海ダンジョン 4
拝んでる男に結界を張ってから、天河を振ってゴブリンを倒した。
「ややや・・・お助けぇ・・・」
コイツ、良くここまで来れたな。
目を瞑って震えてるから結界張ってたのも気付いて無さげ。こそっと解除した。
「終わったぞ」
「は?ふぇへぇ!!?」
腰が抜けてるのか上半身だけ左右に周りを見渡す。
「ええええぇぇえええ・・・」
ドロップ品と武器がいくつか落ちてるだけになってる。
「怪我は?」
「ほぉあ!ちょっと切られたぐらいでぇ!」
テンパって江戸っ子になっているこの男はブランと名乗った。
前歯が印象的なハーフのネズミ獣人だそう。
身長が俺の胸くらいで子供かと思ったら十八歳だとさ。
「わっちはこげな美しか男ん人見た事ないでやんすよ」
何弁かわからないが結構訛ってるなぁ。
でもめっちゃ褒めてくれて気分は良い。素晴らしかろう。俺の愛するイケメンの全ての要素を凝縮してるんだ。もっと褒めてくれて良いぞ。
安心したからかめっちゃ喋る。
ブランはぼっち攻略していたんじゃなく、仲間達がゴブリンの多さに対応しきれず、囮になれと置いて行かれたらしい。
ひでぇなぁ。俺は今のところ嫌な冒険者に会ってなくて、ドットたちもランガたちも大当たりだったんだなぁ。
「わっちは弱い、荷物持ちでやんすから」
しょぼんとしてるブランは近くに落としてあった大荷物を指差す。ゴブリンが荒らしたのかボロボロだ。
「マジックバッグないのか」
「何言ってるでやすか?そんなのレアでやんすよ!大金持ちの持ち物でやす!!」
めっちゃツバ飛ばしてくるやん!
「装備を整えるので精一杯でやんすから」
「ここに入れるのCランクからだろ?そこそこ稼いでないのか?」
キーーーっと歯を剥き出しにされた。
「お坊ちゃんはお金に苦労してないでやんすね!?ランクが上のダンジョンに入れるようになったら装備も良いやつに変えるでやすからお金なんてすぐ消えるでやんすよ」
まぁ、防具とかもそれなりに気を使うか。
「で、ブランはこの後どうするんだ?五階層に戻って帰るか十階層目指すか」
お金が無いなら緊急脱出用の魔道具持ってないよな。五階層に戻るならボス攻略が済んでるからゲートは使えるだろうけど、ブランが一人で戻るのは無理そうだ。
「ややや・・・」
上目遣いで見てくるが男にはときめかないぞ。
「俺は今回三日しか居られないから戻りに付き合う気はないぞ」
冷たいだろうが時間は有限だ。そして〈転移〉を使えることをバラすほどの信用はまだない。
「十階層までなら俺について来ればゲートで戻れる」
ブランだけゲートを使えば良いしな。
「・・・十階層までお願いするでやんす」
「その荷物、ブランが持ってるなら他の連中は五階層に戻る感じか?」
食糧やポーション、寝袋とか何も持ってない状態で先に進むのは無謀だろう。
「・・・アイツらの性格だと行きも戻りも同じだけの階層でやすから同じことだと進むと思うでやんす」
なるほど。出てくる敵の強さはアップするのに考慮なしか。
ちょっと聞くと仲間は狐、猿、狸の獣人だってさ。メンツが日本昔話に出てきそう。
「途中で見つけらたどうする?」
「・・・もう戻れないでやんすよ」
だろうな。
「じゃ、助けないぞ」
「・・・」
良心が咎めるか?ドットたちなら助けるかな??
仲間を置き去りにする連中はバチが当たっても良いと思うが。
「なるべくガチ合わないように進もう」
見ちゃえば気になるだろうしな。
「荷物は預かる」
「ほぇ?」
「俺は金持ちだからな」
ボンボンではないし、苦労したことはないとは言わないけど、今はかなり恵まれてるぞ。チートな魔法使えて、神器クラス武器まで貰ったという恵まれ具合だ。
ついでに傷にポーション使えと渡すと恐縮しつつ、「天使さま」って涙ぐむ。天使ってカナンとポルドスで聞いたことはないけど、他国人か?
「さて、風のように速く飛ぶように軽やかに〈俊足〉」
自分だけなら省略出来るけど、人に付与する時はイメージを植え付けないといけない。面倒で恥ずかしいぞ。
「ほぇぇぇーーー!付与魔法ぅぅ!!」
「行くぞ」
俺は今日中に十階層を超えたい。
ブランは自分の足の軽さに驚きつつ、俺の足に付いてくる。
元仲間に出会わないようにこっそりスマートウォッチを確認して進んでいるんだが、近くに反応はないな?すでに九階層に進んだか?
ブランは荷物持ちだからか俺が途中で倒した獲物のドロップを俊敏に拾ってくれる。
「ジェイルさん、運がいいほうでやんすか?」
「んー、多分良いと思う」
この世界ではな。
「ドロップ品が当たりの方が多いでやんすよ」
「そうか?」
「わっちらだとハズレ続きでこの差にうんざりでやんすよ」
んー、皮か牙とかの当たりとかわからないぞ。
「あ、あの木の実美味いでやんすよ」
ブランが言う木の実は高い位置にあった。ブランの前で短銃使えないぞ。っと悩んでたらブランがスルスルっと登って行って、ポコポコっと落としてくれた。身軽だ。
「もちっとしてねっとりなんでやんす」
ブランが中身を出してくれて食べると、どうやら牛乳餅かバター餅のような甘ったるいような素朴な味。
食感は缶詰の桃・・・?
「好きじゃないでやんすか?」
ブランは頬をパンパンにして食べている。ネズミっていうよりリスのようだ。
「いや懐かしい感じのだよ」
「でやんしょ」
口に入れたままで話すなよ。
出会いは緊迫だったのに、ちょっと気が抜けるような感じでのほほんと八階層を出たよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます