むらの畑にて

第6話 恐怖で怖気づく

 オレにも恐怖を感じる事がある。


 オレが通う村は農村で、村人のほとんどが農業で生計を立てている。村の敷地内だけでなく外にまで畑が広がっている。この土地は自然が豊かで作物の育つも良く、村の外から来たヤツは皆村の作物を目当てに訪れる。村人も相応の対価をもらい、時には土地の領主への年貢として納めたり。様々な形で村人の作った作物は外へと流れる。

 オレも時折畑仕事を手伝い、礼として畑で育てた野菜をもらう。それは非常に助かるが、少々もらい過ぎると気があって困る。オレもアサガオも小食だから腐らせてはもったいない。

 ともかく農家にとって自分が育てた作物は財産と同等の価値を持つ物だが、外のヒトから見れば作物は単なる食い物、もしくは『金』その物だ。売れば金になるしもちろん食えるから、持っていて困る事が無い。だからこそ自分の物にしようと盗みを働くヤツが現れる。

 農家はもちろん盗みを許さない。それこそ、無断で畑に足を踏み入れる者や作物に手をつけた者を地に果てまで追いかけまわす勢いで。血で血を洗う聖戦の如く覇気を見せる様に。

 数百年の時を掛けて、ヒトはヒト同時の戦争停止のルールを結んだが、農家と泥棒の戦争は決して絶える事は無い。誰にも止められない。止めようが無い。オレもイヤだ、手を出したくない。むしろ泥棒好い加減にしろ来るな。そんな気持ちだ。


 そんなオレの気持ちを無碍する様にヤツらはやってくる。守仕であるオレは当然、上司であり土地の守護者である土地守のカナイに命として呼び出され、泥棒退治に駆り出される。帰りたい。事情をわかってないアサガオは朗らかな顔でオレと散歩でもしてるかの様に歩き着いて来ていた。平和なヤツだ。


 カナイに呼ぶ出される数分前、今日は天気が良い、洗濯物がよく乾くだろう。なのでオレは外出せずに洗濯物を干して、その後は食事の下ごしらえをしている。アサガオも手伝うと言ってきたので、籠に入れた洗濯物をオレの手元に渡す仕事なりを任せた。ソレで良いのかとオレは思ったが、アサガオは満足気にオレの傍で手伝いをしていた。

 一通り干し終わり、一息つこうと家に入るためにドアノブに手を掛けたその時、カナイからの交信魔法が来た。思わず来やがったなと心で呟いた。

 こんな晴れた日、こんな日に限って呼び出される時は本当にヤバい事を起こる前触れだとオレは学んだ。学んだだけで活かされてはいないが、嫌々ながら交信魔法に答えた。


「おぉシュロ!緊急だ今すぐ村に来い。」

「体調が優れないから休んでるわ。」

「良いから早く来い。」


 遠慮も容赦も無いカナイには仮病も通じない。仕方なくオレは渋々行く事にした。一仕事終えてお気に入りの植木鉢の芽に水をやってたアサガオは、オレが出かけるとわかると自分も行くと主張する様にオレは見上げた。こっちも仕方なく連れて行く事にした。

 先に語った通り、農家は泥棒を許さない。当然畑を荒らす者も同罪である。今回ほど森の小鬼の方がマシだったのではと考える事は無いだろう。恐らく、きっと。


 家を出て少し歩き、川に架かる橋を渡ってすぐに村がある。村の広場が目に入りオレは又もや家に帰りたい衝動に駆られた。

 普段の村は穏やかな空気が流れ、道行く村人はオレらの姿を見ると挨拶を交わし、ちゃんと食べているか、アサガオは体調を崩していないかと聞いて来て、相変わらずお節介なヒト達だと呆れるのが日常だ。

 ソレが今やココはオレが知る村の雰囲気では無い。オレには数百年も前の戦争時代がどんな物かは知らないが、もしかしたら戦争の空気とはこんな物なのだろうか。

 ピリピリと肌に伝わる緊張感、今にも何かが首を刈り取ろうとして来そうなその空気は、正に戦いが今始まる瞬間であろうと感じさせた。この農村で何があったのか、確認しなくても手に取るようにわかった。


「シュロ、来たか。」

「出たな。」

「出たとは何だ。とにかくこっち来い。」


 カナイに案内されて着いた場所は村人が共有して使っている村で一番広い規模の畑だ。確か根野菜を育てている所のはずだが、ここに連れて来てどうするのか。っと聞こうとしたが、畑をよく見て納得した。

 村人によって耕され、綺麗に整えられた畑は今や見るも無残な姿をしている。地面は盛り上がりあちこち穴ぼこだらけで普段から畑の世話を欠かさない農家がいるとは思えない惨状となっていた。

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