第3話

「この場で即座にあなたのその考えは否定しません。今日私がアデレイドさんにお話したかったのも、内容的には近くて、ですね。つまり将来的に私と殿下の間で婚約が解消され、アデレイドさんが殿下と結ばれる可能性が出たときに、身分差はともかく、立ち居振る舞いや言葉遣いなどの面で苦労なさるのではないかと」


 つい先程までは考えていたのですが。

 言葉を飲み込み、アデレイドの出方を窺う。アデレイドはぱっと顔を輝かせていた。


「先回りして心配してくれたってこと? 優しーい。それでなになに? 私にジュリエットさん自ら王子妃教育でもしてくれるってこと? 素敵だね。嬉しいよ」


 提案の内容を先んじて言い当てられる。ジュリエットは目を瞬いた。


(アデレイドさんは、すごく頭のキレる方だわ。普段の見栄も外聞もないような、品のない振る舞いが嘘みたい。こちらのアデレイドさんの方が、本物のように思える……)


 ジュリエットの表情から考えを読んだかのように、アデレイドは艶やかに微笑みかけてきた。


「ジュリエットさんは、あのぼんくら殿下にはもったいないってずっと思っていた。このまま殿下有責で婚約解消に持ち込めるように励もう」

「励む?」


 思わず聞き返すも、アデレイドはにこーっと破顔するのみ。


「こっちの話。ジュリエットさんの気持ちはよくわかった。ただ、私とジュリエットさんが仲良くしていると何かと勘ぐられることもあるかと思うから、表立って話すのはこれっきりにしよう」


 そのまま、さっと席を立つ。追いかけるようにジュリエットも席を立ったが、「そこまで」とアデレイドに鋭く言われて、動きを止めた。

 真摯な光を湛えた瞳でアデレイドはジュリエットを見つめ、ぐっと声を低めて告げた。


「ここで話したこと、私は誰にも口外しない。約束する。ジュリエットさんも全部胸に秘めといて。悪いことにはならないように、全力を尽くす」


 座したジュリエットにさっと歩み寄ってくると、手を差し伸べてきた。頬にかかる後れ毛に指で軽く触れて、囁く。


「君をあの男から解放してあげる」


 微笑みの余韻を残して、その場を去った。


 * * *


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