序章 2

 目の前の美女は、最初は気怠そうだったのに今は楽しげにしている。


「チートに見た目・・・」


 ええ?好きなものが手に入って理想の見てくれになれるの??


 何か落とし穴がありそうだ。


「まずその世界はどんな世界だ?」

 

 原始時代とか近未来とか極端にだと生きていける気がしない。


「そうねぇ。ちょっと記憶回路覗かせてもらうわよ」


 女神が俺の方に指先を向けるとなんとなく違和感。


「そう・・・、そうね。中世ヨーロッパ?くらいで魔法と剣の世界って言えばわかるのね?」


 あ、異世界転生でよくあるヤツですね。


「魔物は出るけど魔王はいない。身分差は国によってマチマチ。冒険者になれば国の移動は自由ね」


 ほうほう。


「えーと、まず見た目は、カッコよく・・・」


 若いうちはエドワードかリバー・・・いいや、キアヌも捨てがたい。

 ルーク・・・リーアム・・・オーランド・・・ジョニー・・・。

 あ、最終的にはアラン、デビッド・・・いやいや待てよ。


 何も外国攻めじゃなくてもいいかな。


 真田広之、渡辺裕之・・・要潤。北村一輝、宇津井健も良い。

 いやここは、アッちゃん、ハクエイさん、ヒデさん、ハイドさんとか美しい男もありだ。


 憧れのスターにだってなれる機会だ。なりたい顔が多過ぎて選べない。


「ちょっとイメージ多すぎてわからないわ」

「待って!若いうちは綺麗で歳を取ったら渋いオジになりたいんだ」


「お前、あのアンナには言いなりだったのにいきなり自己主張強くなったわね」


 そりゃね。そのアンナ、否定すると暴れるから黙った方が早く収まるから。


「怖い!洗脳?やだねぇ」


 とにかくせっかく自分の理想をえらべるなら厨二と言われようが憧れを詰めたい。


「本当哀れな子ねぇ」


 うーん。歌声はハイドさんか森友さん・・・いや、稲葉さん・・・。


「なぁに?吟遊詩人にでもなりたいの?」


 はぁ!カラオケがない世界ぃぃ!!うぉー。


「ふぅん?お前のいた世界面白いのね」


 あ、まだ記憶を覗かれてますか。そうですか。


「うん、だいたい好みはわかった。見てくれは私が決めてあげるわ」


 ぎゃー!まさかの時間切れぇ!!!聞いてないよ!


「で、チート?何が欲しい?」


 あ、異世界転生小説網羅で行くべきやつだ。


「まず無限収納と転移。言語に困らない・・・剣と魔法はある程度使えるか会得しやすい。あと銃とバイクが欲しい」


 どっちもリアルでサバゲーやツーリングやってみたかったけど、時間が無くて。いやあったけど、休みは寝たかった。


「銃にバイクゥ?」


 あ、すごい渋面。無理か?望みすぎか?

 徒歩移動嫌だぞ。


 車は目立ちそうだから諦めたけど。バイクは人が少ない場所でなら良いよな。


「そう、メンテナンスと補充がいるなら錬金術もいるわね」


 え、剣と魔法が使える上に錬金術!?


「あとは?」


 あ!酒とタバコと調味料と・・・。


 あ、ファストフードやコーラとかジャンキーなものに中毒症状がでる気がする。


「タバコ?データには好んでたとかないけど?」


 タバコは世界中のあらゆるタバコを試してみたかったけど、会社は禁煙だし、あちこち制限があるから二十代でやめたんだ。


 葉巻もキセルもなんでも好きだ。


「それはお前のいた世界から取り寄せたいってこと?」

「出来れば」

 出来なければ、自分で入手できる方法か、作れるようにしてほしい。


「フーン?私の世界にはあまり種類がない。取り寄せだな。酒もだな?」


 酒!!それこそ美味しいのが飲みたいから!!



「・・・酒とタバコをお前が取り寄せた分、同じように私にも捧げるなら良いぞ」


 お、あなたもお好きですか?


「捧げますとも」


「異世界の食物・・・最低限だぞ」

 

 おお!神よ!


「お前の地球での持ち物は無限収納に入れてやる。スマホともタブレットはお取り寄せと辞書、それに記録してあった音楽だけ使える」


 おおおお!!!音楽が聴ける!記録は古いのとアニソンだがまぁ良いか?

 新しいのはサブスクだからな。


 ん?地球での持ち物??


「露出激しい女の書?とか数字がいっぱいの紙や家具、家財やらだ」


 なんで露出激しいのから出てくるの。数字いっぱいの紙ってなんだ。新聞の株ページのか?競馬新聞かレシートとかか?

 あ、通帳か?


「あと金だな。向こうの財産をこちらの通貨にして収納してある」


 至れり尽くせり!!


「あ!服!!」

「ん?」

「服はどうなりますか?」

「なんだ?希望があるのか?」


 んー、周りから浮かない方がいいだろうけど、ゴシックパンクとか黒系なのが良いな。

 いや、冒険者には向かない?


「・・・創造魔法を付けてやるから自分で作れ」

 あ、めんどくさくなったな。


「もう満足か?」


 えー!わからない。

 何か不備があるかもわからないから。


「足りないものは創造魔法で作れば良いだろう」


 そうだった。


「あ、初期装備はください」


 さすがにマッパとか装備ゼロで森の中とかだったら笑えない。


「今!ここで!欲しいものを自分で想像して装備しろ!!」


 キレた!


 短気だなぁ。


 仕方ないのでタブレットに保存してあった写真でイメージして、革パン、ブーツ、シャツにジャケット、ベルトに短剣と、短銃と。

 時計・・・は懐中時計か。


 無限収納がバレないようにウエストバッグ。


 って、まず見た目どうなった。


 鏡を出して。


「まだいじってないぞ。見た目は向こうに着いてからのお楽しみだ」


 ちょっと!!


 浮かれた中年が素でコスプレしてる状態って!!



 あんた!最後まで俺を弄んだな!


 向こうに着いてからな酷い見た目だったら死ねるんだけど!


「まぁまぁ。ちゃんとお前好みにしてあげるよ」


 絶対だぞ!


 そうして俺は、女神の世界に行くことに。


「そう言えば名乗って無かったねぇ、私は掟と契約の神ティアランシア。あっちでちゃんと崇め奉るんだよ」


 掟と契約なら、召喚した世界に絶対ペナルティつけてくれよー!!!



◻︎◻︎◻︎



「ティアー、随分大盤振る舞いだったじゃん」


「そうでもない」

 

「なになに~?うわ。可哀想」

「だろう」


 一ノ瀬成。四十二歳独身。

 過去、幾度か良い縁に巡り合っていたが周りの悪意で断ち切られる。

 姉の友の妨害、大学での親友の裏切り、会社の同僚の妬みなどで、良い縁の相手と話すことが無かった。

 彼は器量は普通。性格は寛容。逆に無関心になる部分もあり人付き合いが成立しにくい。


 仕事面では上司に恵まれず。残業、休日出勤、クレーム対応を押し付けられ、部下のミスもカバー。

 出世が遅れた。


「うわー、周りが敵だらけ」

「上司に恵まれないの、本当に辛いわねぇ」

「えー!」


 今回の事の始まりは今目に前にいる創造神ドリアスのせいだ。


「他の世界の者を犠牲にする召喚魔法を教えたのは誰だ?」

「えー!でもたまに新しいモノを招く方が成長するんだよ」


 ふよんふよん身体を安定させないままのドリアスが、成が最後に「最初の捧げ物」と置いて行った酒とタバコに目を付ける。


「やらんぞ」

「ええーーー」

「お前も召喚された者たちから貰えば良いだろう」

「欲しがったチートにお取り寄せ無かったんだもん」


 そう、約定で欲しがったチートとほんの少しプラスアルファぐらいしかあげられない。


 だから私は欲しいものを好きに考えさせた。


 自分でお取り寄せは出来ないけど、仲介役が入るとなぜか出来ちゃうのよ。


 成は美容品とか言ってくれなかったのは残念だったけど、酒とタバコは十分嬉しいからね。


 シュボッ


「ふー」


 細長いタバコ。私の世界にあるタバコと全く違う香りもいいもの。

 落ち着くー。


「いーなー」

「欲しかったら成に何か良い事して崇め奉ってもらえばー」

「それだっ」


 ドリアスは悪いやつじゃないけど、仕事はサボるし、面倒くさい問題を起こして私は調停に入らなくちゃ・・・。

 あ、悪いじゃない。


 思いつきで動くから。



 さて。


 成の記憶からもらった、音楽の映像でも楽しもうかな。


 違う世界のものに触れるのも勉強よね。


 あ!この歌カッコいいわねぇ!





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