなり刺激されたせいで・・・ちょっと、催しちゃって・・・。」
「・・・蘭さん蘭さん。」
「・・・なぁに?」
「見せてください。」
「・・・裾、持ち上げててね。」
「はい。」
和式便器に跨った彼女は、顔の向きを戸口側、自分の方に向けた。臍の下辺りまで着物を捲り上げられている彼女の秘所を彼女自身が隠す術はもうないのだという事に、背筋と股間をくすぐられるような甘い震えが来て、自分は過去一番くらい起っていた。彼女も今まで見せた中で一番の赤ら顔を見せてくれている。さっきからの絡みでいつの間にかに乱れたお団子髪も、それを見て初めて、その状態の放つ底知れないいやらしさに気付かされた。
「どうしようアンリ君!」
彼女が見開いた目でこちらに焦った顔を向けて来た。
「私、男の子に見られちゃってる!」
「それ僕に言いますか?今までだって散々お股見せてくれたじゃないですか。」
「そうだけど!」
「僕嬉しいです。蘭さんの可愛い所いっぱい見れて。」
「可愛くないよ!」
「いいや、可愛いね。蘭さんの何でも可愛い。」
「・・・後でいっぱい虐めてやる。」
「そしたら僕も、もっと蘭さんの恥ずかしい所見ますね。」
「くぅん、意地悪。可愛くない。」
「可愛いですよ。蘭さん。」
「・・・出るっ。」
2人の足元から、浅い水面に当たり弾ける音の連続が、狭い室内に響いた。冷たいタイル貼りの1畳の程の空間に乱反射する蘭さんの放つ水音は、石に低周波を吸収され、まるで小さな木魚が連鎖して打ち鳴らされたような涼し気な音色を、呼吸の深まる鼓膜に打ち付ける。
「・・・。んっ。・・・。出た。」
「偉い偉い。」
「ふん・・・!」
「蘭さん。」
蹲踞したまま、まだ股から数滴の雫の余韻を垂らしている彼女の額に唇を付けた。
「舌噛んでやるっ。」
「ど~ぞ。」
本当に噛んでくるかも、なんて気が回った頃にはもう彼女に差し伸ばしていた舌に来たのは、甘噛み程度の歯の感触と、その後の、舌を唇で食んで吸う柔らかさだけだった。
「あんはん、きおちいいい。」
「・・・これ、エッチ。」
「そおえすか?」
「しばらくできる?」
「あい。・・・あ~。」
「ん。」
舌を伸ばすと何故か目を閉じてしまう、という自分の癖に気付いた。しかし目を閉じると、舌先を挟んできたり、柔らかいものが押してくすぐってくる感触がよく伝わって、気持ちが良いというより、楽しい感覚が強かった。そうして舌先への集中が一先ず済むと、今度は肩を揺らす彼女の身体の揺れに気が付いた。
「蘭さん?何かしてるんですか?」
「・・・え、あ、ん・・・。ちょっと待って今終わるから・・・。ん・・・。んん。」
「自分でしてるんですか?」
「君がさっき乱暴にするから、ムズムズしちゃって。」
「蘭さんだけズルい。」
「ごめんね。」
「じゃあ、僕の舐めてくれます?」
「えぇ~、・・・お風呂に入った時に、綺麗にしてからがいいなぁ。」
「たしかに。」
「ね?」
「うん。あっ、じゃあさじゃあさ、蘭さんの見せて。」
「私の・・・?」
「・・・イくところ。」
◇
「・・・ん?遅かったな。アンリ。」
「あぁ、ちょっとデカい方が。」
「言わんでいい。」
「それより、階段の下でお前のお母様と会ってな。」
「母様と?それで?」
「これ、君たちで食べて良いってさ。」
「あっ!北乃屋の饅頭!」
「お前ずっと机に齧りついて疲れないのか?お茶にしようぜ。俺も疲れた・・・。」
「お前は便所に行っただけだろう。」
「まぁそう言うなって。」
「・・・母様とは・・・何もなかったか?」
不意に質問が来た。
「・・・別に何も?どうかしたのか?」
「いや、ならいいんだ。饅頭にしよう。」
「あぁ、饅頭にしよう。」
今の連理は何を疑ったのか。それは果たして、ちょうど俺の知っている事なのだろうか。
茶に流そう。
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