第5話~魔王、エルフの国へ行く~

わたしの名前はネージュと申しますっ。魔王様に忠誠を誓った元エルフの王女。ダークエルフのメイド見習いですっ。


わたしは母国を滅ぼされ、お母様も殺され、奴隷商に捕まって売りに出されてしまいました。ハイデルヴルグの農業の町…だった奴隷商の町に連れてこられたわたしは売りに早速出されましたところを魔王様に買っていただきました。


奴隷商人の主はハイデルヴルグの国の貴族…そしてその貴族が遣わした町長になった商人…彼らは魔王様の手によって壊滅しました。


「ネージュ、俺って怖いかー?」


「はいっ、とっても優しい魔王様ですっ!」


「俺って優しいのか―?」


そしてわたしは魔王様と共に魔王城に来ました。そしてステラさん指導のもと、魔王様のお世話をするメイド見習いとして住むことになりました。温かいご飯にお風呂…ベッドや家具まで用意していただいて…メイドとしては至れり尽くせりではないでしょうか?


「ここがネージュの部屋ー」


「わたくしの隣のお部屋でございますね。何かありましたらすぐにお呼びください」


「あ、あのっ、わたし…こんな広くてベッドまで…」


「ゴンドが持って来てくれたぞー。担いでくるなんてすごいよなー」


「はい、ゴンド様はこれくらい担いで歩くのは朝飯前、だそうでございます」


「ナイスだゴンド―!使ったお金はどうしたんだ?」


「ゴンド様はお給金をお使いになられたそうです」


「じゃあ経費だ経費ー。金庫からゴンドに返そう」


「ゴンドさん、ありがとうございます…わたし…嬉しい…!」


「なんでゴンドまで泣くんだ?」


「魔王様、ゴンド様はネージュ様の不遇な生活に涙をお流しになっております。困ったことがあれば。必要なものがあれば何でもご用意いたしますと」


「ゴンドは優しいな。さすがは俺の仲間だー!」


「恐悦至極でございますと」


わたしはこうして魔王城での生活が始まりました。ご飯をお作りすること。お城のお掃除。わたしはそう言ったことをしたことがなかったので大変でした。ステラさんがつきっきりで教えてくれます。早く立派なメイドになってステラさんを安心させないとっ。


………


わたくしの名はステラ。魔王様にお仕えする堕ちた女神のメイドでございます。新しくネージュ様が加わり、より賑やかなお城になりました。彼女はとても素直でお教えしたことを素早く吸収してゆかれます。すぐにでも、魔王様にお仕えできるメイドになれることでしょう。そして、お城の雰囲気もネージュ様のおかげか少し明るくなった気がします。時々、お母様を思い出して涙を流しておられる様子…ゴンド様や魔王様が接してくださりますが、わたくしはその対応は…ネージュ様には申し訳なく思います。


ハイデルヴルグの農業の町で奴隷商を始末した魔王様。その後の町は大騒ぎだったようです。貴族までもが奴隷商に加わっていたのですから当然でしょう。町には兵士と貴族が何人も駆け付け、隅から隅まで調べ上げ、奴隷となった子やエルフは全員保護されたようです。魔王様も大層お怒りになっておられたようで、ハイデルヴルグ潰すかーと仰られていたとネージュ様から聞きました。


………


「お前ら本当に何も知らないんだな?正直に言わないと今すぐ殺すぞお前ら」


「魔王…と申しましたね。その点は…捨て置くこともできませんが、今は自国の事が大切…このような一大事です。今はお見過ごし頂けませんか」


「俺の要求が通ったら見逃す。そうでないなら今すぐお前らを殺してハイデルヴルグも滅ぼす」


「……お聞きしましょう」


「奴隷になった子供たちは奴隷を剥奪。市民権を与えて孤児院なりなんなりで面倒見ろ。成人した後も国に仕えてもらうとかでこの子達に責任を取れ」


「孤児院への保護と保証は今すぐ聞きましょう。将来のことについては持ち帰らせていただきます」


貴族はかなり権限を持った者のようで、市民権の付与、孤児院での保護、生活の保証については魔王様との口約束ではございますが、魔王…と聞けば約束を反故にするはずはありません。なぜなら、魔王様を捉えようとした兵十名ほどを一人で気絶させてしまったのですから。


(元老院直属の騎士。その実力は素晴らしいものなのですが…魔王と言うからには力はすさまじい様子…ここは素直に言うことを聞いておかないと本当に滅ぼされる可能性もあります。魔王ですか。世界の平和はもう崩壊ですか…世界は無情ですね…)


この貴族はかなり賢明な判断をされました。魔王様の手にかかれば、すぐさま大きな被害が出るでしょう。


「エルフについても同様だ。人間との交流を避けてるならエルフだけで生活できる場所を作れ」


「…その件に関しては約束はできませんが…」


「やれ。さもないと殺すぞ」


「一時的に預かることはできるでしょう。預かり続ければエルフとの戦争に発展する可能性があります。それに、エルフは何百年と生きます。今の王がお亡くなりになった際、その約束を次の王も守り続けるとは考えられない可能性もあります」


「その辺は俺がやる。お前らはとりあえず面倒を見やがれ。お前の上司だか部下がしでかしたことだろ」


「そうですね…わかりました。魔王殿、エルフの保護問題につきまして、協力いただき感謝します」


「エルフの子達を放っておけないだけだ。お前らのために動くんじゃない」


「それは重々承知しておりますとも。ですが、当事国が交渉に当たっても最初から跳ね返されてしまうのは当然…貴方が動いて下さった方がエルフも話を聞いてくれるかもしれません。特に、魔王ならば…ね」


魔王様を利用するこの国の貴族については…少々…いえ、かなり納得がいきませんが致しかたないでしょう。魔王様の交渉術ならば成功すると信じております。


「ところで…そちらのエルフの方は?」


「この子は俺が買ったエルフだ。俺が連れ帰る」


「奴隷商に参加されたと?それならば見逃すわけにはいきません…が、私は何も見ていない。この兵たちも何も見ていない。神聖な森の国の王女は…行方知れず。そう報告すれば問題はないでしょう」


「わかった。借りはエルフの子達の問題解決で解決する。感謝する」


「ええ。魔王の存在は知りませんし、エルフは保護した子達で全員。以上です」


「ああ。よし、行こっか。俺たちの城に」


「は、はいっ!」


ハイデルヴルグとは衝突せずに済みました。お互いに面倒ごとを抱えるが故にここは知らぬ存ぜぬで済ませ、そして問題だけは解決する…そうしたほうが事は容易く済むでしょう。魔王様…誰彼構わずに殺すと仰られなかったことだけは安心いたしました。


そして、ネージュ様は魔王様にお仕えするメイド見習いとしてここに住まわれることになりました。


………


こうしてわたしは魔王城に住まわせて頂けました。初めて入る魔王様とステラさんと入るお風呂…とっても気持ちがいいです。


「風呂はやっぱり最高だー」


「はい。一日の疲れが癒されますね」


「はふー…」


「ネージュの髪も体もきれいきれい!」


「はいっ!魔王様に洗って頂いてきれいになりましたっ!」


「魔王様…わた、わたくしの頭まで洗っていただき…お背中だけで十分でしたのに…」


「ステラの髪はきれいだからなぁ。触りたくなるよなー」


「き、きれい!?魔王様…わたくしの髪は真っ黒です。美しい金色でも、ネージュ様のような美しい白金の髪でもございません…」


「極東の国だと真っ黒な髪の人ばっかりだった。みんなすごくきれいだったぞ。だからステラの髪もきれいなんだぞー」


「はわ、はわわわ…」


ステラさんは頭を撫でられると首からが上がピンクに染まります。かわいいですよね。魔王様に頭を撫でてもらえると心が暖かくなります。魔王様は俺は怖い魔王だぞーと仰りますが、わたしからすればとっても…人間なんかよりも優しい…エルフよりも…。


魔王様は奴隷は嫌だ、とわたしの奴隷の首輪を外してくれました。みんなで仲良くやりたい、と言うことで気軽に話してほしいと仰ってくださりました。ステラさんもゴンドさんも、なんでも言ってと言って下さったのでとっても安心して生活ができます。


「畑仕事ですか!?わたし、畑のお仕事を国でしていたことがありますのでお手伝いできますっ!」


「マジで!?やったー!!!これで畑仕事がはかどるー!」


「やりましたーっ!」


ですが、畑を耕す前にやることがあるそうです。一体何があるんでしょうか?


………


「エルフの国が他の国のエルフとの交流をしないってのが気になるな」


「確かに、エルフは人間との交流を断っておりますし、交流がなければどのようにして繁栄をしてきたのか…」


「エルフは数百年ほど前に人間との大戦争を行いました。それによって国交を断絶。今も人間と交流するエルフの国はほぼありません」


「では、自給自足で…?」


「はい。ですけど…それももう限界だった気がします。ですので、亡き母…女王エルファリアは別の国との国交を再開しようと奔走されました。おかげで北の水鏡の森にあるエルフの国との国交を再開しました。女王グウェンドリン様には感謝しておりました」


エルフはもう限界でした。子孫の繁栄も血が濃くなるがために呪われた子…と呼ばれる子が産まれることも多く、未来を危ぶんだお母様は滅亡を避けるべく、国交を再開しました。


ですが、他のエルフの国はまた別のエルフと戦争状態に陥ったこともあり不信を募らせ、国交断絶をしたまま…お母様の頭を悩ませる問題となりました。


「そもそもエルフと人間はなんで戦争したんだ?」


「魔王様。エルフは元は人間に農業の知恵や魔術を教えておりました。人間はエルフを崇め、農産物や海産物を捧げていたのですがいつしか人間が驕り、エルフを超えたと言うようになりました」


「はい…エルフの魔力を封印する魔道具などを開発し、エルフからの支配から脱却しようとエルフに襲い掛かったんです…」


「クソだなぁ、人間って」


「そうして小競り合いを繰り返していたのですが、エルフも人間を疎ましく思い、そして危険視したんです。人間を排除しようとしたエルフと、エルフが疎ましかった人間とで殺し合いを始めて…」


「結果としてエルフと人間は関わらなくなったのか」


「その後は人間と交流を続けようとしたエルフと交流を断絶しようとしたエルフとで戦争が始まって…」


「それでエルフ同士の交流も途絶えてしまった、と」


お母様は長らくエルフ同士の国交を再開しようとしていたのですが、国交が再開した矢先に攻め入られ…わたしの国は滅んでしまいました…。


「ネージュ、その水鏡の森の場所…わかるか?」


「えっ?はい。わたしもお母様と一緒に行ったことがあります」


「その国へ行くぞ」


「えっ?」


「魔王様、その理由をお聞かせ願えますか?」


「俺はハゲの奴隷商と貴族は潰した。けど、ネージュの国を滅ぼした奴らはまだ潰してないし、こいつらを雇っていた大本も潰してない」


「魔王様、まさか」


「水鏡の森のエルフも危ないし、他のエルフの国も危ない。放っておくと人間とエルフの戦争になるぞ」


「そ、そんなっ!」


「魔王様、エルフの国は水鏡の森だけではありません。近くにはもう1つエルフの国がございます」


「ゴンド、頼めるか?」


「魔王様、ゴンド様は不惜身命。必ずやエルフをお守り致しますと」


「ゴンドなら任せられる。危ないのは水鏡の森の方だろうな」


「グウェンドリン様…!」


「ステラ、悪いけど留守番頼むわー。俺とネージュは水鏡の森に行く。ゴンドはもう1つの森へ行く」


「かしこまりました。皆様…お気をつけてくださいませ」


「ごめんなステラ。一人にしちゃって」


魔王様はステラさんの頭をまた撫でておられました。ぴゃっ!?とステラさんは不思議な声をあげていました。ステラさんは魔王様に頭を撫でてもらうのが大好きなんですねっ。魔王様もステラさんの頭を撫でるのが大好きみたいです。お似合いですねぇ…。


「よし行くぞー!」


「いってらっしゃいませ」


わたしは魔王様の愛馬、クレセントさんに乗り、一路水鏡の森のエルフの国へと向かいました。


/水鏡の森のエルフの国~女王の間~


「陛下、人間の賊共が徒党を組んで森の霧を突破致しました!」


「誠ですか…おそらくは過去に人間にエルフの祖先が渡した霧払い魔具を用い、森へ侵入したのでしょう…」


本来、エルフの国へ入るにはエルフが共につくか、霧払いの魔具と言うエルフの国へ入るための魔法の道具が必要である。この魔具は絶対に今では人間に渡してはならない、と言う掟があるが、どうしてもエルフの祖先が人間に渡した魔具が多く出回ってしまっており、これを使ってエルフの国へ悪巧みを考える人間が後を絶たない。


一部は侵入した者から殺したりして取り上げたのだが、数が把握できていないために根絶ができていない。故に、この水鏡の森のエルフの国にもこれを用いて侵入してきたようだ。


女王グウェンドリンは焦る。このままでは風の精霊からの便りで、盟友である神聖な森の女王エルファリアの国と同じ末路を辿ってしまう。人間を信じたいグウェンドリンであるが、こうまでされてはもはや信じることなどできるはずがない。


「兵を集めなさい。侵入者を排除するしか…ありませんね」


「陛下、兵からの報告でございますが…魔封じの魔具を持っているようで魔法が一帯で使えなくなっており、負傷者が続出しております…」


「……そうですか」


エルフは魔法を得意とする。弓にも長けているが、狩りにしか用いないため、人殺しの技術として使えるかは謎だ。魔法ならば広範囲を攻撃でき、人に脅威を見せつけることができるのだが封じられてしまっては手の施しようがない。


「エルフの魔法を封じるほどの強力な魔封じの魔具…どこでそのような物を…」


「おそらくは…ハイデルヴルグ王国が…?」


「いえ、かの国の王とは不可侵の密約を結んでおります。これも生きるための術…ハイデルヴルグ王がこの密約を覆すとは考えにくい…」


「では一体誰が…」


「陛下!!!!火急の報せでございます!!!魔王と名乗る者と神聖な森の王女、ネージュ様の名を騙るダークエルフが今すぐ陛下に謁見させろと!!」


「……ネージュ!?」


ネージュ…雪の名を母から授かったまさに雪のように可憐な子…エルファリアは死したと聞いたがネージュの名はなかった。生きていた…?しかし、ダークエルフ…?そして…魔王!?


「陛下、魔王が攻めてまいりました!あの賊共は、魔王の手下かと思われます!」


「失礼だなー。俺はあんな外道たち知らないぞー」


「グウェンドリン様!!!」


ああ、見間違えるはずがない。その美しい白金の髪も。雪のような白い肌も。ただ一点…美しく惹きこまれるような碧の瞳ではなく、禍々しい紅い瞳であることを除いては。そして…その隣で怪しく笑う深紅の瞳。まごうことなき…禍々しい気配。魔王…。


「グウェンドリン様!元神聖な森の国の王女ネージュ、グウェンドリン様とこの国をお助けするために馳せ参じました!」


「ああ…ネージュ…なぜ魔の者に…」


「魔王様に救われたからです!それに…他の国に行っても…」


わたくしの考えが早く他のエルフの国に広まり、そして交流を開始できていれば…ネージュはわたくしが保護できたかもしれないと言うのに…。


「ネージュ…わたくしは他国のエルフの国に交流を再開するようお願いしてきました。まずは花の国のエルフが…承諾をしてくれました。有事の際には子供たちをこちらで保護することも約束できました。エルファリアとも…交流を深めようとしていたところなのです…」


「………」


「じゃあハイデルヴルグの孤児院で保護されているエルフの子達を保護してください」


フォールがすかさずそう意見した。奴隷商に売られた神聖の森のエルフの幼い子供たち。エルフの国では引き取れないとネージュから聞いていたためにハイデルヴルグ王にお願いして引き取ってもらっていた。様子を聞いてみたが、やはり人間に怯えきっているために衰弱していると言う。


「このままじゃエルフの子達が死んでしまいます。保護を求めます」


「魔王…あなたは本当に魔王なのですか?魔王はそのような交渉をすることはないと思っておりましたが」


「魔王様はとっても優しいんです!わたしも魔王様に救われて…今は、魔王城に来てよかった。ダークエルフになってよかったぁって思ってます。グウェンドリン様のこと…もっと早く聞けていれば…ううん、それでもわたしは魔王様についていったと思います!」


「ネージュー。君はいい子だなぁ」


「えへへ♪」


笑顔で優しくネージュの頭を撫で、それをくすぐったそうにしているが嬉しそうになすがままのネージュ。暴力と破壊しかない魔王が…エルフを救い、エルフを思う。勇者が倒したと言う魔王は文字通りの魔王だった。


「おっとー。こうしてる場合じゃない。撫でるのは帰ってからな」


「はい。行きましょう、魔王様」


「行くとは…どこへ?」


「ちょっとこの国を壊滅させにきた外道共をぶっ殺してきまーす」


「外道さんはみーんな殺しちゃうので、安心してくださいね!」


あのネージュが汚れのない時のネージュのような笑顔で…人を殺すと言う。間違いなく、彼女は魔に堕ちている。人を殺すことのタガが外れてしまっている。魔王は剣を。ネージュは弓を手に駆け出していく。魔法が使えず、弓も狩猟では使っていたが戦をしたことがないこの国のエルフたちにとっては使えない代物だった。


藁にも縋るとはこう言うことを言うのでしょう…。女王グウェンドリンは深く椅子に腰かけ、ただネージュの無事を祈りしかできなかった。


………


「ネージュ―。魔法が使えないけど大丈夫かー?」


「はい、魔王様。弓が得意ですから!きっと、強力な魔封じの魔具を持っている人間がいるはずですっ」


「りょーかーい。あと、この霧だけどー」


「大丈夫ですよ?ちゃぁんと見えてますっ」


「ネージュはいい子だなぁ」


「ふふっ。あっ、見えましたっ。魔王様、外道さんです!」


「…霧でこっちが見えてないなぁ。霧晴らしの魔具持ってんじゃないの?」


「わかりません。けど、今が好機ですっ」


「よーし、外道狩りだぁ。ネージュ、いっけー」


「はーい」


もう国の入り口近くにまで近寄って来ていた外道たちを見つけたフォールとネージュ。なぜか晴れない霧に乗じてネージュが気づかれる前に数を減らす作戦に出た。勤勉なネージュは狩猟以外でもしっかりと弓の練習をしていた。もちろん、このように濃霧の場合でも獲物を狙えるように。


キリリ…と弦を引く。汚らしい…わたしを連れ去った男のような顔の首めがけて…矢を放った。


「もうすぐ入口だ。ヒヒヒ、魔法は使えねえし弓もうまく使えねえような奴らだ。神聖な森の連中も魔法を頼りにしようとして弓を準備する間もなく攻撃してやったからなぁ。今回の女王もとびきりの美人だ。いい金になるぜぇ?」


「兄貴ぃ。一発!一発だけ頼んますよ!」


「馬鹿野郎。価値が下がっちまうだろうが。一般の人間でもとびきり美人だろうが」


「そうッスね!じゃあそうしまーす!ゲヒャヒャ!」


ブツン!と言う音と共に下卑た笑いを浮かべた男の首がちぎれ飛んだ。男の首は笑顔のまま、地面を転がった。ブシャーと鮮血が噴水のように飛び散る。


「なんだァ!?」


「狙撃!?おいなんだよこれ!?」


驚く男の胸を何かが貫通していった。背中は何かが爆発したかのように弾けていた。そして絶命。


「木、木の陰に隠れろォ!!」


そう言われて慌てて木の陰に隠れる外道たち。突然のことで混乱に陥っている。魔法は使えないはず…では、この攻撃は何だ?


「うわぁ、どうして?」


「うーん、ダークエルフになったからか?」


「そうなんですかぁ。すごいですねぇ」


「ネージュー。外道たち隠れちゃったー。顔を出したらズドンだぞー」


「はいっ!狙った獲物は…逃がしませんから…」


にっこりと笑って弓を構えるネージュ。そこには恐怖感も、人を殺すことに対する抵抗感も何もない。かつては獲物を射って仕留めた際には毎回涙を流してごめんなさいと言っていたネージュだったが、魔に堕ちたこと。そして、鮮烈なためらいもなく人を殺して回ったフォールの姿を見て美しい、とあの時思ってしまったから。ネージュはその考えが失われていた。


魔王様の敵はわたしの敵。だから殺すんだ。外道さんは死んだ方がいいんだ。だから、全員殺す。


狂気の笑みを浮かべてネージュはずっと外道が顔を出すのを待った。


「ち、ちくしょう!やってられっか!俺は降りる!」


「オイ待て!今顔を出すな!」


「ク、クソォ!!!ポッ!?」


顔を出した男の頭がはじけ飛んだ。ダァン!!と木も爆ぜる。そこに刺さっていたのは…何てことない木の矢。


「た、ただの矢…だと!?」


ただの木の矢で人間が爆ぜてたまるか。ありえねえ…。


「まずは魔封じの魔具を持ってる奴だなぁ。さっきの中にいた?」


「はい、魔王様。へんてこりんな腕輪をした男の人がいました!」


「そいつはどこにいったー?」


「あそこの木の陰にいます!」


話し声が聞こえる。男と女。エルフか?いや、それにしてはおかしすぎる。カチカチと歯を鳴らして魔封じの魔具をつけた男はただただやり過ごしていた。ここで隠れていれば問題ない…やり過ごせる。相手は弓矢で攻撃してきているのだから。しかし、その考えは甘すぎた。


「みぃ~つけたぁ~」


「ヒッ!?」


紅の瞳をした男が笑いながら現れた。その狂気の笑顔は今から確実に自分の命を刈り取る笑顔をしていた摘命者のようだった。


「わあああああ!!!??!?!」


「あ、まてまてこのやろー」


一気に駆けだし、木を盾に逃げようとした。


スン


そんな音を聞いた気がした。男はそれを最後に絶命した。男…フォールが大木ごと外道を切断したからだ。そして、フォールは鈍い銀色を放つ腕輪を踏みつぶした。


「魔王様!マナが満ちてきます!」


「おー。当たりだー。えらいぞネージュー。明日の朝ごはんの目玉焼きとハムを一枚ずつ増量だぁ」


「やったー!よーし、もっとがんばっちゃいますっ!風よ!!!」


印を結ぶとネージュの周りに風が集い始める。つむじ風のようなものではない。嵐のように轟々と音を立てた暴力的な風。ネージュは魔法にも長けている。特に風の魔法に特化していて、国の中では母よりも優れていた。


「に、逃げろーーーーー!!!!!」


汚い髭の男が叫んだ。すると蜘蛛の子を散らすように侵入者たちは逃げていく。しかし…。


「吹き荒れて!!」


森の中を暴風が駆け巡る。木をしならせ、葉を千切り、そして侵入者たちを吹き飛ばし、木に叩きつけていく。


「ぎゃあ!?」


「ぐえ!?」


「ぶべらっ!?」


外道たちはネージュの突風で木々に叩きつけられていく。その威力は骨を折ったり気絶するほど。ネージュの魔力はけた違いだ。


「風よ…風よ…!」


さらに風を集めるネージュ。その風は先ほどとは違い、舞い落ちる木の葉が風に触れるたびに両断されていく。その風は…フォールの竜巻魔法よりも強力な風魔法。全てを切り裂く風。その風の圧力は先ほどの風よりも濃い。


「切り裂きなさい!!!」


「おー、俺の魔法よりすげー」


突風から逃げおおせた外道は今度はこの風に切り裂かれていく。叩きつけられてもんどりうつ者も。逃げる者も無差別に。木々をも切り裂き、風は過ぎていく。細切れにされていく外道。一方でフォールはそよ風のような気持ちよさだぁ、と思っていた。


「う、うわあああああああ!!!!!」


「はふー…よしっ、あなたはそっちへ飛んでいけーっ」


ネージュはその男を覚えていた。頭と呼ばれていた男。こいつこそがネージュを農業の町へ連れ去った張本人だった。その顔と声を忘れるはずもない。殺したいほどに憎いがそうはいかない。


「ごふっ!?」


一本の木に叩きつけられた。そしてやはり、痛みで動けない。に、逃げなくては…。


「ざんねーん、逃がさないよー」


「ガアアアアアア!?!?」


追いかけていたフォールが男の片足に剣を突き刺す。もう逃げられない。フォールは顔を近づける。


「くっさい息だなぁお前も。なんで外道ってこんな息が臭いの?」


「う、うああ…」


「臭いから余計なことはしゃべんな、息すんな。殺すぞ」


「ひっ!?」


「お前に質問だぁ…お前らの雇い主は誰だ?どこにいる?」


「く、クク…誰が言うかよ…?」


「へー。見上げた根性だなぁ」


「殺せよ!さあさっさと殺しやがれ!!」


「喋んないかー。ネージュ、どうする?」


「魔王様、そこから離れてください。危ないですよ。ふふっ、外道さんは主思いさんなんですね。じゃあ、わたしとお話しましょう?」


「ヒヒヒ、お前この間連れ去ったエルフのお姫さんに似てるな?お前も高く売れそうだなぁ」


「はい。わたしは連れ去られたエルフそのものですよー?」


「……?なんでここにいやがるんだ?」


「魔王様が助けてくださったからです」


「魔王!?馬鹿言うんじゃねえ!?死んだはずだろうが!?」


「生きてるよー」


「お、お前が…馬鹿も休み休み言いやがれ!!」


「俺が魔王だー。外道を殺す悪い魔王だぞー」


「わたしたちのことはいいんです。じゃあ、ちょっと痛いですよ?」


そう言うと男を叩きつけた木の実を一つもぎ、ナイフで切る。瑞々しい果汁が男の足の傷口に落ちた、その時。


「ギャアアアアアアア!!!!!!!イデエエエエエエエエ!!!!!!!」


叫んでもがきだした。


「これは猛毒のリンゴなんです!『デスアップル』ですよ。これは木も、葉も、実も…全て猛毒なんです。素手で触るとたいへんなんですっ」


「イギ、アガアアアアア!!!!」


そう言いながらあちこちに果汁を垂らしていく。それだけで外道の皮膚は腫れあがり、激痛が走り、苦しむ。


「あ、ああ…ゆるじで…」


「じゃあ、雇い主さんは誰ですか?」


「う、うう…」


「じゃあ続行でーす♪水よ!えーい!」


空気中の水蒸気を集め、ちょっとした水の塊にする。それをデスアップルの木にかけた。葉から水が落ち、男の体中に降りかかる。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」


「うわー、えっぐー」


「この木の下で雨宿りをしてはいけません。お母様にそう教わりました。そう、あなたが殺したお母様に…ね?」


「あ、あうう…い、いでえ…たしゅけて…ハイデルヴルグの…商人の街…ここの…大地主…様でしゅ…エルフは…高く、金になるから…って…」


「他にお仲間は?」


「い、今…別のエルフの国…襲ってます…いっぱい、いましゅ…」


「じゃあ殺さないといけないなー」


「ひいい…ころしゃないでぇ…」


「だぁめ♪」


「えっ!?ぜ、全部しゃべりました!も、もうやめて!!」


「なあ、大地主って言うか、その街の人間ほとんど噛んでんだろ。他の街にも取引してる奴いるよな?」


「そ、そこは知りましぇん…俺…わ、私は…それだけしか…」


「そっかー。ありがと。じゃあ…」


「助けてくだしゃい…」


「おいしく召し上がれー」


「えっ!もががが!!!!」


フォールがデスアップルを口にねじこむ。口に入れただけで口の中は爛れる。飲みこめば内臓も破壊される。


「お前らのせいでネージュが大変な目にあったし、農業の町でエルフの子達が屈辱と苦痛を味わったんだ。お前らのせいでこの森のエルフたちも大変なことになりそうだったんだ。お前らの欲望のために…金のために、エルフを利用としてんじゃねえよ」


「グウウウウウウウウ!!!!」


「俺は外道が大嫌いだ。お前らは全員死んでいいねぇ!!!」


「はい!外道さんは生きていても仕方がないので死にましょう!そのリンゴ、とってもおいしいんですって!死んじゃいますけど、最後においしいものを食べられてよかったですねっ」


無理矢理咀嚼させられ、飲みこみをさせられ、そしてしばらくして苦しみながら大量の血を吐き、目や耳からも血を流し、体中から血を噴き出して死んだ。喉を必死にかきむしったために頸動脈を傷つけたらしく、血がドボドボと溢れていた。


「死体は森に還ります。放っておけばすぐに。この外道さんはデスアップルの養分になります」


「外道もちょっとは役に立つなぁ。グウェンドリン女王に話して帰るかー。ネージュ、背中に血がついてるぞ」


「えっ!?やだぁ、汚しちゃいました…」


「ステラにきれいに洗濯してもらおー。帰ったらまず風呂だぁ」


「はーいっ」


あっと言う間の出来事だった。水鏡の森のエルフを攫いに来た外道たちは、あっという間にネージュに狩り尽くされた。ネージュの戦闘力の高さに感心するフォール。グウェンドリン女王のところへ行くまでずっとネージュを褒めていた。ネージュは顔を真っ赤にしていたが嬉しそうだった。


………


「終わりましたー」


魔王が呑気に終わったと言う報告をしてきたが、顔や背中に返り血を浴びたネージュを見て顔を青くするグウェンドリン女王。まさか、本当にネージュが人殺しを…。


「ネージュ…さきほどの魔力の奔りは…」


「はいっ、わたしが使いましたっ。外道さんは全員切り刻みましたっ。森に還ると思いますっ」


「と言うわけでネージュが外道の血で汚れちゃったので帰りまーす。お風呂に入ります」


狂っている…とは口に出さなかった。やはり魔王。そして魔王の使い。ネージュ…あの優しかった子が…。


「魔王…あなたの望みは何ですか?」


「え?」


「人間を躊躇いもなく殺し、ネージュを魔に堕とし、何を目論んでいるのです。わたくしとて誇り高きエルフ。この国を奪うと言うのならば…戦わざるを得ません。何を目的としているのです。ネージュまで連れ出して…!」


「俺はただ、外道にネージュのお母さんの親しい人が踏みにじられるのがムカついただけです。人間がエルフを奴隷にしていいだなんて、驕りでしかない。人間がエルフより偉いわけでもないです」


「魔王様…」


「ネージュは行くアテがなかったのと、俺の城で住むにはダークエルフになるしかないって言われたからそうしただけです。ネージュは何も悪くないです」


「そうですっ。わたしは…魔王様に命も救われて…奴隷から解放されて…今は魔王様やステラさん達と楽しく過ごしています!お母様のことは…絶対に…忘れません!お母様…」


涙を流すネージュ。頭を優しく撫でる魔王。魔王らしからぬ魔王。なぜこのような魔王が生まれたのか?よくわからない。世界が何を望んでいるのか…。ああ、エルファリア…もっと早く…貴女たちの危機を知ることができれば…。


「魔王…いえ、フォール殿。我が国を救って頂いたこと、女王として感謝いたします」


「別に、俺はこの国を乗っ取ろうとか滅ぼそうとかは思ってないです。悪いことをするなら、滅ぼしますけど」


「………」


「ネージュがこの国の事を気にしていたので助けただけです。じゃあ俺たちはこれで帰りまーす」


「お待ちください。ネージュ…ネージュもありがとうございます。助けてくれて」

 

「いえ…グウェンドリン様。どうか、健やかにお過ごしください」


「…ネージュ。わたくしはネージュの幸せを…貴女のお母様に代わり願っております。これをお持ちなさい」


グウェンドリン女王がネージュに近寄り、耳に何かをつけた。耳飾りだ。


「エルヴンピアス。これはわたくしと貴女の友好の証…どうか、持っていて…」


「…ありがとう…ございます」


「フォール殿。こちらを…わたくしが生きている間は、貴方達を攻めることも致しません。あなた方はわたくし達の命の恩人ですので」


「んー?ピアスかー。これ、ステラって言うメイドにあげてもいいですか?」


「ええ…お好きにお使いください」


「ありがとうございまーす」


「グウェンドリン様。ありがとうございます」


魔王が口笛を吹くと真っ白な馬が駆けてきた。魔王とネージュはその馬にまたがり、グウェンドリン女王に手を振った。


「ありがとうございましたー!バイバーイ!!」


「さようならー!」


最後まで緊張感のない魔王…緊張するこちらが馬鹿に思えてくる。外道を滅する魔王…?グウェンドリン女王は後に、風の精霊を頼りに、各地で外道を始末する魔王の話を聞くことになる。さらに、再び魔王の助けを得られるとは、この時はまだ考えもしなかったのだった。


………


「ただいまー」


「ただいま戻りましたぁ」


魔王様とネージュ様がお戻りになられました。大きなお怪我もなく、ご無事に戻って来てくださったことに安堵いたしました。


「魔王様、ネージュ様。おかえりなさいませ。あら…ネージュ様、血…」


「外道さんの返り血ですぅ…」


「それは不快でございましょう。湯浴みの準備はできるております」


「よし、じゃあ風呂だー」


「はーいっ」


「お背中、お流し致します」


わたくし達は三人で湯浴みをし、魔王様はネージュ様のお背中、髪を洗っておいででした。ネージュ様はとても気持ちよさそうでございました……わたくしも…髪を洗って頂きましょうか…?いえ、わたくしはメイド…そのようなことは…あれ?ネージュ様もメイド…では…わたくしも?


「ふわぁ。気持ちよかったです~」


「さっぱりしたなぁ」


「それは良うございました。それでは、お夕飯のご準備を致しますのでお待ち下さいませ」


本日のお夕飯はチキンステーキ…新鮮な鶏肉をゴンド様が持ち帰ってくださいましたので。どのお肉も新鮮かつ美味でございます。それを壊さぬよう、魔王様にお喜びいただくお料理を作るのがわたくしの役目。


毎日、飽きたとも仰られずに召し上がってくださる魔王様。本日も…お喜び頂けるでしょうか?ん、お塩の加減は悪くありませんね。すぅぷもご用意しておきましょう。もちろん、さらだも忘れません。


魔王様は本日もお褒め下さりました。頭を撫でて頂けるのは…光栄でございます。


「ステラー」


「魔王様?お休みにはなられないのですか?」


「うん、寝る前にステラに渡したいものがあるんだー」


「わたくしに…でございますか?」


「そう。これあげるー」


そうしてお出しになった物は小さな飾り…これはピアスでしょうか?


「こちらは…?」


「エルフの国を守ったら女王様にもらったんだ。俺はつけないし、ネージュももらってたんだけどかわいかったからステラに」


高価に見える宝石が小さくついているピアス。大変純度の高い宝石でしょう。


「魔王様…わたくしはメイドです。このような浮ついたものを着けるのは魔王様に対して失礼ではないかと…」


「なんで?」


「…申し訳ございません。出しゃばったことを申しました。罰としてわたくしを煮えた油のお風呂に…」


「メイドだっておしゃれはしてたぞー?それに、ステラが着けた方が似合うしかわいいよ」


「わたくしが、かわ、かわいいでございますか…」


「うん、かわいいよー。ステラはかわいい!」


「…魔王様が仰られるのであれば…」


自室の鏡を用いてピアスをつけ、魔王様のもとへ戻ります。魔王様が笑ったような…そんな気がいたします。


「うん、似合う似合うー」


「ありがとうございます。素敵なピアス。大切に致します。ひゃっ!?」


「ステラ。おしゃれがしたかったら言うんだぞ。服ももっとかわいいのを今度探しに行こうな」


「は、はひっ!」


頭を撫でて下さり、おしゃれの許可も頂きました。今は思いつきませんが…いつか、魔王様にお願いする日が来ましたら…。ああ、頭を撫でて…ふぁあ…きもち…。


「ま、魔王様!本日はお疲れでございましょう!今夜はお休みくださいませ…」


「うん。寝るー!じゃあステラ、おやすみ」


「おやすみなさいませ…」


自室の鏡の前でピアスを眺めながらわたくしは頭に触れておりました。魔王様に撫でて頂きますとわたくしは呆けてしまいます…。魔王様はわたくしにたくさんの幸せ…と言うものをくださります。わたくしは何もお返しができない…。もどかしい毎日でございます。


お優しい魔王様…ですがわたくしはこれが夢ではないかと思うことがございます。わたくしは今眠りについており、目が覚めると魔王にいたぶられる日々が戻って来るのではないかと…。夢ならば覚めないでほしい。わたくしも…幸せを願いたい。わたくしにその権利はないのですか?


考えている間にわたくしはベッドで横になり、眠ってしまったようです。目が覚めると先代魔王の時の汚い藁を敷いただけの部屋…ではなく、ベッドでございました。


いいえ、これも幻覚で今に魔王が起きてきて…わたくしは引き裂かれ…。そう言っている間に魔王が起きてきてしまう可能性があります。朝食を用意していないとはな、と何をされるかわかりません。いつものように朝食の支度。


「おはようステラ」


挨拶に振り向くと…眠そうな魔王様。ああ、これは夢ではないのですね。耳に触れれば昨夜に頂いたピアスもあります。よかった…。


「おはようございます、魔王様。朝食をご用意いたします。ネージュ様は本日は目玉焼きとハムを一枚追加…でよろしいでしょうか?」


「ああ。昨日頑張ったからなー」


「かしこまりました。魔王様はいかがいたしましょう?」


「俺はいつも通りでいいよー」


「承知いたしました」


お優しい魔王様。頑張りを正当に評価するお方。先代以前の魔王にはないことでございます。


「おはようございますっ」


「おはよーネージュ」


「ネージュ様。おはようございます。本日は目玉焼きとハムを一枚追加でございます」


「やったーっ!魔王様、ありがとうございますっ」


「昨日がんばったもんなー」


「えへへ♪」


「ふふ…」


わたくしはこの時気づいておりませんでした。約一万年ぶりに、笑ったことを…。

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