第3話 賊家業
この世界にやって来て一年が立ちました。
あの後私が何をしていたか?それは……
「姉御、準備出来やした」
無精髭を生やした丸刈りの男が話しかけてくる。服装はボロボロで手には鉈を握っている。theならず者と言った風体だ。
「よし、合図を出すまで待機。お前も持ち場に戻れ。後、姉御言うな」
現在、私は10名程の部下と共に街道側の岩場に身を隠している。
配置は私の側に半分、街道の反対側に半分で挟み込む様に待機している。
「お、来た来た」
道の先から数台の馬車が歩いて来る。一、ニ、三、全部で三台か。他には馬車の横に4人程、馬に乗った護衛がいる。装備から見て冒険者か?馬車の中にもいるかも知れない。
「まだだぞ。まだまだ」
馬車が進んで来る。
ひたすら頭を低くして馬車が近づいて来るのを待つ。
「まだまだ」
側の部下が唾を飲む音が聞こえる。
そうして、馬車が私達の目の前まで来たところで
「投げろ‼︎ゴーゴーゴー!」
部下が一斉に手に持っていた物を投げる。それはハンドボールより一回り程大きさで、一本の紐がついている。紐の先端には火がついている。
「なんだ‼︎」
護衛の冒険者が反応するがもう遅い!
私特製の爆弾が爆発する。黒色火薬に小ちゃな鉄片を混ぜただけの、お世辞にも破壊力が有るとは言えない物だが十分。怪我をした馬は倒れ、無事な馬も音と衝撃でパニックになっている。
馬に乗っていた冒険者は振り落とされ馬車は倒れた馬や振り落とされた冒険者に乗り上げ横転、後ろの馬車は急に止まれず避けようとして道を外れて車輪を岩場にとられ動けなくなる。
コレで冒険者の半数が死亡、馬がやられて足が止まり逃げる事が出来なくなる。
「弓、テェー‼︎」
完全に足の止まった冒険者にひたすら弓を射かける。
「よーし、テメェラ、突撃ー!」
最後に全員で馬車に向かって突撃をかける。
後は中から邪魔者を引き摺り出して荷物を奪うだけ。簡単な仕事だ。
この世界に来て一年、今では立派な?山賊?野盗?になった。いや〜、前世より輪をかけて酷い。
一年前、城塞都市から逃げ出したあの日、私を襲ってきた下っ端共を返り討ちにした後、アジトの場所を聞き出した私は下っ端共を人質にアジトに乗り込み私自身を売り込んだのだ。
ぶっちゃけカチコミは得意分野である。流石に殺しをしたら交渉にならないので殺してしまわぬ様に注意しながらボスの場所まで乗り込み私を雇えとおどし、ゲフンゲフン、交渉したのだ。
その後見事に内定をもらった私は組織の改革に着手した。
先ず、私が就職した会社は元は炭鉱夫だった連中が組織したもので、鉱山が採算が取れなくなり閉鎖した際に再就職に失敗、職が無くなり、食うに困った連中が集まって出来たものだ。人数は十人ちょっと。要するに素人の集団だ。
だからこそ私1人で乗り込んでも何とかなったわけだが。こちとら前世で一応訓練つんでる上に実戦経験も有るのだ。
ただ連中、体力だけはあるので、打ち捨てられた古民家等の便所と土間の土をひたすら集めてもらった。
その土から硝石をとり、硫黄と木炭と混ぜてひたすら火薬を作らせた。
硫黄は商人に依頼して買い取った。私達みたいな表立って行動出来ない人間を相手にする商人もいて、ぼったくり価格だが一応商取引が可能だった。
どうやらこの時代、この地方において火薬は知られておらず、不意を突く武器として非常に優秀だ。
その間に私は周囲の似たような賊を少数精鋭(まだマシな連中)と共に潰して回り、そこから物資と生き残った敗残兵を吸収して回った。
そんな事を半年以上続けた結果、この近辺では一番大きな集団に成長したのだ。
仕事を終えて荷物を持って山の中に有る鉱山の跡地に作られた拠点に帰ってきた。
鉱山の洞窟の穴の前にいくつものほったて小屋が有り、小さな集落みたいになっている。
普段はこの集落で暮らしていて、外敵が襲ってきた場合は洞窟に入って戦う手筈になっている。
中は暗く入り組んでいて罠が各所に仕掛けられている。その中で待ち構えて地の利を活かして戦うのだ。
いざという時は洞窟の反対側に森の中に隠してある出口から避難する手筈になっている。
「頭〜、ただいま帰りました」
「おう、首尾はどうだった?」
拠点の中で捕らえた女性と乳繰り合っている(配慮した表現)この集団のボスに話しかける。大柄で筋肉まみれの熊みたいな男だ。名前は、あ〜、忘れた。心の中ではゴリラ呼びだし、実際に呼ぶ際は頭ですむし、覚える必要がないから仕方ない。
因みに私はナンバー2のポジションにおさまっている。1番になると色々動き難くなるから丁度いい。
馴染むのには苦労した。何せ私は連中からはヤバい奴と思われていたからね。とは言え結果で信用を勝ち取ってきたわけだけど。美味しいおもいが出来れば過去のいざこざには目を瞑ってくれるものだ。所詮は賊、刹那的だね。
「まあまあだね。火薬代を引いても黒字だね。まぁ、後の事は任せるよ」
そう言って事後処理は任せて私は自分の部屋に入る。
部屋に入って最初にする事は帳簿の記入だ。
使った火薬の量、かかった費用、それによって得られた戦果、実際に使用しての所感等を記入していく。
そもそも私がここで山賊紛いの事をしている理由がこの帳簿にある。
勿論、生活基盤の確保や資金集め、この世界の知識の入手等も目的だ。しかし、一番の目的は今後の活動の為の実験なのだ。
この世界において火薬が一般的ではないと知った私は、この世界における火薬の有効性と製作難易度の検証、そして、火薬を世間に広く広める方法を模索し始めた。
火薬を広めれば、人類に有益な武器になると考えたのだ。
そうしてここ数ヶ月の結果をまとめ、改善点の洗い出しを行っている。
結果は有効性は高いが、やはり製作難易度の高さが問題点だ。特に硝石の入手、これが難しい。
便所や土間の土からだけでは、安定的かつ大量に入手するのは不可能だ。
「今から硝石を作るのもなぁ〜、4、5年はかかるしなぁ、絶対それまでこの集団はもたないぞ」
正直、私はこの集団を見限っている。今はイケイケムードで波に乗っているが、このまま被害を出し続ければ本格的な討伐軍を領主辺りが組んできて壊滅するだろう。
戦って勝つのは無理。多少火薬があろうが所詮は烏合の衆。根本的な練度と装備の質で負けているのだ。そこに数まで揃えられたら勝ち目なんて無い。
かと言って山賊達に掠奪を止めると言う選択肢は無いだろう。つまり、詰んでいる。
よって私が取れる選択肢ただ一つ。出来る限りのデータと資金を集めてヤバくなったら逃げる。コレしかない。
所詮は悪党。ここまで規模と勢いを大きくしたのは私だが、自分の人生は自分で責任を取ってもらおう。
私は手元に地図を広げる。コレは行商人から買い取った物だがお世話にも精巧な代物とは言えない。今いる地域とその周辺を書き記した地図だが、大雑把な上に抜けが多い。そのくせ値段は馬鹿みたいに高かったのだ。
しかしそれも仕方ない事で、寧ろ前世の様に精巧な地図が当たり前に手に入るのが凄い事なのだ。地図とは軍事情報だ。街道や重要拠点の位置など、他国に知られたくない情報のオンパレードだ。他国に侵略されない様に自国の地図を秘匿するのは当然。
それを思えばこんな不良品でも手に入っただけ大分ましだ。
さて、逃げる先はどうするか?候補はいくつかあるが、やはりもっと情報が欲しい。大規模な都市には近寄れない身の上だ。かと言って辺境に隠れ住んでばかりでは女神との契約に反する。さて、どうしたものか?
普段悩んだ時は時間が解決してくれるのを待ったりもするが、今回ばかりは時間も敵で、早くしないと敵が来てしまう。
さて、どうしたものか?と悩んでいると、にわかに外が騒がしくなる。
「どうした?」
そこら辺を歩いている適当な賊Aを捕まえて聞いてみる。
「あ、姉御。いや、何でも領主の軍が街道の見回りを強化するって言う情報が潜ませてる連中から上がってきやしてね」
あー、なるほど。最近少し活発に動き過ぎたか。そりゃこうなるか。仕事がやり辛くなるな。
潜ませている奴とはいくつかの村や町に潜り込ませている連中で、獲物や騎士の巡回の情報を送ってくれる、謂わばスパイだ。
しかしどうしたものか?ほとぼりが覚めるまで大人しくしているのが一番だが、賊の規模が大きくなり過ぎた。捕らえた人間も含めると五十人近くいるからね。その人数を長期間養っていく程の金は無い。
身体が大きくなり過ぎて消費エネルギーが増え過ぎた。働くしかない。
かと言って一度楽を覚えたろくでなしに今更真面目に働けと言っても無理だろう。そもそも働き口も無いしね。
さて、どうしたものか……。
「……っと、それは分かったが結局この騒ぎは何だ?」
パニックでも起こしてるのか?いや、流石にそれは無いか。
「へい、それでその報告を聞いた頭が見回りの騎士を倒してやると宣言しやして、皆んな興奮してやる気を漲らせているんでさぁ」
…………………………ハァ⁈⁈⁈⁈⁈
イヤイヤいやいや嫌々イヤイヤ、何言っちゃてんの?
そりゃ倒せるか倒さないかって聞かれたら倒せるよ。見回りは基本、騎士1人と数名の兵士を同伴する形で行われるからそれくらいなら何とかなるよ。
でもさ、そんな事しちゃったら向こうも本気になっちゃうじゃん。討伐軍の編成が早まるだけじゃん!仲間を殺されたら向こうも引かなくなるじゃないか!
くそっ、見誤った。あのゴリラ、そこまで考えなしだったとは!動き難いし、部下を率いる位のカリスマ性が有るからって神輿として担いだのが間違いだった。
いくら上手くいっているからって調子に乗り過ぎだ。
「落ち着け、先ずは落ち着け」
自分の部屋に戻った私は能力を使用してタバコを召喚して心を落ち着けようとする。
兎も角、先ずは説得だ。無謀な事は辞めさせよう。
それと、説得が失敗した時の為に逃げる準備もしなくては。
先程の地図をもう一度取り出してよく見てみる。こうなったら感だ。直感で行き先を決めるしか無い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます