第2話 ナワバリでいざこざ

 むらの南側に流れる川、その川に架けられた橋を渡ればオレらが住む家があり、更に奥に進めば目的の森がある。 動物達が棲息している森と小鬼共がナワバリを張っている森とは隣接している。だから小鬼のナワバリに行くには動物達が棲む森を抜けなければ行けない。 そんな森の状態では動物に被害が出るのではと思うが、そこは土地守カナイの力である。

 動物の棲みかと小鬼のナワバリとの間には結界が張っており、故に動物達は無事なのだとカナイも動物達も言っている。 ならば村にも被害が出ないよう村側にも結界を張れば良いのでは? とは思うが当然張られている。しかし土地守の力にも限界があり、強いものにも必ず綻びる時がある。

 カナイ曰く川が一応は防波堤となっているらしい。 ヒトの子どもでも簡単に足を付けて渡れそうな小さいで川本当に守られるのかと疑いはしたものの実際に被害は少なくはなっている。

 土地守の力も、オレの目には見えないしカナイも詳しくは話さないから詳細の知れないものだ。 だからといってオレは詮索はしない。 そういう約束だし、オレも詮索されるのはキライだから今はソレで良い。

 森の入り口、通り道であるそこに思う所があり少し寄り道をした。 歩幅の小さいアサガオは変わらずオレの後に着いて来ている。 小さいなりだが体力は人一倍多く、疲れた様子を見せないのは安心するが複雑ではある。

 森に入れば大自然特有の微かな生き物の声が耳に入ってきた。 朝に聞いた鳥達のウワサ話とかハラがすいたという文句やケンカによる言い合い。 それがの耳に入ってしばらく経つと微かだった音は雑音になった。 知っていた、森に入る度にこうなるのだから。

 ウワサをすれば音をたてて森の動物達が集まってきた。


「シュロダー! 何カ持ッテナイカー?」

「オイオ前、何カ面白イ事シロ。」


 草むらからウサギやらリスやらが沢山跳ぶ出して来た。

 本来野生の動物は警戒心が強いものだが、この森は土地守に守られ、天敵となる動物がいないためか、森に入ってきたヒトに対してものすごく慣れ慣れしいと言うか図々しく接して来る。

 しかもこっちが妖精で動物の言葉がわかっているため、遠慮なくオレに話しかけて来る。土地守であるカナイにはそれ程話し掛けて来ないが、何故かオレに対してだけやたらふてぶてしい態度を見せて来る。

 腹は立つが今は様があるのでオレは動物共に向き直り話し掛けた。


「お前ら、ここ最近森で何か変わった事を見たり聞いたりしたか?」


 俺の問いに動物共からの返事は直ぐに返って来た。


「見タ!」

「オッカナイノ見タ!」

「オッカナイカラ隠レタ!」


 動物共が言った事を要約すると、恐ろしいものを森の中で見たから隠れて様子を伺った、という話らしい。聞こえてくるのは今の話と同じものばかりで、他に何か遭った様子は見られない。

 こちらの用件は済んだからもう良い、と言ってもコイツらはずっと纏わりついて来る。こっちは動物共を払うもに苦労しているのに、アサガオは俺の状態とは裏腹に動物共と楽しそうに遊んでいた。動き回る動物の尻尾をアサガオが触ろうと追いかけたり、互いに触り合ってじゃれ合ったりと目にすると気が抜ける。

 無理矢理に払い除けてカタマリ状態となった動物共から抜け出し、大声でアサガオを呼ぶとすぐに反応して、アサガオは遊び相手となっていた動物共に別れを告げてオレの傍に戻って来た。

 なんでもない所で時間をくってしまったがナワバリは目と鼻の先だ。早く用事を済ましてゆっくり休む時間が欲しい。そんな答えに反して足を休みなく動かしてる最中、アサガオは首だけを動物共の方に向けて袖をはためかる様に手を振り続けていた。ちゃんと前を見ないと転ぶぞ、と注意だけはしといた。


 ナワバリに中に足を踏み入れると、先ほどの動物共の棲みかとはまったく異なる空気を肌に感じた。 アサガオも動物と遊んでいた様な浮ついた様子を潜ませ、オレの足にしがみつき辺りを警戒する様に首を動かし見て回っていた。さすがに足にしがみつかれると動けないので離れる様に言いオレの背後に立つ様言い聞かせた。遠くから微かに聞こえる動物の鳴き声を背景にナワバリの奥へと進んだ。

 動物共の棲みかとも同様に基本的にヒトがあまり出入りしないため草は生え放題伸び放題で、歩く度に草を払い除ける音や踏みしめる音が大きく動きも緩慢かんまんになる。アサガオに至っては下半身は完全に草むらに埋まり両腕を横に伸ばし振りながら一生懸命歩きオレの後ろを保ちつつ着いて来ていた。


 少しして開けた場所に出た。だが辺りは暗い、このナワバリに入った時からずっと感じていたが今日は雲の少ない晴れ空だ。 木々が密集しているとは言え森の中のこの暗さは異常だ。木陰がどこよりも密集しているためか、ナワバリ特有の張り詰めた空気が暗く見せているのか。物陰や自身の死角への警戒は怠れない。 前にも来た事ある場所でもそれは変わらない。

 ザワっという音があちらこちらから聞こえてきた。 腰から下げた剣の柄に手を添えて音がする方に目を向けた。草むらからやっと体を出したアサガオは咄嗟にオレの足に隠れる様にしがみついて来た。

 そうして身構えていると草むらから次々に草に触れて揺れる音が増えて聞こえてくる。 同時にオレら2人を囲う様に草むらから影が見えてきた。音が大きくなりにつれて影は次第に輪郭をはっきりさせ、小鬼が姿を見せつけて出て来た。

 把握してはいたが、やはりスゴイ数だ。 姿も相変わらず良い印象の言葉が思い浮かばない恐ろしい容姿をしている。

 オレのとは異なる大きく尖った耳に突き出た鼻、背丈はどれも人間の子どもくらいの大きさだが肌の色は人間のものとは明らかに違う灰色がかった緑色をしている。手は大きく爪も伸びてしかも尖っている。目はトカゲやヘビの瞳の様で鋭く大きい。身に着けているのは動物の皮だろうか、腰みのの様な防具を腰に巻いている。聞こえてくるのは出てきたコイツらの威嚇の声だろう。

 聞いていて気持ちの良い響きでは無い、ヒドくしゃがれた声を出し絶え間なくナワバリの侵入者であるオレら2人に向ける。


「出ヤガッタナ妖精ヤロウ!」

「今度ハ何ガ目的デ来ヤガッタ! 強奪カ、略奪カ!」

「オレラノ食イ物ヲ蹴ッ飛バシテ仲間フン縛ッテイジメルノカ!」


 本来であれば小鬼の言葉を完全に聞き取るには、専門の言語学を学ぶ必要があるが妖精族の耳ならば亜人に分類される彼らの言葉も多少は聞き取れる。それでも濁声だみごえがヒドく動物共よりも聞き取りづらい。

 所で今回の事もだが、何故毎回オレの方が悪さしに来てる様な言い方を毎回されなければならいのか分からない。 後、強奪と略奪はほぼ同じ意味ではのか?

 一先ず話を聞いてもらうために釈明しゃくめいしようにも、姿を見せたヤツらは皆既に臨戦態勢になっている。こうなったらやる事は決まっているからどうしようもない。

 既に掴んでいた片手剣を鞘から抜き、剣を構え見据えていると早速相手方が動いた。 石と木で作られた斧や槌を振りかぶり四方八方から跳びかかってきた。

 連れのアサガオは丸腰の子どもで戦う事は当然無理だ。実質こちらは戦えるのがオレ自身ただ一人。一度に大勢で襲いかかって来られると確かに不利だが、正直小鬼自体の能力は低く弱い。オレは特に焦る事なく周りを見据えたまま自分から一番近い小鬼を見切って順に斬りかかった。

 斬った勢いのままに隣の下位置にいた2匹目の小鬼も斬り払った。更に次、その次と自分から近い順に剣で斬り払い時には蹴り飛ばしたりし襲い掛かる小鬼共を撃退していった。

 当然だが相手もそのままやられる気は無いらしく、直接攻撃以外にも木の上から弓矢を使った遠距離からの攻撃もしてきた。ただその矢も木で出来ており、質素な作りだ。オレも矢に当たるワケにはいかない、襲い掛かって来る小鬼からの猛襲を躱しつつ木の上の小鬼が放った矢を剣で斬って落としていった。躱したオレの後ろにいた小鬼が代わりに矢を受け苦痛の悲鳴を上げているのを横目に、そこらに落ちていた石を足で蹴り上げソレを手で受け止めて直ぐに投擲とうてきした。

 石は無事に命中、中った小鬼はそのまま落下した。頭から落ちたようだが、頑丈なヤツらなら気絶だけで済むだろう。

 粗方小鬼ののしていき、すっかり小鬼から戦意は薄れ、息を切らしてそこらで膝を付いていた。もう攻撃して来るヤツはいないと確認し、オレは武器を納めた。

 一方アサガオは基本オレから離れないはしないが、勝手に離れて行かない様念のためにオレがアサガオの頭を軽く押さえた。こちらの方が手こずる。

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