〈新月の雷光〉

 テンション上げ上げで、スマホで無限収納の中身を確認した。


 実家のトラクターとコンバインと、実家に預けていた漫画やプラモとか入ってた。

 って言うか、おとんたち、トラクター使えんくなったの!可哀想だぞ。

 俺が買って保険付けてたから、俺の財産ってか。プレゼントしたやつなのに。

 

 俺ミンチなら事故相手と俺がかけてた保険入るだろうから、それで買ってくれるかな。

 しかし事故相手も巻き込まれただけで気の毒な話だ。召喚した国の人、何か補償してあげてて欲しいぞ。


 あのアンナと籍入れる前で、保険の受け取り書き換えてないし、会社の退職金も出るし、ん?全財産こっちに収納って言ってたな。

 アンナの親と兄妹もちょっとヤバそうだったから、籍入ってたら泥沼だった。ごめんよ。おかん。俺ちょっとバカになってた。


 受け取る前の保険金とかはこっちじゃなくて親に行くよな??

 

 ちなみに今俺の所持金は数億入ってる。株も現金化したのかも。

 働いて貯めた預金自体はあのアンナにほぼ・・・。

 しかも2LDK(一応都内)は部屋数足らないとか立地が気に入らないとか、家具全部ダサいとか言われて、新婚旅行から戻ったら物件探す予定だった。

 怖い!!今思うと超怖い。

 独身生活長過ぎたオッサン、チョロすぎた。


 はぁ、トラクターとかは返してあげて欲しい。



 一旦、無限収納を閉じて画面切り替えて、

アイコンを眺める。


 ショップ、無限収納、辞典、音楽、MAPまでは認識してたんだけど、ゴミ箱のイラストアイコンが増えてた。


 ゴミ箱は、ショップで買った物のゴミ入れで仕分けして、ポリ、紙、アルミ、鉄、合金、硝子などに変換され、錬金素材として無限収納に移動する。

 便利ーーーー!!

 ちなみに変換出来なかった分は灰になるかか消滅する。


 消滅する!!!


 ブラックホール的な。


 


 とりあえず、タバコの追加と寝酒、選ぶかってショップ開いたら。


 カテゴリの欄にプレゼントボックスのボタンが。元からあったっけ?


 タップしてみれば。


 複数のボタンが出て来て、ティアランシアとドリアスって書いてある以外は文字化け。


 ティアランシアのとこタップすると【ティアランシアに贈る】って表示が出て来て、【はい】と【いいえ】が。


 しかも「神殿で祈っても贈れるよ」って。

 どんだけ贈られたいんだ。


 ドリアスって名前聞いただけなんだけど。  

 文字化けはまだ知らない神の名前ってとこかな。


 もしかして、他の神にも同じだけ贈らないとダメなのか?

 

 みんな酒とタバコが好きな神なんだろうか?


 文字化けボタンを一つポチッとしてみる。


【火と鍛治の神、ヴェール。お酒と辛いものが好きだ】


 コメントが出てくるー!


 辛い物って。


 まずお買い物しないと贈る物がないのでそっと閉じた。


 うーん?コンビニより物が無いけど辛い物ってなんだろ。



 あ、先にご飯食べてこよう。



 下に降りると食堂は結構うるさかった。


 そしてむさ苦しい男ばかり・・・。

 ほっこりカントリーな〈小鳥の止まり木〉なのにガタイの良い男ばかり・・・。


 なんだろう。不思議の国モチーフのカフェにマッチョしかいないみたいな違和感。


「あれ、坊や。ここどうぞ~?」

 エンマさんがカウンター席に呼んでくれる。


「今日はシチューだよー・・・ん?坊や、どこで暴れてきたね?」

 え、暴れてないけど。


「こんなシャツ破いてぇ!良い生地みたいなのにもったいなかね!脱ぎんしゃい!私が縫ってやるけね」


 あ、ロンTのことか。破れてるデザインだよ。


「あー、これそう言うデザインなんだ。心配かけてごめん」


 危うく田舎のおばあちゃんに古着のダメージデニムにアップリケ縫い付けられるみたいな状況になった。


「おいおい、兄ちゃん!最初から破れてる服着てるってぇのか?」

「俺の古着やんぞ」


 ガーン。

 ゴスパンのダメージ加工は貧乏で可哀想扱いなのか。

 イカついお兄ちゃんたちにめっちゃ心配げに見られてる。


「あれあれぇ!気に入って着てるんけ!」

「へぇ!変わってんな!お前」

「おっさんがエール奢ってやるわ」


 めっちゃ良い人ばっかやん!なんか泣ける。


「ほれ、シチューの肉大盛りにしてやった」

 奥からボルクさんが出てきた。

 話が聞こえてて、オマケしてくれたらしい。


「おー!やったな!今日は大当たりのビッグベアのシチューだからな」

「あ、ズリィ!ボルク!俺も大盛り!!」


 目の前に出されたのは熊のシチューらしい。

 色合いはデミグラスかな?


「いただきます」


 あれ?なんか変なこと言った??

 木製スプーンを持ち上げたら、エンマさんもボルクさんもお兄さんたちもポカーン。


「?」


「いやぁ、坊や、やっぱ育ちが良いのねぇ」


 あ。いただきますって言わない感じ??


「良いとこの出で破れたシャツ着たいんか!!」

 なんかドッと盛り上がってる。

 

 わざと貧しくしてると思ったっぽい??


 ゴスの衣装は普通は高いんだけど、知らなかったらそんな感じか。


 まぁどう思われても・・・あ。


 日中に遠巻きにされてたのは、ダメージ加工のない服だったよな。どっちみちなんか可哀想に思われてた感じ?


 うーん。


 冷めないうちにシチュー食べよ。

 肉大盛りでシチューって言うより煮込みに見えるけど。


「・・・うま」


 肉ホロホロで玉ねぎみたいなのと芋も味染みてて、薬草かな?香辛料代わりのが効いてて超うまい。


「そうだろう」

「だよなだよな」


 なぜお兄さんたちが嬉しそうなのか。


 あ、お兄さん言ってるけど、俺が元おっさんがだからさ、同年代くらいまではみんなお兄さんって言うよ。自分も切なくなるからな。


「ほい!エールだ。乾杯しようや」

「おーい、みんな揃ったかー!」


 ボルクさんもエンマさんも、お兄さんたちも自分でエール注いできて。


「「「坊やとの出会いに!!!」」」


 え!?俺!?


 その夜はなぜか、お兄さんたち〈新月の雷光〉に離して貰えなかった。



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