第11話

第11話: 揺らぐ王位継承


**次の一手を考えるサイル**


サイルはリリアーナから得た情報と、自身で集めた証拠を整理しながら、次の行動を練っていた。ロドルフ伯爵たちが密かに推している「傀儡の王候補」が誰であるかはまだ明確ではないが、彼らの陰謀の輪郭が徐々に見えてきた。彼らは王の弱体化を利用して、裏から王国を操ろうとしているのだ。


「次の王位継承を巡る陰謀か……放っておけば、国は崩壊の危機に陥る」


サイルは机に広げた地図を見つめながら呟いた。彼の脳内に響くAIの声が、いつものように冷静に状況を分析している。


『サイル様、今後の行動にはさらに慎重さが求められます。ロドルフ伯爵の周囲には、彼を支持する貴族たちが多く存在します。彼らが陰謀を成功させる前に手を打たねばなりません』


「わかっている。しかし、今はまだ表立った行動を取るべきではない。敵の裏をかくには、まず内部の情報をもっと正確に掴む必要がある」


サイルはAIの助言を受けつつ、これまで以上に慎重に動く決意を固めた。ロドルフ伯爵に対して表立って対抗すれば、敵の手の内を警戒させることになる。それを避けるため、次の手はさらに裏から打つべきだ。


**リリアーナの提案**


そんな中、リリアーナが再びサイルのもとを訪れた。彼女は以前よりもさらに緊張した表情を浮かべ、何か重大な情報を伝えようとしていることが明らかだった。


「サイル様、急を要する話があります。ロドルフ伯爵がいよいよ次の王候補を公に押し出すつもりです。彼の支持を受ける貴族たちも増えており、反対する者たちは次第に追い詰められています」


「……ついに表に出るのか」


サイルは冷静に応答しながらも、内心でその動きに警戒を強めた。ロドルフ伯爵が具体的な候補を明かせば、王都全体が混乱に陥る可能性がある。彼はそれを利用して、王座を巡る権力争いを一気に加速させるつもりなのだ。


「リリアーナ、伯爵が推している王候補の正体は掴めているのか?」


「……それが、まだ確実な情報ではありません。ただ、噂では王家の遠縁にあたる人物だと聞いています。その者は過去に何度も問題を起こしており、王の血筋を持ちながらも政界から追放されていたはずです」


サイルは眉をひそめた。王位継承の問題は繊細であり、血統だけで王になることはできない。だが、ロドルフ伯爵はその弱点をも利用し、王国全体を影で支配しようとしている。


『サイル様、もしその人物が傀儡として選ばれれば、王国の秩序は大きく崩れる可能性があります。彼らが手を打つ前に、我々が動くべきです』


AIの声は理性的でありながらも、迅速な対応を促している。サイルは一瞬考え込み、リリアーナに向き直った。


「わかった。こちらでも情報を探ると共に、王都での動きを監視する。君は、引き続き伯爵の動きを追ってくれ」


「了解しました。どうか気をつけてください。彼らはあなたの存在を既に警戒しています」


リリアーナは静かに去っていった。彼女もまた、この陰謀に巻き込まれながらも、サイルと共に戦う決意を固めている。サイルはその背中を見送り、深い息を吐いた。


「……次の一手が重要だな」


**宮廷での策略**


その後、サイルは王都の宮廷で行われる会議に参加するために、招待を受けて城へと向かった。この会議には、国の重要な貴族たちが集まり、今後の国の方針を話し合う場となる。ロドルフ伯爵も当然出席することが予想されており、ここでの発言が今後の展開に大きな影響を与えるだろう。


サイルが宮廷に到着すると、すでに多くの貴族たちが集まっていた。彼は慎重に周囲を観察しながら、AIの支援を受けて敵の動向を探った。


『サイル様、会議の議題は王位継承に関するものが中心です。ロドルフ伯爵が何か仕掛けてくる可能性が高いです』


「わかっている。こちらも警戒を怠らずに動こう」


サイルは宮廷の中央に進み、着席した。目の前にはロドルフ伯爵が堂々と座っており、他の貴族たちと談笑している。伯爵の表情には余裕があり、まるで全てが彼の計画通りに進んでいるかのようだった。


やがて会議が始まり、議題に王位継承問題が上がると、場内に緊張が走った。貴族たちはその話題に対して慎重な態度を見せつつも、誰が次の王になるべきかという意見を戦わせ始めた。


「王国の安定を保つためには、確固たる血筋を持つ者が王位を継ぐべきだ」


「だが、今は戦時中だ。王国を守るためには、力強い指導者が必要だ」


様々な意見が飛び交う中、ロドルフ伯爵は静かに立ち上がり、貴族たちに向けて口を開いた。


「皆様、確かに王位継承は重要な問題です。しかし、我々は王国の未来を見据えて行動すべきです。次の王には、王国の発展を約束できる者、そして民の支持を得られる者が必要です」


その言葉に、貴族たちは耳を傾けた。ロドルフ伯爵の発言は、一見すると理路整然としており、正論のように聞こえる。しかし、サイルにはその背後にある意図が透けて見えた。


『サイル様、彼は確実に自分の推す王候補を公にするつもりです。警戒してください』


サイルはAIの声を聞きながら、冷静に伯爵の動向を見守った。伯爵が次に言葉を発するその瞬間が、すべてを動かす鍵となる。


「そして――我々が支持すべき王候補は、かつて王家の血筋を引きながらも、不遇の運命を辿った者です。彼は再び王として立ち上がるべき時が来たのです」


ロドルフ伯爵がその言葉を発した瞬間、場内は静まり返った。彼が推す王候補が、誰もが一度は知っているが、忘れられていた存在であることが明らかになった。伯爵はその名を口にしなかったが、貴族たちはざわつき始めた。


**サイルの決断**


その時、サイルは静かに立ち上がった。全員が彼に視線を向ける中、サイルは冷静に口を開いた。


「確かに、王位継承は我々にとって最も重要な問題です。しかし、この場で軽々しく話し合うことはできません。王国を導く者には、血筋だけではなく、国を守り、未来を切り開く力が必要です。その力を見極めるためには、慎重かつ冷静な判断が求められます」


サイルの声が静かに響き、宮廷内に緊張が走った。彼の発言は、ロドルフ伯爵の意図に対する冷ややかな牽制であり、他の貴族たちに冷静な思考を促すものだった。


「王位を巡る議論は重要です。しかし、民衆が支持しない者が王座に就けば、それこそ混乱を招くでしょう。私たちの役目は、この国の民を守り、彼らの声を代弁することではないのですか?」


この言葉に一部の貴族たちが頷き始め、ロドルフ伯爵に同調する者たちの勢いが僅かに揺らいだ。サイルの言葉は、王国の将来を真に見据えた冷静な指摘であり、その鋭さが伯爵を少しだけ押し返していた。


「それに、今こそ王都だけでなく、全土の意見を集めるべきです。今後の王位継承について、王国内の貴族、そして民衆に向けたより広範な対話が必要だと考えます」


サイルはあえて、自らの立場を表明することで、王位継承問題を彼一人の対立ではなく、王国全体の課題として再定義した。これにより、ロドルフ伯爵が単独で推す候補者に対する反発を和らげつつ、時間を稼ぐ狙いがあった。


『サイル様、この発言により、王国全体を巻き込む議論へと発展する可能性があります。それによって、ロドルフ伯爵の影響力を削ぐことができるでしょう』


AIの冷静な分析に、サイルは内心で頷いた。伯爵の計画は一時的に停滞するかもしれないが、彼が簡単に引き下がるとは思えなかった。


**伯爵の反撃**


ロドルフ伯爵はサイルの発言を静かに聞きながら、口元に微笑を浮かべた。そして、再び言葉を発した。


「サイル殿の言うことはもっともです。確かに、王国全体の声を聞くことは大切でしょう。ですが、この国を守るためには、決断の遅延は致命的です。王国を今すぐにでも導く強力な指導者が必要なのです」


彼はあくまで冷静に、そして堂々とサイルの発言を受け流し、自らの立場を強調した。ロドルフ伯爵は、自分の立場がまだ揺らいでいないことを確信しているかのようだった。


「それゆえ、我々は新たな王を選ばねばなりません。サイル殿が述べた対話も重要ですが、今は即決力が求められています。次の王が決まらなければ、国が混乱に陥る危険があるのです」


その言葉に、また一部の貴族たちは頷き始めた。伯爵はサイルの発言を封じ込めつつ、自らの主張をさらに強化していた。


『サイル様、ロドルフ伯爵は時間の猶予を与えないつもりです。ここでの行動が次の展開に直結します』


AIの警告にサイルは短く頷き、冷静に口を開いた。


「確かに、即決力は重要です。しかし、その決断が誤れば、王国は崩壊の危機に陥ります。だからこそ、私たちは慎重に、そして責任を持って次の王を選ばなければならないのです。王座に就く者には、民の信頼と支持が不可欠です」


サイルの言葉に、会場は再び静寂に包まれた。ロドルフ伯爵が次の一手をどう打つか、全員が息を呑んで見守っていた。


**決断の時**


その時、会議室の扉が開き、一人の使者が静かに入ってきた。彼は王からの使者であり、その表情には緊急性が感じられた。


「皆様、王より伝達があります」


会場が緊張に包まれる中、使者が王の言葉を伝える。


「王の容態が急変しました。すぐに王の御前に集まるよう、命が下されました」


その言葉に、全ての者が立ち上がった。王位継承の話が進む中、最も重要な存在である王が崩れ落ちようとしている。


「ついに……」


サイルは静かに呟き、王のもとへ向かう準備を始めた。この瞬間、王位継承問題が一気に加速することは明らかだった。ロドルフ伯爵の陰謀は、ここからさらに表に出るだろう。


**王の最期に向けて**


サイルは急ぎ王の寝室へと向かいながら、AIに対策を求めた。王の死が迫れば、ロドルフ伯爵たちが即座に行動に移ることは間違いない。その前にどう動くかが、サイルにとって重要な局面だった。


『サイル様、王の崩御が確認されれば、ロドルフ伯爵が候補者をすぐに押し出すでしょう。彼らの計画を阻止するには、今が最も重要な瞬間です』


「わかっている。王の最後の決断に立ち会い、その瞬間に動くしかない」


サイルは王の寝室に急ぐ中、胸の中に静かな覚悟を抱いていた。この瞬間こそが、王国の運命を決する最も重要な瞬間だ。彼のAIスキルを駆使し、これからの陰謀を打ち破る手を考え続けていた。


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