第3話 群れの中で尋問
一戦闘を終えて、オレが武器を納めるのを見届けると、小鬼の方も戦闘の終わりを悟り、盛大に溜息を吐いて悔しそうな声を上げ始めた。
「クソー…ヤッパリ負ケチマッタ。」
戦闘で互いに負った怪我はほとんどが痛みを感じる程度の掠る傷で、命に係わる怪我は決して負わせていないし、相手も負わせることはしない。それがこの世界の常識だ。
ちなみに小鬼と戦うのは今回だけではない、以前訪れた時にも力試しの名目で小鬼共から挑まれた。半分はただの難癖ではあったが。
結果は自分で言うのもアレだが今回と同様圧勝だった。その結果故か、小鬼共はオレの姿を目にする度に喧嘩を売って来る。 最初にオレに対しての物言いもそういった経緯が原因かもしれんが、あくまで喧嘩を売ったのは小鬼共の方だ、やはり納得出来ない。
「戦う気無ぇっつうのに、話を聞かねぇヤツらだな。」
「言イナガラ、テメェダッテ思イッキリ攻撃シテキタジャネェか!」
確かに、腹蹴ったり石投げたりと結構ダメージ負わせてたな。
「交渉のついでだ、気にすんな。」
「ツイデデ痛イ思イサレテタマルカ!」
小鬼共が一斉に騒ぎ出し、オレに不満をぶちまけていくが気にしないでおいた。
「好い加減オレの話を聞いて欲しいんだが、落ち着いたか?」
「フン!話ナンゾ決マッテイル、村ヲ襲ッタ犯人トシテオレ達ヲ退治ニシ来タンダロ!?」
正にオレが言おうと思っていた事を小鬼に先に言われ少し驚く。どうやら村での出来事がこちらまで届いていたらしい。考えられるとしたら、鳥共のウワサ話か。小鬼も多少は動物の声を理解出来るから、真っ先に考えられる話の出所はそこだろう。
そして村人からの要求は正に小鬼が言ったソレだ。村人の方も家を襲われたと言って大分混乱している様子が見られた。今はカナイが落ち着かせているだろうが、それでどう変わるかは俺もに分からない。住民自身には被害が無かったものの一歩間違えれば自分らの命が危うかったかもしれないのだから当然か。
しかし、オレの思惑は村人からの頼みとは違う。ソレを言いに小鬼共のナワバリへと来たのだから。
「退治しろとは言われたが俺はお前らを退治しない。オレはお前らから話を聞く為に来た。」
あくまで冷静に、奇襲に遭いはしたが今は落ち着いて話を切り出せた。だが小鬼共の表情は
「オレ達ガ何ヲ話シタカラッテ、オレ達ニハ何ノ特モ無イ。」
「ヒトニ何カアレバ、オレ達ガヤッタ事ニナル。ソシテオレ達ヲ退治シテ話ハ終ワル。」
「小鬼ガ退治サレルマデ、ヒトハ疑ウ事ヲ止メナイ、終ワラセナイ。」
亜人という種族がヒトを襲う事例は少なくない。ここ以外の土地、行商人や荷物を運ぶ馬車が頻繁に行き来する街道に小鬼が出没しソレらを襲う事件はよく耳にした。小鬼がヒトを襲うのは食糧の強奪だったりナワバリの範囲を広げたりなどの目的がある。要は小鬼は生きる為に他種族を襲うのだ。快楽のために行動する事は無い。あるのは何らかに要因で精神に異常をきたされた時ぐらいだろう。ある意味に動物の本能に近いと言える。だから妖精族であるオレに小鬼の言葉が理解出来るのだろう。
そしてコイツらは自分らが今村人からどういう印象で見られているか自覚している。村から近い場所にナワバリを張っているからか、人間的な思考を取り入れている節が見られる。故あっての疑心だろう。オレが話を聞いたくらいでは事態は収まりはしないと自分らは思っている。思うしかないといった感じだ。
「オレはお前らが端から犯人ではないとわかってる。」
野性的な本能を持ち、理不尽にオレに襲い掛かってきた小鬼共はまるでヒトの意気消沈していた。そんな彼らにオレが発した言葉で空気が張ったかに感じた。確信を持って、疑うことを否定する様に強く口にした。
「例えば襲う理由が食糧だったとしても、畑や食糧庫が手つかずな時点で除外だ。ナワバリを広げるにしても家屋1軒の一部壊すだけで終わるのも可笑しいし、破壊目的も不明瞭でソレも無し。結局んとこ犯人が小鬼に限定って所も怪しくなってくるワケだ。」
オレが村で感じて、オレなりに整理した情報を小鬼共に聞かせた。他にも可笑しな事がある。
「森の動物共の様子もそうだ。何か恐ろしいものを見た、隠れたと話をするだけで誰も襲われた、食われたとは言わなかった。お喋りなアイツらが自分や仲間の存続に関わる事を言わないワケが無い。
そもそも森からお前らが抜け出たとして、周囲に被害が出なかったのも可笑しい話だ。お前らは何もせずにナワバリを出入りする様な無駄な事をする奴らじゃない。如何にお前らが頭が足りない種族であってもだ。」
オレが最後辺りの発言に小鬼共はオイ!と言い返しはしたが、それ以外にオレが話した事に口出しして来ない。ただ目を見開いてオレを見ていた。次にオレはコイツらの自暴自棄発言を聞いて感じた事を喋る事にした。
「お前らが自分の出自で自分自身苦しんでるってのはわかった。 言っちまえばココでカナイと出会うまでお前らは確かにヒトを襲うことを当たり前の様にやっていた。 言わば自業自得だ。同情なんてありゃしない。 オレもしない。」
ここでナワバリが出来る前、コイツらは集団で放浪していた。時には他の土地の動物を狩り、時にはヒトを襲って食糧を奪いここに流れ着いた。そしてカナイは彼らを打ち負かし強制的にではあるが彼らと約束した。カナイが守護する森の一画をナワバリにしてそこに棲む事を許す。その代わりに動物やヒトを襲う事を禁じる。というものだ。
他のヒト、特に小鬼の被害者からすれば場所は分けているにしても小鬼との共生など考えられない事だろう。だが、オレはそうは考えた事は無かった。
カナイは小鬼にした約束に、正確にはナワバリの出入りを禁じてはいない。あくまでヒトや動物を襲わないだけ。小鬼がナワバリの出入りする事に関して緩くなったのは約束を発したカナイの落ち度かもしれないが、カナイはわかってそのような約束を交わした。
「お前らはカナイとの約束を交わしてからは違えてはいない。少なくとも今まで村人を襲っているところを見た事無い。
お前らが過去の事で今負い目を感じるのも、ヤケを起こしてオレらに八つ当たりするのは…まぁ許さねぇが返り討ちにするから問題無いな。だが、お前らが犯してもいねぇ罪を犯したと認めるのをオレは認めねぇし、お前らに無実の罪を被せる奴らをオレは許さねぇ。」
森に棲む小鬼共が他の土地に棲む小鬼と変わらないのは知っている。しかし他の小鬼と違うのも見てきた。小鬼共は頭は悪いが知恵が働かないワケじゃない。群れで動く分仲間意識は少なからずあるし道具や武器を使う知能を持っている。そんなヤツらが今更何の理由も無く森の、それも村の中で騒ぎを起こすには理由があるとオレは考える。
小鬼だからヒトに悪さをして当然。 小鬼が罪を負い罰を受けるのも当然。そんな考えをオレは当たり前と考えない。
何をした所で結果は決まっている、なんてセリフはもう聞き飽きた。だから今回の件もオレは色んな意味で少しイラついている。
「…ツマリ、何テ言イテェンダ?」
「さっき言ったろ、端からお前らが犯人でないとわかってるって。」
あくまでカナイから言われたのは『小鬼達の所業の解決』だ。小鬼が事の犯人だから退治しろとは言ってないし、恐らくカナイも小鬼共が家屋破壊の犯人とは思っていないだろう。でもオレと同様に関係者であるとは考えてはいる。そしてもう1人、小鬼が犯人だと思っていないヤツがいる。
気づけばオレに傍を離れ、ナワバリの奥の方にいた。奥には小鬼の子どもだろう、何人も小さな小鬼が集まっておりそんな中にアサガオがいた。
子どもとは言え小鬼特有のしゃがれ声に爬虫類の目、どんな強靭なヒトが見ても恐ろしいと心に抱く姿をしたソイツらにアサガオはビビりもせず接し、しかも拾った枝の端を小鬼と引っ張り合って遊んだりと楽しそうにしてる。
「アサはあぁ見えて怖がりなんだが、ビビりもせずに小鬼の子どもと遊んで…ノンキなヤツだ。」
警戒心は経験し、成長して身につけて行く。まだ幼いアサガオはその子ども故の経験不足により、小鬼に対しただ好奇心で近づいているだけかもしれない。だが、幼くても本能からくる恐怖心はある。実際アサガオは本当に危ない事には本能的に近寄らないし、何より痛いのが人一倍嫌いで道具や武器を持った相手には近づこうとはしない。
そんなアサガオが怖がる表情も気味悪がる顔もせず、それどころか遊びに誘うアサガオに小鬼の子どもらも完全に警戒心を無くし、打ち解けた様子を見せていた。
そんな光景を見て大人である小鬼共は緩和した様な、どこか憂いにも似た複雑そうな表情にも見えた。
「改めて言うが、今お前らをここから追い出そうだの考えてはいねぇ。壊れたものは修理すれば直るが、後から事がデカくなるのはこっちとしては勘弁だ。
だから話せ。お前らは、村で何をみた?」
しゃがみ込んで目線を合わせ、オレは小鬼に問い詰めた。
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