第5話 第二次逃走

「馬鹿な、そんな事が……」


 開いた口がふさがらない。今、あいつは何と言った?


「物理無効だと?」


 そんな事があっていいはずがない……


「私なんて……」


 許せない


「ピザなんだぞー‼︎」


 こんな格差認められるか!






 落ち着け、私。冷静になれ。そう、一つ一つ整理していこう。


 先ず、予想通りのタイミングで聖騎士御一行様が来た。これは良い。

 彼等を街道とアジトの間にある森の中で迎え打った、これも良い。

 事前に大量に仕掛けておいた罠が彼方の斥候に簡単に無力化された、これも良い。

 各所に潜ませておいた賊によるゲリラ的奇襲が簡単に返り討ちにあっている、これも良い。


 しかし、森を抜け、アジトまでたどり着いた奴等に、アジトを囲うバリケードから弓や投石での攻撃を始めた時、敵の中から1人の男が特出してきてバリケードに攻撃してきたのだ。

 しかも防具を身につけていない軽装なのに弓も石もまったく効果が無く、その手に待つ剣でバリケードを壊すと


「降伏をしろ!俺のギフト『黄金の鎧』はあらゆる物理攻撃を無効化する。お前達に勝ち目は無い!」


 とか叫んできたのだ。


 金髪、碧眼、ギフト。間違いない、奴が転生者だ。


「チッ!矢が効かねぇってならよ、コイツはどうだ!」


 そう言って頭が部下に合図を送る。すると頭の後ろから4人の杖を持った山賊達が現れる。


「くらいやがれ!」


 頭の合図と共に4人が待つ杖の先から火球が放たれる。

 あの杖は謂わゆる魔道具で、魔力を込めれば込められた魔術が発動する物で、襲った商人や冒険者から奪った物だ。因みに結構な高級品。この山賊集団の切り札でもある。


「無駄だよ」


 転生者君がそう言って剣を構えると放たれた火球はたちまち剣に吸収されてかき消えた。


「なっ!てめぇ、何しやがった!」


「俺の待つ神器『黄金の剣』はあらゆる魔力を吸収する。そして、返すよ」


 奴がそう言って剣を振ると剣から炎が飛び出し、杖を持っていた4人に直撃した。


「「「「ギャァァァァー‼︎」」」」


 杖持ちの4人が火だるまになって地面を転げ回っている。


 そうして此方が慌てふためいている間に後ろから残りの連中が追いついてきた。

 転生者君の元に3人の美少女が駆けつけてきた。あの3人が話にあった従者とやらだろう。残りの騎士達は二手に分かれて残りの山賊達を倒しに行った。


 さて、私はここまでの一部始終を隠れて見ていた訳だが、正直に言ってしまえば今の現状は私にとって悪くない。むしろ好都合だ。

 このまま隠れてこの場を離れれば彼等が山賊達を倒してくれるだろう。そうすれば私の当初の目的は達成されるのだ。そう、それで良いのだが…………。



 駄目だ!やっぱり気に食わない。何だ、この格差は!

 物理無効?魔法吸収?余りにも与えられた恩恵に差がありすぎる!

 しかも、問題は他にもある、奴のビジュアルだ!高身長、整った顔立ち、引き締まった体!

 おまけに教会と国からの庇護を受け、美少女まで引き連れている。何だこの差は‼︎

 こちとら、低い身長、女の子みたいな顔立ち、華奢な体つき、おまけに国からは犯罪者として追われる立場だ!その上ギフトはピザと鉛とタバコだぞ!

 こんな格差が許されて良いのか⁈


「予定変更だ」


 せめて奴等に一矢報いる。このままやられるのは納得出来ない。それに、あれだ。強い力を得て調子に乗っているであろう彼にここらで一つ、失敗を経験してもらって気を引き締めてもらおうと言う心配りだ(建前)


 そんな訳で私は隠れていた所から飛び出して、頭の方に走って行く。

 因みに今の私の格好は草木を貼り付けたヘルメットを被り、その上から先日の網を私の背丈に合わせて切った物にこれまた草木を貼り付けて作ったギリースーツを身にまとい、顔を濃い緑で塗った迷彩仕様だ。

 この格好で草木の中に隠れていたのだ。


「な、何だ!あいつは!」


 突如現れた緑の不審者に聖騎士様御一行は驚いて動きを止めた。


「頭!ここは逃げるぞ!坑道に走れ‼︎」


 私は頭と生き残りに避難する様に呼びかけて坑道に駆け込む。


「お前、サイガか⁈何だその格好⁈」


 判断が遅い!今はそんな事聞いている場合では無いだろう!さっさと逃げてくれ。


「そんな事はどうでも良い!早くしろ!」


 私が坑道に飛び込むと、頭達も直ぐに後を追ってきた。


「逃すか‼︎」


 更にその後を聖騎士御一行が追ってきている。

 とは言え中は真っ暗で入り組んでいる。私達は内部を把握しているが、彼方はそうではない。


「ライト‼︎」


 後ろから女性の声が聞こえる。おそらく一行の誰かが魔法で光を点けたのだろう。

 とは言え此方まで光がとどいていないあたり大分距離を離したようだ。

 こちらも灯の魔道具を点けて走っていく。

 そのまま黙って全員で出口に向かって走っていく。


 ある程度出口に近づいた所で目的の物が目に入る。討伐隊の派遣が確実になった時から、万が一に備えてこの坑道にいくつかの仕込みをしておいたのだ。

 さて、先ずは隣を走る頭の足をナイフで突き刺す。


「グアっ‼︎」


 足を刺されて転倒した頭に後続の連中がぶつかって転倒していく。そこに着ていたギリースーツを脱ぎ網として投げつける。そこに事前に準備して置いておいた小麦粉入りの袋をナイフで破り投げつける。


「テメェ!何しやがる!」


 頭が何か叫んでいるが無視して走り出す。そのまま大分距離をとって曲がり角まできた所で後ろを見ると離れたところに私が点けている魔道具とは別の光が見えた。どうやら聖騎士達が追いついてきているようだ。私は急いで火薬玉に火を点けて全力で投球すると角を曲がり、岩陰に隠れると耐火性の布を被り衝撃に備える。


「サイガーーーーー‼︎‼︎」


 後ろでは頭の叫び声と共に、火薬の爆殺が小麦の粉塵に引火、粉塵爆発を引き起こし、轟音がなっている。

 ばら撒いた小麦だけではない。そもそもここは元鉱山である。当然大量の粉塵が出ていた。閉鎖後は掃除なんかもしていないので、当時の粉は地面に降り積もり堆積していた。そこを大人数で走ったのだ。それらは舞い上がり、私達の走ってきた道は粉塵でおおわれていた。更に道中の各所に火薬入りの袋を設置しておいた。それらにも爆発は広がり、後ろから追ってきていた聖騎士達にも被害が出ただろう。

 と言うか想像よりもずっと大きい揺れが起きている。かなり大きな爆発だった様だ。崩落が起きて閉じ込められたらかなわない。爆発が治ると私は口に布を巻き、姿勢も低く、それでいて先程よりも急いで出口に向かって走り出した。


 走り続けて何とか出口にたどり着いた。先ずは万が一にも追って来れない様に出口に設置しておいた大量の火薬を爆破し、天井を崩落させて出口を塞ぐ。


「じゃあね、みんな」


 さて、さっさとこの場から離れるとしよう。長居して運悪く誰かに見られたりしたらたまらない。こちらに来る事は無いとは思うが、まだ、騎士達がいる。鉢合わせるのは勘弁願いたい。


 あの名前も知らない聖騎士。彼のギフトは物理無効だと言っていた。だから爆発で死ぬ事はないだろう。

 しかし、狭い、密閉された空間で大きな爆発が起きたのだ。今、坑道の内部は大量の一酸化炭素で溢れているだろう。つまり、猛毒の中にいる訳だ。


「物理無効で毒を何とかできますかね〜?」


 まあ、ここで死ぬ様ならそれまで。それだけの人間だったと言う事で。と言うかあれだけ優遇されていながら、これで死ぬ様ではどのみちこの先、生き残れないだろう。


「君がこの失敗を乗り越えて成長してくれる事を期待していますよ。まあ、死んでても構わないけど」


 さて、それよりも余計なことをして、いらぬ時間をくった。予定外の変更はあったが、頭や他の賊も仕末出来た。私の情報もある程度封鎖出来ただろう。研究日誌も持ったし、最低限の旅支度も出来た。さっさと次の町に行こう。

 色々考えたが次は港街に行こうと思う。場所は地図に描いてあるのでとりあえずそこを目指してみよう。

 問題は罪科の水晶が有る大きな街だったらどうしよう、と言う事だ。どうやって潜り込もうか?まぁ、道中でゆっくりと考えながら行きますか。


 私は荷物を持って歩き出す。幸いにも今回は前回と違い、ある程度準備が出来ている。旅支度は出来ているし、お金もある。この世界の常識も学んだし、最初と比べると遥かにましだ。


「よし、行くか。……うん?」


 歩き出そうとした私の目の前に突如、何処からともなく一枚の紙切れが落ちてくる。


「何だこれ?」


 その紙を拾って見てみる。


『経験値が一定以上貯まりました。ギフトが成長します』


「おお!」


 へー、ギフトって成長するのか、知らなかった。やはり強敵と戦った?のが良かったのだろうか?

 もしかして、さっきの聖騎士みたいに強力な効果になっていたりするのだろうか?どんな風に成長したんだろう。続きを読んでみる。


『ピースメイカーの弾数が6発から12発になりました。

 マール・ボロのラインナップに葉巻が追加されました。

 ザ・ハットにソフトドリンクがセットで付くようになりました』


 紙をくしゃくしゃに丸めてポケットに入れる。知ってた。そんな事だろうと思っていた。まあ、便利になっただけ良しとしよう。特に弾数が増えたのが大きい。残弾を気にしながら戦う心配が少し減った。


「ピースメイカー」


 試しに銃を呼び出してみると今まで通りにシリンダーの中には6発入っている。それとは別にポケットの中にも6発の弾が現れた。


「おお!これで多少は楽になるな」


 それにピザにソフトドリンクが付くのも地味にありがたい。旅の道中での水の確保が楽になる。

 タバコは、うん。葉巻なんてほとんど吸った事ないからあんまり変わらない。出来ればラインナップの充実よりも出せる本数を増やして欲しかった。


 まあ、贅沢言っても始まらない。便利になった。それで良いじゃないか。

 さて、それでは気を取り直して


「先ずは港街、そして海賊を探すぞー」


 元気に行こう。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

賊王 -ピザと鉛をお届け- 般若バール @nyabaru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画