第10話
第10話: 動き出す陰謀
**リリアーナとの再会**
サイルはリリアーナとの約束通り、再び彼女に接触するため、王都の外れにある小さな屋敷を訪れた。彼女は前回と同じく黒いフードを被り、影のように現れた。その顔には強い決意が浮かんでいたが、サイルには一瞬の迷いが見えた。
「サイル様、来てくれて感謝します。今こそ、次の一手を打つ時が来たと感じています」
サイルは彼女の言葉に耳を傾けながら、彼女が何を見据えているのかを探ろうとしていた。リリアーナは確かに有益な情報を持っているが、全てを明かしているわけではないという感覚が拭えない。
「前回の話から、さらに何か進展があったのか?」
サイルの問いかけに、リリアーナは頷いた。彼女はポケットから一通の書簡を取り出し、サイルに手渡した。
「これは、ロドルフ伯爵が送ったものです。彼が裏で王国の一部の貴族と結託し、さらに大きな陰謀を進めている証拠となります」
書簡には、複数の貴族たちが何やら秘密の集会を開いていることが記されていた。内容は曖昧だったが、そこに記されている名前には有力な貴族たちが名を連ねていた。
「この集会が彼らの陰謀の中心というわけか」
『サイル様、これらの貴族が一堂に会すること自体が非常に異例です。ここで何か大きな計画が進んでいることは確実でしょう』
AIの冷静な声にサイルは頷き、リリアーナに向き直った。
「彼らの計画がどのようなものかを知る必要がある。だが、彼らが密かに動いていることを踏まえると、近づくのは危険だ」
「それを承知の上で、私はこれを渡したのです。彼らが何を企んでいるかを暴かねば、王国は取り返しのつかない事態に陥るかもしれません」
リリアーナの目には確かな覚悟があった。彼女もまた、命を懸けてこの陰謀を暴こうとしているのだ。
「わかった。彼らの集会に近づき、動向を探る。それが最善の手だろう」
サイルは決意を固め、リリアーナの目を見据えた。彼女の信頼を完全に得たわけではないが、この陰謀に対抗するためには彼女の情報を最大限に活かす必要があった。
「準備はできている。だが、君も気をつけるんだ。今後は、君自身も狙われる可能性がある」
リリアーナは静かに頷き、再びフードを深く被った。
「私は気をつけます。しかし、あなたも同様です。彼らはあなたの動きを既に察知しているはずです」
**集会の真実に迫る**
数日後、サイルはリリアーナから得た情報を元に、貴族たちが集まるという場所へと向かっていた。集会は、王都の少し離れた場所にある古い城で行われるという。
サイルはその城に向かう道中、AIの声に耳を傾けていた。
『サイル様、この集会に参加することで敵の動向を掴める可能性があります。しかし、彼らは警戒しているはずです。慎重に行動しなければ、こちらの存在が露見する危険があります』
「わかっている。まずは、彼らが何を計画しているのかを確かめることが先決だ」
サイルは城に近づくにつれ、周囲の警戒を強めた。AIは周辺の状況を逐一スキャンし、どこに警備が配置されているかを把握しながらサイルを導いていく。
城の近くには重い鉄の門がそびえ立っていた。サイルはその門の外から状況を確認し、密かに城の中へと侵入することを決めた。AIの支援によって、監視の目をかいくぐり、城の内部に足を踏み入れる。
**影の集会**
城の廊下を進むと、やがて低く囁き合う声が聞こえてきた。サイルは静かにその声の方へと向かい、重い扉の隙間から中を覗いた。そこには、ロドルフ伯爵をはじめとする貴族たちが数名、暗い部屋の中で集まっていた。
「……王がもう長くないことは明らかだ。だが、次の王が誰になるかによって、この国の未来は変わる」
ロドルフ伯爵の声が響く。サイルは息を飲みながら、彼の発言に耳を傾けた。王の健康が悪化しているという噂は聞いていたが、それが真実だとすれば、彼らは次の王位継承を巡って動いていることになる。
「我々は、新たな王にふさわしい者を選ばねばならない。タイド帝国の脅威が迫る今、この国を強く導ける者を……」
貴族たちは互いに同意を示しながら、さらに議論を進めていた。彼らは国の未来を左右する重要な決定を、この密会で行おうとしているのだ。
『サイル様、このまま集会を監視し続ければ、彼らの狙いが明確になります。しかし、危険が高まる前に引き上げることも考慮すべきです』
AIの助言に、サイルは瞬時に判断を下した。これ以上近づけば、見つかる危険がある。だが、彼はもう一つの手がかりを得るために、リスクを取ることを決めた。
「次の王候補については、すでに決めている。我々の支援を受ける者が玉座に座るだろう」
ロドルフ伯爵がそう言った瞬間、サイルは彼の目線を追った。そこには、まだ顔を見せない一人の貴族が立っていた。その人物こそが、彼らが王位に据えようとしている「傀儡」の可能性が高い。
**敵の気配**
その時、突然背後から気配を感じた。サイルはとっさに振り返り、警戒の構えを取った。だが、そこには誰もいなかった。AIも異常を感知していない。
『警戒は怠らないでください、サイル様。敵の動きは予測不能です』
サイルは気を引き締め直し、城を離れることを決断した。これ以上の滞在は危険だ。彼が城を出るまでの間、AIのサポートがなければ見つかっていたかもしれない。
城を離れたサイルは、その夜静かな場所に身を潜め、手に入れた情報を整理し始めた。次の王位継承を巡る陰謀――それが、ロドルフ伯爵と彼の仲間たちが動く理由だ。そして、その裏にはタイド帝国の脅威も絡んでいるのだろう。
「次の王を彼らが操ろうとしている。だが、それは許さない」
サイルは決意を固め、次の行動に移る準備を始めた。このままでは彼らの思惑通りに進んでしまう。彼の持つAIスキルを最大限に活かし、この陰謀に打ち勝つための手を打たなければならないのだ。
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