第8話 急いで捜索

 畑で農家とモグラが戦っている最中、話し掛けてきたのはモグラの獣人だった。


「そもそも何故我々モグラが、この村にやってきたかについでです。」


 獣人が言うモグラがこの村の畑に来た理由、何故モグラは畑を荒らしたか、ソレはモグラが何を食べているかでわかる。

 モグラは肉食だ、だから野菜を食べない。なら何が目的で畑にはいるか、ソレは畑の土の中にあるミミズや虫の幼虫が狙いだからだ。そして一部の土地によるが農家にとってミミズは頼もしい味方だ。もちろん種類によるが、この村の畑に中にいるのは土づくりを手助けする種類タイプらしい。

 今は土を作物を育てるのに丁度良い物に仕上げるために奮闘してる最中だとか。ミミズが必ず必要というワケでは無く、いたら助かるという認識らしい。問題は土の方だ。モグラがミミズ目当てで穴を掘りまくり、畑の土は結構な広さまで荒らされてしまっていた。モグラ一匹の大きさはそこまで大きくが数が数である。ザッと見ても20か30以上いた。さすがに多くて背筋が寒くて震えた。畑の規模だって広くはあるがソレだけの数のモグラに穴だらけにされたんだ。かつ畑の中のミミズまで食わされ、下手な泥棒よりタチが悪い。問題は何があって村の畑に入る込むまでになったのかだ。


「実は我々モグラが棲みかとしていた場所に、大きなオオカミが襲ってきたのです。」


 大きなオオカミ、と聞いてイヤな予感がした。なにせその名は最近耳にしているに、何より姿だって見ているからオレはその件に関して当事者だ。

 獣人いわく、オオカミは棲みかに突然やってきたと思うと何も言わず暴れ出し、棲みかである穴のある地面は風の餌食で深く抉りとられ、餌となる虫などの生き物もかなりの数がやられたという。

 なんとか餌にありつくためにモグラ共は群れで南下し、そうしてたどり着いたのがこの村だった。丁度畑では土作りの最中でミミズのかなりの数が土の中にいた。そんな状態の畑に目が眩み、結果こんな惨状になってしまった、と。


 ここまで聞いて、また頭痛がしてきた。いつかのオオカミの被害がこんな形で再び村を襲うとは思わなかった。隣で聞いていたカナイもオレと同じく頭を悩ませている様子だ。アサガオは獣人の言葉を聞いて、よくわかってはいないもののとてもツラい状況に遭ったのが子どもにも見てわかったのか、目じりを下げた表情で獣人の頭を触っていた。恐らく慰めるために撫でているんだろう。


「ありがとね、人間サン。そりゃわたしにも仔どもがいて、その仔を食わしてくために無茶をする事だってあるさ。皆があぁなってはいるだってね、生きる為に、そして仲間を生かすために必死だからさ。

 でもね、本当は私らだって人間サンの村に迷惑をかけてまで飢えを凌ごうとは思っていないはずさ。」


 それでも、だからこそ獣人は仲間である彼らを止める事が出来なかったと哀しげに語る獣人の目には、農家との戦いで疲れる事無くすどころか激しさを増すモグラ共の姿があった。

 ところで余談だが、動物の群れの中にヒトの言葉を話す獣人が一緒にいるのは結構珍しい事だ。大抵は動物側が獣人を自分らとは別の存在と捉え、獣人が動物の群れから追い出されるのがほとんどだ。

 このモグラ共と獣人はそこまで悪い関係では無いらしい。今だって群れのモグラ共の事を気に掛け、オレらにソイツらに関して相談に来る位だからな。

 しかし、今回は獣人こいつがいたおかげで、モグラ共の事情を知る事が出来た。要は餌と新しい棲みかを確保出来れば、モグラ共も畑を荒らすことは無くなり今回の騒動は治まるかもしれないという事だ。横で聞いていたカナイも同じ考えに立ったのだろう、オレに目配せをしてから再び村人とモグラ共の戦いを注視した。任された、と言うより押し付けられた気がしたがオレの事を考えてるヒマは無いな。ちくしょう。

 とは言え、そんな好条件が簡単に揃うのは稀な事だ。だが知った以上どうにかするワケにはいかない。オレは審判役をカナイに任せて、その場を離れた。カナイだってモグラ共の通訳は出来るのだし、問題無いだろう。

 オレはモグラの獣人とアサガオと一緒に森の方へと向かう。


「アサ、オレと一緒に来て小鬼共と話をしてくれ。お前相手なら、アイツらも話すだろうし。」


 そうアサガオに言い、森の中へと入っていた。カナイもオレらが離れた事を村人から聞かれてもそれとなく話題を逸らしつつたしなめておいてくれた。

 出来る限り早く戻るとも伝えておいたし、早く解決するため、速足で森の中を歩き回った。。


 暫くして、次にモグラ叩きをする村人側は年配の女性が担っているらしい。今戦いに出ている女性も先ほどの男性と負けず劣らず力強い槌さばきを見せたとか。

 農家は皆厚着をしていて着ぶくれして見えるが、見えるだけでその肉体には実戦のための筋肉がしっかりとついているんだろう。さっき言った様に傭兵と見劣りしない機敏に動いた。しかし叩いたモグラの数が半数を超えた所で様子が変わった。腰に手を当て前もめりになっているのを見て全ての者が察した。

 腰をやった。

 残念だが彼女はもう動けない。村人らに肩に手を置かれ、慰められ彼女は交替し楽な姿勢をさせられ休まされた。この場に残るのはこの戦いを見届けたい一心でだろう。立派だが農家って何だろうとたまにオレは思う。


 そんなこんなで3戦目、4戦目と続きまだお互いやる気が削がれる兆しを見せないまま7戦目となった。この頃になってカナイは少し焦りを見せたと聞いた。結構な時間が経ったがまだオレらの姿が見えず、流石のカナイにも焦る気持ちが出てきたらしい。戦いの方はまだまだ終わりそうも無く辟易へきえきしてきた。そうして時間が過ぎるのを待っていて、オレはやっと来た所だ。


 川に架かる橋の向こうから手を振りながらアサガオが走って来て、オレはその後ろを恐らくは疲れているであろう表情で歩いた。その足元には獣人もいる。そして更にその背後、オレらの後を追う形で『ソイツ』もいた。一緒に来ているのなら、オレが言った事は出来たという事だろう。詳しい話はソイツに聞くとして、早速少し無茶をしてみる事にした。


 戦いはやはりと言うか、決着は着かぬままでいた。村人は肩で息をしており、モグラ共はまだまだ余裕だと言う態度を村人に見せつけ煽っている様だが、実はモグラ共の方も疲れてきているのを察する事が出来る。

 戦いを一時休止して少し剣幕した雰囲気が治まっているのもどちらも疲弊しているからだろう。コレは好機チャンスと、両者が戦っていた場所へと歩いて近づきモグラ共に話し掛けた。


「オイ、モグラ共。お前らに話がある。」

「イキナリナンダオ前!?」

「オレラノ事ナンテ聞イテ何シヨウッテンダ!」


 疲れ切っているところを余所者に話し掛けられ、怒りというよりも動揺が見られた。噛みついて来るヤツらもいたが無視し、集まっているモグラ共に向けて言った。


「今さっきアンタらの新しい棲みかと餌を確保出来た。アンタらが望めばそこを無償で提供しよう。」


 オレのその言葉を耳にし、モグラ共はオレへの挑発を止めた。村人たちは何事だとオレらの様子を遠目に少し困惑した様子で見ていた。足が動かずオレに直接聞きに来るヤツはいなかった。

 モグラ共もモグラ共で、突然言われて判断が出来ないでいる。疑っているヤツらがほとんどだ。当然の反応だろうが。

 オレは獣人が指摘するモグラの方へと歩み寄った。曰くソイツがモグラ共のリーダーらしい。正直オレでは判断出来ないから助かる。


「ウソだと思うなら、オレが行った場所を見れば良い。橋の向こうで待機してる小鬼が場所を教える。」


 先ほど見た橋の向こう、アサガオが立つすぐ傍に森の小鬼がいた。小鬼の頭に自分の影を覆い隠す程大きな葉っぱを被り、手足や顔は土で汚れている。よく見るとアサガオも小鬼と同様に手足に顔、更に服まで土の茶色に染まっていた。


「ここに小鬼がいるという事は、場所はやはり小鬼のナワバリの中か?」


 カナイが歩み寄って、オレに詳しい内容を聞きに来た。本当は小鬼共に押し付けるもとい、任せようと思ったが、仕方なくオレが事の状況を説明した。


 オレとアサガオはモグラの獣人と一緒に森へ行って、モグラ共の新しい棲みかになりそうな場所を探した。モグラが棲むのに最適な状態の土、そしてモグラのエサとなる虫などの生物が豊富にいるかを一々調べなくてはいけず、そこは森に棲む動物にも手伝わせた。

 森の構造を把握しているのは土地守であるカナイの他には動物と小鬼だけだ。どちらも森に棲息する種族故、森の外で暮らすオレよりは森の中を熟知しているはずだ。

 動物共に虫などの微生物の状態を聞き、小鬼共にはナワバリから外れた土地の境目はどこか、状態の良さそうな場所はないかを聞いた。小鬼は数が多いから人海戦術で場所を直で探す事も出来た。アサガオに仲介人をやらせたらアッサリと了承した。

 そしてモグラの獣人には現場を確認してもらい、広さと餌となる虫などの条件が揃っているかを散々と確認した。

 正直条件が揃うかは賭けだった。カナイ自身も動物達の暮らしや小鬼の事情を考慮し、深入りはしていないらしい。だから都合よく見つかる方が奇跡に近かった。だが、こうして見つかり、戻って来れた事に一先ずは安堵した。

 そのおかげで、オレもアサガオも顔も服も手足もドロだらけになったワケだが。


 まずは本当に見つかったかの確認だ。カナイも交えて、モグラ共に魔法で風景透写したものを宙にかざして見せた。

 そこには確かにモグラが棲めそうな状態の地面が映し出されていた。実際の土も持って来て見せた。


「フン!先ニ労イノ言葉ヲ言ウンジャナイノカ?相変ワラズ不躾ナ奴ダ。」


 小鬼共がこちらに褒美か何かを要求してきたが今は時間が惜しいから無視してやって説明を優先した。その事に小鬼は不満気だったが、仕方ないと言わんばかりに結果は上々だと返事が返ってきた。


「探シ出スノニ苦労シタゼ。モグラナンテ此処イラジャ見カケネェシ、十分ナ広サノ土地ナンテ条件出サレタ時ハ何度オ前ノ所行ッテ背後カラガット…」


 話を遮り、話をした。


「場所は西の端の山沿いで、穴を掘っても十分な広さのじょうだ。そこの獣人にも掘って確かめさせた。」


 腹を立てオレの足を蹴る小鬼をしりに、淡々と見つけた物の情報を提示した。見つけたその土地に今からでも棲めるかはモグラの獣人の『オスミツキ』である事も言う。

 一方、村人の方は疲れが少し抜けて状況がようやっとわかってきたのか、今はモグラへの怒りも見せなくなり動向を見守っている。モグラ共の方はオレらや小鬼の話を聞いてからずっと黙ったままだ。少ししてモグラ共は目配せをして、少ししてからオレらの方に向き直った。


「ツマリ、オレラニ餌ト巣穴ヲ提供スルカラ戦イカラ身ヲ引ケトオ前ハ言イタイノカ?」

「そうだな、このまま戦っても互いに身を削り合うだけだ。むしろ受けた方がお前らに得なんじゃないか?」


 ソレが目的だとオレは同意し、このまま話を受けて欲しいという欲を出しつつオレはモグラ共の答えを出すのを待った。またモグラ共は互いに向き合ってから話し始め、そう時間も掛からずこちらに向き直し口を開いた。


「オ前ノ言イタイ事ハワカッタ。」

「確カニ条件ハ良イ。俺ラガソレヲ受ケ入レレバ事は済ム。」


 了承しそうな雰囲気になってきたが、それは直ぐにぶち壊された。


「ダガソレトコレトハ話ハ別ダ!」

「我々モグラ一同ハコノ戦イヲ放棄スル事ハ出来ン!」


 予想していたイヤな予感が的中しオレは落胆した。

 何か他に要求があるなら聞こうかとモグラ共に向き直ると、どうやら話が続くらしく間も無くモグラはオレに言った。


「仲間ノタメ、ソシテ我ガ仔ノタメニ戦イヲ止メル事モ考エタ。」

「ダガコノ戦イ、発端ハ俺ラダ。ナラバコノ戦イヲ途中デ投ゲ出ス事コソ、戦ッタ仲間ヤ人間ニ申し訳ハ立タナイ。」

「ソコデオ前、ドウシテモ俺ラニ話を受ケテ欲シイナラ、俺ラト戦ッテモラウ!」


 何やら不穏な雰囲気を漂わせて、戦いの続行を宣言してきた。意味が分からず黙っていると、モグラ共は続けた。


「モグラト戦イ、オ前ガ勝ッタラ話ヲ受ケテ村カラ出テ行コウ。」

「モチロン畑ニモ一切手ヲ出サナイト約束スル。」

「我ラガ勝ッタラ、話ハ無カッタ事ニシテ村トノ戦イヲ続行サセテモラウ!」


 今まさに自分らが飛鳥としている物を提示しているのに、それを選ばず何故コイツらここまでして戦いたがるのだろうか?


「ほれシュロ、モグラが言った事をちゃんと村の者達に訳してやれ。」


 絶対イヤだ。と言いたいが、その場の雰囲気がそういうワケにもいかない。何よりも村人の目が怖い。絶対に逃がさない、という圧を感じた。だから要点だけ伝えた。途端に村人達は何故か雄たけ、同意した。まるで野生の群れだ。

 そもそも何故オレが戦うんだ?オレが交渉したからか?解せない。カナイはオレの肩を叩き、笑顔で話し掛けて来た。


「うんうん、こうなるだろうとは思っていたぞ。しかしこれもお前には良い経験になるかもしれん。」

「口の端が上がってるぞ。絶対面白がってるだろ、アンタ。」

「そりゃあまぁ…ともかく、よく考えろ。お前は今までこの村の者を助けただけでなく、村に助けられた事がどれだけあるか覚えているか?主に食に関して。」


 食と言われたら何も言い返せない。この村には食事に関しては本当に助けられた。

 基本オレらの暮らしは自給自足だ。山で山菜やキノコを採ったり川で魚を釣ったり。まぁ魚に関しては種族の生態的な問題で食えない。なので肉や魚は全てアサガオの腹に納まる。

 しかし、それでも足りないし手に入らないものはある。そういった物を村から分けてもらったりしている、主食にしているパンを作るための小麦は必然的に村からもらうしかない。守仕として働いたお礼以上のものをもらっている。そう考えたら確かにオレが戦いに参加するのも必然だったとも言えなくもない。


「さぁ!村の、そしてお前とアサガオのこれからの生活のためしっかり槌を振るうのだぞ!」


 気合の張りが先ほどよりも随分と上がったカナイの声につられる様に、村人やモグラ共も気合の入った雄たけびを上げた。そしてオレ手にはいつの間にかモグラ叩き用の槌が握られ、退路を完全に断たれた。

 こんな状況の中、アサガオは既に村人に混じって応援を送る側に立っていた。ついでの様に小鬼も声援をやる気無く送ってやがった。何が骨は拾ってやるだ、おのれ。

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