第11話 校内で読書

 突如飛んできてオレにぶつかったソレ、ファイパはこれから向かっている学校の制服の緑色のスカートを手で数回叩き付いた土を落とすと、オレに向き直り軽く謝罪をした。謝罪する前にオレが一個ファイパの頭にタンコブを生成した事をファイパは気にしてない。そりゃ会う度にオレに何かしらの被害を被らせてオレの説教や拳骨を喰らってきたヤツだから、日常茶飯事に一々目くじらを立てるヤツでは無かった。オレは毎回立てているが、ファイパはソレさえも気にしてない様子。


「で、結局何していきなり飛んで来る事態になったんだ?」

「うぅん…正直に言って怒らない?」

「事によってはお前のタンコブが二段になる。」

「えぇん。」


 結局原因は、魔法の実験を勝手に行った事による事故だ。この時点で拳骨確定になった。

 発端は魔法学校の生徒の誰かとファイパが出された課題である、『置いてある物二つの場所を魔法で交換する』というものをしようと試行錯誤していたハズが途中からヒトを魔法で動かそうとしだしたのだ。

 何やってんだ。結果は知っての通り、暴発してソレにファイパは巻き込まれ外までぶっ飛ばされオレに衝突したと。やっぱりろくでも無い事だった。って言うかよく生きてたな。オレもだけど。

 とりあえずファイパには拳骨はしないでおいたが、詫びは後でしっかりもらう事を約束した。オレとの話を終えてファイパはアサガオと手遊びし出した。ふと視線を落とすと松葉色をした膨らんだような見た目の『キャスケット』とか言う帽子が落ちていた。


「コレ、確かお前のだよな?」

「あっ!そうだそうだ、どうりで頭すずしいと思ったぁ!」


 ありがとーと軽い口調で言いながら、オレから帽子を受け取り被り直した。やっとファイパが見慣れた姿に戻ったところで、当初の目的である学校へと再出発する事にした。ファイパも当然学校に向かうため一緒に歩いて行く事した。


「今日はやっぱり図書室に用事で?」

「校長直々に報せが来たからな。最近動いてばかりで字に触れる機会が無かったし。」


 ファイパはオレの目的がわかっているから答えを予測出来ていた。だから深く追求もして来ない。コイツはこういう拝領を出来るのに普段の行動があんなだから、アイツが起こした事故やらイタズラを許せないでいる。とんだ爆弾だコイツは。


 そうこう話している内に目的の学校に着いた。ここらでは大きな建物だが、やはり大きな街にある施設と比べたら小さい方だろう。2階建ての大き目の屋敷といった印象を受ける赤レンガの建築だ。

 木造の重い両開きの扉に片手を掛けて、片方を開けて中に入った。軋んだ木の音を立てて中に入ると、一気に中の騒音が耳に入って来た。制服だから当然だが、ファイパと同じ服を着たヤツらが廊下を歩き目的の教室へと向かっている最中だったり、二人以上のヒトが廊下に立って雑談を雑談を交し合っていたりと自由に過ごしていた。

 この学校は従来の教育施設と比べると大分開けた印象を受ける。以前オレは魔法の基礎を学ぶためにこの学校で授業を受けたが、基礎を覚えた時点で学校自体からは卒業した身だが今も図書室目当てに通うのを許されている。

 今日は午後から授業が開始で、今学校内にいるヤツらはオレと同じく図書室で自習にし来たり、自発的に魔法の実験を行ったりする者がほとんどだろう。そうくるとファイパは後者か。おかげでヒドい目に遭った。


「あっファイパ帰って来た。おかえりー。」

「ただいまぁ。部屋今どうなってる?」


 たまたま目に入った生徒とファイパが話し出し、オレとの同行はここで終わりの様だ。オレは目的の図書室に行こうと向き直したが、いきなりファイパに腕を掴まれ引っ張られた。何事かと聞こうとしたがソレさえも許さない勢いで引きずられ出した。

そうして引きずられた先は、明らかに火気による現象で部屋全体が焦げた様子が見られる。


「うわー思ってたより派手にやってたなぁ。」


 そう言うファイパの声を聞いて、部屋から中の片付けをしていた生徒が数名出てきた。


「あっファイパ戻ってきた!」

「ホラ、お前も掃除手伝えよ!これマジで時間掛かっちまうって!」


 そう言ってファイパに掃除と片付けを要求してきた。この惨状はこの場にいるヤツらとファイパが作り出したもので合っているらしい。ファイパもやる気を出して腕まくりをしている。そもそも半そでだから腕まくりの必要が無いのだが。


「うん、これは早くしないとだめだね。よし…シュロ、椅子とかの片付けおねがい!」

「待て。」


 いきなり掃除の指示を受けて、オレはすぐさま抗議の姿勢になった。いつからファイパらの不始末の手伝いをする事になったのか、まったく納得がいかない、当然だ。


「おねがい!午後の授業はじまる前にここ片しとかないとまじで怒られる!

「俺からも頼む!今回はマジでやばいから!」


 他生徒からも手伝いを要求され、後の事を考えつつ仕方なしに手伝う事にした。アサガオはオレが言う前からとっくに手伝う気が満々といった状態でオレの横で待機していた。目じりを上げて顔が如何にもやる気が見られた。そんなアサガオの様子を見てファイパら他生徒が良い子!と感激してた。拝むまでしなくて良いから早く掃除やれ。


 そんなこんなで部屋の中を大体片す事が出来た。修復魔法覚えてからやたら修理を頼まれて、村でもよく日用品の修理を任される事があって慣れてはいるが、決してこんな共犯紛いに巻き込まれる為に覚えたものでは無い。


「ありがとーシュロ!さすがにあの状態は片付けるのしんどいから、ほんとたすかった!」

「…お前らの手伝いさせられたの、納得してないんだからな?」


 不満を言っても渇いた笑いだけされて流された。コイツら本当にヒトを巻き込んでいく事に関して熟練者だよ。ファイパと一緒に部屋を散らかしたヤツらは片付けが終わると礼を言い、ファイパに別れの挨拶を済ましてどこかに行った。説教されるのを察して逃げたな。こっちは逃走に関して熟練度高いな。

 オレもサッサとここから離れたいし、軽く挨拶を済まして図書室のある方へ廊下を歩いた。その後をアサガオが着いて来て、更にその後をファイパが着いて来て…なんで来るんだコイツ。


「いやぁ、ちょっと気分てんかんって言うかさ?別に課題が残ってる事を思い出してそれから逃げたいと思っての事でもなんでもないって言うかさぁ。」

「まんま答えを自白すんな。」


どっちにしろコイツ、あれこれ言ってオレの後着いて来る気だ。アサガオの我が儘がカワイく見えてくる勝手さだな。いつもの事だが。仕方なく着いて来ることを許可してやった。ソレで後に怒られても知らないし、その時は徹底的に他人の振りしてやる。


 そうして図書館に向かう中、すれ違うヤツら皆オレに挨拶するか、ファイパに話し掛けてソレにファイパが短く返事を返していくのが道中続いた。ファイパ曰く、出会うヤツ皆の名前を覚えるし話も皆聞いていって把握しているとか。アイツが言うと本当の事でも理解がし兼ねない事がほとんどで時々恐ろしく感じる。そういう所もどこかアサガオに似てる。でもその恐ろしさと同時に目を離せない気持ちになる。不思議なヤツだよ、アサガオ共々。


 やっとこ図書室に着いた。片付けされたれた部屋が2階の部屋で図書室が1階、とんだ遠回りをされられたが、中に入り書物特有の臭いがして少し安堵した。アサガオも図書室に入るや否や中を駆けてはしゃいでいる。走るなと一言注意するとピタリと足を止めて走らず歩く様にした。素直な時があれば頑固な時がある、変なヤツだ。

 ファイパはあの本はあるか、とか言って同じようにはしゃぎながら図書室の中を散策し出した。こっちにも横っ腹をド突きつつ注意をした。コイツら本当似てるな。ファイパは何か抗議してきたが無視した。

 早速読む本を選ぼうとしていると、視界の端にアサガオが本を取ろうと跳ねてるのが見えた。なんでわざわざ届かない位置にある本を取ろうとしているんだか、そう思いつつ代わり取って渡した。途端喜んだ様子でイスとテーブルのある方に走っていた。だから走るなと言っているのに、後でもう一回注意しておかないといかない。

 それよりもオレも読む本を選びに行かないと時間を無駄にしてしまう。新しく入ったと言う本が並んでいる棚を見に行った。

 オレは本はいつも直感で選んでいる。面白いかどうかよりも、まだ見ていない内容か得られる知識があるかどうかを優先している。なので内容を読んで楽しいかつまらないかは関係無い。前回は確か歴史関係の書籍を読んだな。過去に起きた事件や今までの種族間のやり取り何かが、物によっては事細かに、まだ知識や経験の浅い子どもでも分かるように絵本形式で描かれていたりと多彩だった。

 中でも記憶に残ったのは千年以上前の『戦争時代』を題材にした『ユウシャとマオウ』の童話だ。大昔の事で残る記録も少ない時代の話を基にした話で、『マオウ』によって世界が危機に瀕した時、『ユウシャ』が現れて『マオウ』を打ち倒し、世界を救うという内容。以前アサガオに何度も読み聞かせた記憶は新しい。以前カナイから素となった『戦争時代』の話を聞いたせいか、記憶にもよく残っている。

 さて、今回も背表紙を見て適当に選んで取った。中身は歴史物よりは曖昧な伝承系のものだった。アサガオが座ったのと同じテーブルの席に座り、本を置いてページをめくっていった。


 大分時間が経ったのを感じた。この本の内容も、いつか読み聞かせた童話に近いものだった。罪を犯した者は罰を受けて心の底から謝罪し、罪が許されると花に生まれ変わり花として愛され一生を終え再びヒトとして生を受ける。という内容のものだった。内容に関して色々言いたい事と言うか変だなぁと感じた箇所かあるが、よくあるものだと見過ごす事にした。

 ふうと息を吐き、本を閉じる。時間を確認するため壁に掛けられた時計を見ると、後少し針が動けば昼になるところだ。通りで空腹を感じると持った。辺りを見渡すとファイパの姿があった。

 わかっていたが、ファイパは大机に顔を突っ伏して寝ていた。腕を組んでその上に自身の頭を乗せて、寝息を立てつつ夢を見ているのかどこか笑って見えるソイツの頭に手刀を落としてやった。痛みで起きて辺りをキョロキョロと見渡すファイパを置いて、本を元の棚に戻しアサガオと図書室を出た。

 アサガオが腹をさすってオレの服の裾を引っ張ってきたから、アサガオもお腹がすいたと言いたいらしい。早速学校内にある食堂に向かうために歩き出した。アサガオはオレの後を一生懸命に着いて来た。ファイパも後から走ってオレの所に来た。別に来なくて良いのにと言うと、そんな事言うな!っとファイパは怒ってきた。色々言いたい事はあるが、もう良いかと諦め、結局一緒に食堂に向かう事にした。

 向かう道中、色んなヒトがオレらに近寄り話し掛けてきた。っと言うよりもアサガオが目当てのヤツが大半だろうか。本当にアサガオの周りにはよく人が集まる。それだけアサガオにはヒトを寄せ付ける力があるんだろが、そんな様子のアサガオを見て、ファイパが何故か得意げなのがまったく意味が分からない。以前アサガオの事をカナイに言ったら、お前もそうだとか言われた。やっぱり理解出来ない。

 そこまで考えていると突然ヒトの騒ぎ声、っと言うよりもどよめきが外から聞こえてきた。

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