学校にて

第10話 徒歩で向かう

 オレにもやりたい事はある。


 ある日、背中ら翼を生やした種族である有翼人の配達員が、家に来て手紙を置いて行った。内容は魔法学校の校長からのちょっとした報せ。校長相手からに手紙といっても、別に重要なやり取りをしているワケでは無い。むしろ手紙のやり取りをする位には親しい関係だと言える。

 そして肝心の手紙での報せというのも、学校の図書室に新しい本を入荷したので読みに来ないか、というものだ。本に関心が無いヤツには大した事では無い事だが、オレのとっては結構大事だ。


 本は一般家庭で置かれる事は無い。理由は本という品物の量産方法がまだ確立して無いからだ。今でこそ紙自体は雑貨屋で並んでいるが、ソレを束ね文字が書かれた書物というものは珍しく、特に辺境であるこの村では触れるどころか目にする事だって貴重な事だ。大きなまちの方でも買うと結構な値段をすると聞く。考えればよく図書室を造れるだけの量の本が集められたものだ。《

 そんな現状の本事情だが、オレは本の読むのが趣味だ。ヒマがあれば直ぐにページを開き集中して食事を疎かにする位には熱中してしまう。日が落ちても読み続けた事もあるから、ソコはよくカナイに叱られた。

 面白いから読む、とかでは無く読む事自体が好きだ。だから本の内容自体はなんでも良い。本を読んで内容を覚え、知恵を増やすのは得な事だ。なので家に本を置けないのが不満だ。早く本を自由に外に持ち出せる時代になって欲しいものだ。

 そんな個人的な希望よりも、新しく入荷した本だ。どんな物か早く読めるなら読んでみたい。早速出かける準備したら案の定アサガオも一緒に行くと言い出した。わかっていた事だし、学校の中なら警戒する事も無いだろう。アサガオにも支度をさせ、出掛ける事にした。


 行き先である魔法学校は今いる西の大陸の北西の土地、畑以外には目立つものも無い一言で言えば田舎だ。しかも大陸の中で大きい街は2つ位しかなかったハズ。そんな現状だから、学校という施設があるのはこの大陸の中じゃ珍しい事だ。

 魔法学校と銘打っているが、魔法を教える以外にも児童に文字の読み書きを教えたりと、教育に関した事は大体やっている。手紙に書いてあった学校の図書室も一般向けに常時開放している。だからアサガオを学校に連れて行っても問題は無い。

 さっき説明したが、本を置ける環境は増えつつあるが、それでも貴重品には変わりない。そんな本を一冊や二冊どころか大量に置ける図書室を良く作れたとオレは感心する。

 ただ1つ不満があるとするなら、学校が建っている場所が家がある場所から村を超えた先の郊外にあるという事だ。オレが住んでいる家から大分距離が離れていて、移動が億劫だが本が置いてある場所がそこだけなら行くしかない。

 そうしてジャリジャリと音を立てながら村に着き、次に村の向こうを目指して歩いた。アサガオは変わらずオレの後ろをオレよりも歩幅は狭く、足をオレよりも速く動かし着いて来ていた。アサガオの片手がオレの服の裾を掴んでいて離れる事は無いが、少し引っ張られて気になる。

 オレが通りすがりの村人と軽く挨拶をすると、つられてアサガオも手を振って返した。そんな事を村の中を進みながら続け、ようやっと村の反対側に出る事が出来た。途中村人から挨拶以外にもお節介と言う足止めを喰らったが、予測は出来たしある意味予定通りではあった。アサガオはまだ幼く年を2桁も生きておらず、オレ自身人間から見たらまだ14・15才に見えるらしいから世話を焼きたがると聞いたがそこだけが不本意だ。

 学校へと続く道は家から村へ続く道よりは整えらているが、林の中にそのまま道を引いているため開けた場所に出るまで目に入るのは木ばかりだ。動物の姿はほとんど無く、鳥が近くを飛んで鳴いているのが耳に入った。長閑のどかな空気で少し息を吐いた。

 そんなオレにアサガオが学校に着いたら何をするか聞いてきた。子どもってやたら質問してきたりするんだよな。慣れてるから良いけどな。

 質問にオレは本を読むと簡潔に答えた。次にアサガオはどんな本を読むか、と続けて質問をぶつけてきた。答えても答えても次々に質問し、時折自分はこうする、あぁしたいと話し当人は楽しそうにしていた。オレは一言返すだけにして基本的にアサガオの話を聞く側になる事が多い。まぁ自分から話す事も独り言を言う癖も無いが。

アサガオはお喋りだが、不思議とうるさくは感じない。鳥共のお喋りを聞くよりはマシに思っている。いつも一緒に過ごすためか、二人でいる時は本当に長閑に感じる。

 だからだろう、二人から突如三人に増えて喧しくなる。

 アサガオの話を聞いていると遠くから爆発音が聞こえた。学校に近づいているからそのせいだろうと軽く流していたが、爆発音が聞こえてからほんの少ししてから何かがオレの方目掛けて飛んできた。正確にはぶっ飛んできたんだろうソレを、オレはアサガオの話をする方に集中していたが為に避ける判断が遅れ、結果ほぼ顔面で受ける羽目になった。

 飛んできたソレの勢いが凄まじく、ぶつかってからソレと一緒に後ろに転がるように倒されて立っていた木にぶつかった。木がそれ以上転がるのを止めてくれたのは良いが、当然だがスゴく痛い。

 アサガオは何が起きたか理解出来ず呆けていたが、直ぐに驚いた表情になってオレの方に駆け寄った。オレに痛いかと心配そうに尋ねてくるが当然だし、出来ればぶつかった所を撫でるのは止めてくれ。そうして痛みと同時にぶつかってきたソレに怒りを覚え、オレは勢いよく起き上がりアサガオを軽く押し除けてソレを睨みつけ怒鳴った。


「起きろ!今度は何をした!?」

「うわっ!びっくりしたし痛い!」


 オレが怒鳴るのと同時にソレは起き上がり、状況が読めてない様な表情をしてからオレの方を見た。

 ソイツの肩まで伸びた木橡きつるばみ色の髪は、外に跳ねた髪質がオレにぶつかった衝撃かその前の衝撃のせいか更にヒドい跳ね方をしており、気付くとソレは手櫛で早く直した。全然直せてないが。アサガオは先ほどまでの心配そうな表情からソレを見て嬉しそうな表情に変えて挨拶をした。


「あっよく見たらシュロじゃん、ひさしぶりぃ!アサガオちゃんも!」


 呑気な面で言ってきたソイツに、とりあえず挨拶代わりに拳骨を一発入れといた。痛い!と文句を言ってくるが、痛くしたのだから当然だと返事してやった。

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