第3話

第3話: 危機の訪れ3


**トクス領の城門前**


タイド帝国の軍勢が、いよいよトクス領の城門に迫っていた。荒々しい軍旗がはためき、無数の兵士たちが鉄の鎧をきしませながら整然と進軍してくる。彼らの規律と力強さは圧倒的で、城壁からその光景を目の当たりにしたトクスの兵士たちは、口を硬く結び、緊張の色を隠せなかった。


「ついに来たか……」


サイルは城壁の上からその様子を見下ろしながら、心を落ち着けようとしていた。タイド帝国の兵士たちは2,000を超えており、彼らの数と装備はトクス領の小規模な軍を凌駕している。普通であれば、これだけの差で戦うのは無謀としか言えない。


だが、サイルにはAIスキルがあった。前世の知識と、この世界で手に入れたAIの力を駆使すれば、打開策はあると信じていた。


「アルバート、兵士たちに気を緩めないよう伝えろ。敵は数に物を言わせてくるだろうが、ここで動揺すれば終わりだ」


「承知しました、サイル様!」


アルバートはその場で兵士たちに指示を出し、サイルもまた、頭の中に響くAIの声に耳を傾けた。


『サイル様、タイド帝国の進軍は戦術的に洗練されています。彼らの狙いは、おそらく城門を破り、内部へ一気に侵入することにあります』


「確かに、あの勢いではすぐに城門を破壊されかねない。どう防ぐべきだ?」


『敵が城門に到達した瞬間に反撃を仕掛けるのが最適です。彼らが攻撃に集中するタイミングを見計らい、油を使った防衛策や、弓兵による一斉射撃で混乱を狙うべきです』


「城門の上から油を流す……なるほど、それで彼らを焼き尽くすというわけか」


サイルは即座に城内の指揮官たちに指示を出した。


「城門に集結する敵に対して油を準備しろ! 敵が門を叩き始めた瞬間、一斉に油を流し、火を放て! 弓兵も同時に準備を整えるんだ」


兵士たちはすぐに動き始めた。城壁の上に大きな壷が次々と運ばれ、油を満たした壷が並べられる。弓兵たちも城壁に整列し、敵の動きに集中していた。


**タイド帝国の攻撃開始**


タイド帝国の兵士たちが、ついに城門に到達した。彼らは巨大な破城槌を持ち、城門を打ち破ろうとしていた。重い音が響き渡り、城内の兵士たちがその音に不安を覚える。


「冷静に対処しろ……敵が門に集中した瞬間がチャンスだ」


サイルは自らに言い聞かせながら、AIの指示に従い、反撃のタイミングを見極めていた。


『敵の集中が最高潮に達しました。今です、サイル様』


「今だ! 油を流せ!」


サイルの指示と同時に、城壁の上から油が一気に流し込まれた。タイド帝国の兵士たちは突然の出来事に驚き、動揺する。油にまみれた兵士たちに対し、次にサイルが放った指示は――


「火を放て!」


弓兵たちが火矢を放ち、油で覆われた敵兵に次々と炎が引火した。炎は瞬く間に広がり、悲鳴とともにタイド帝国の前線が混乱に陥る。破城槌を持っていた兵士たちも、後退を余儀なくされた。


「よし、この隙に弓を撃ち続けろ!」


城壁の上から放たれた矢は次々と敵兵に命中し、タイド帝国の兵たちは慌てふためきながら退却し始めた。混乱を利用して、トクス領の兵士たちはさらなる反撃を加えていく。


「うまくいった……!」


サイルは息をつき、AIとの連携が成功したことを実感していた。しかし、安心するにはまだ早い。


『サイル様、敵軍は再編成を図っています。間もなく新たな波が押し寄せてくるでしょう』


「やはりか……数の優位は変わらない。次の手を考えなければならない」


サイルは焦らずに次の策を練り始めた。タイド帝国は一時的に退却したものの、彼らの圧倒的な兵力は依然として脅威だ。ここでさらなる混乱を引き起こし、持久戦に持ち込むことで、援軍が到着するまでの時間を稼ぐ必要があった。


**新たな局面――タイド帝国の司令官の登場**


その時、敵陣から一際目立つ騎士団が進み出た。彼らの中央には、重厚な鎧を纏い、黒いマントを翻す一人の男が馬に乗っている。彼はサイルの目にも明らかに普通の兵士とは違う威厳を持っていた。


「彼は……?」


サイルがその男を見つめると、AIがすかさず反応した。


『確認しました。あの男はタイド帝国の司令官、ガルバス・タイド。タイド帝国の皇族の一員であり、数多くの戦いで勝利を収めた歴戦の猛将です』


「ガルバス・タイド……!」


サイルはその名を聞き、状況がさらに厳しくなることを悟った。敵の司令官が自ら前線に立つということは、彼らが本気でトクス領を落としに来ている証拠だ。


「タイド帝国の本気か……だが、俺も負けるわけにはいかない」


サイルは冷静さを保ちながらも、心の中で覚悟を固めた。これから繰り広げられる戦いは、AIと共に築いてきた戦略が本当に通用するかを試されるものになるだろう。


「次の戦略を考えるぞ、AI。俺たちの命運がかかっている」


『もちろんです、サイル様。最適な戦術を引き続き提案いたします』


敵の圧倒的な数と猛将ガルバスを前にしても、サイルの心は揺らぐことはなかった。前世の知識と異世界のAIスキルを駆使し、この戦いを必ず切り抜ける――その強い決意が彼を突き動かしていた。


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