第13話 レン=ワールド
ゴブリン達の死骸を挟むようにして、俺たちと向かい合った相手は、軍服のようなものを身に纏っていた。
女性だ。
輝く金髪は短くカットされていて、印象としては怜悧である。あと、胸が大きい。
多分、アメリカの軍人だ。
名前 レン=ワールド
Lv 170
職業「英雄」
技能「限界突破」「鼓舞」「カリスマ」「炎魔法」「鑑識眼」
称号「女神の加護を受けしもの」「世界を導くもの」「ダンジョン踏破者」
その名前は、聞いた覚えがあった。大国アメリカのトップ冒険者だ。
つまり、世界でも一番の冒険者ということに他ならない。
自衛隊のトップがLv150という噂を聞いたことがある。
対して彼女はLv170。見ただけで、その特異性が際立つ。
称号もなかなかなものが揃っている。サトラと違って物騒な感じはない。
まっすぐに英雄として成長してきたという印象だ。
サトラは、彼女に対する警戒を緩めない。
緊張している。それは、個人に対するものというより、その服装に対してであるように見えた。
間違いなく、サトラはアメリカ軍と因縁がある。
13歳でアメリカの宇宙船に乗り込んだという彼女の情報が頭をよぎった。
『やあやあ。よかった。人に会えて。君たちよかったら道を教えてくれないか。』
隙がない印象だった表情が、緩んだ。
心底助かったと言いたげな雰囲気。
冷たそうな美貌が、少し表情を崩すだけで親しげな様子に変わる。
それは魔法のようで、俺の警戒心は溶かされた。
「どうしたんですか。」
『ああ、ちょっとストレス発散代わりにモンスターをボコっていたら帰り道がわからなくなってね。』
可愛らしく舌を出した。
身構えていたのがバカらしくなるくらいに彼女はフレンドリーな人だ。
「俺たちもわかってるとは言い難いですけど。まあ、来た道を戻るくらいならできますよ。」
左手の方に行き続ければいいだけだ。行き止まりにも迷い込むだろうが、勘弁してほしい。
マップがないからな。マッピング技能を手に入れるべきかもしれない。
どういう風に道が分かれたかだけでもメモっておけばよかった。
まあ、目の前で疑問符を浮かべているこのレンって人よりはマシだろう。
代々木に潜るんだったら、現在位置把握は基礎の基礎なのに、何も考えずここまで来るなんて。
圧倒的なLvにものを言わせられるからこそできることだろうけど、それでもバカと言って問題ない。
俺の呆れが伝わったのか、彼女は言い訳を繰り出した。必死だ。
今更取り繕っても遅い。
彼女のそれを聞き流して、もっと大事なことを聞くことにした。
「とりあえず、自己紹介をしましょう。俺は直方仁です。」
『私は、レン ワールド。貴女は?』
『サトラ。』
『ん?』
レンは怪訝そうに首を傾げた。
⋯⋯そういえば、言語理解のおかげで伝わってるけど、サトラの言葉って、何語なのかわからないんだった。
そりゃ、英語話者のレンに伝わるわけない。
⋯⋯ 音は同じだと思うんだけどなあ。通じないのか。
「サトラって言ったんですよ。」
『何語なんだい?』
「俺もわかりません。」
『只者じゃなさそうだ。』
「強いですよ。」
『めちゃくちゃ警戒されてるね。』
「多分、その服が原因ですね。脱ぐといいと思います。」
『わかったよ。向こう向いてて。』
ダメ元だったけど、レンは物わかりが良かった。
軍人の誇りとかも別になさそう。
とりあえず別の方を見ることにした。
後ろで衣擦れの音が聞こえる。
あれこれ想像が膨らんで良い感じだ。
袖を引かれて、そちらに注意を向けさせられる。
『直方、何話してたの。』
サトラはぷくーっと、ふくれっ面をしていた。
俺とレンが、二人で秘密の会話をしていたと思って拗ねているっぽい。
「自己紹介と、服を脱いでくれるようにって。サトラ、あの服嫌なんだろ?」
『なんでわかったの?』
「見てればわかるさ。」
『そう。』
サトラはそれっきり黙ってしまったけど、横顔を見れば嬉しそうなのは丸わかりだ。
単純な子だ。それが愛おしい。
『もうこっちを向いてもいいよ。』
振り返る。軍人の制服は背負ってるカバンにでも収納したのだろう。
ショートパンツと、ただのTシャツ。
取り繕わない格好は、不思議と彼女によく似合っている。
『これなら大丈夫かな。改めてよろしく。直方、サトラ。』
俺とサトラと握手して、彼女はニコッと笑った。
自然と好感を持ってしまう。これが人徳というやつだろうか。
「カリスマ」に含まれてそう。
パーティにレンを加えて、俺たちは御苑に向かって戻った。
サトラだけでも過剰戦力なのにレンも加わったので、向かう所敵なしだ。
途中で昼ご飯を食べる。モンスターが出るダンジョンで食事なんて自殺行為だ。
しかし、サトラとレンが実力を遺憾なく発揮して、危険を全く感じなかったので決行した。
洞窟の中で食べる食事は極限状態だからか、とても美味しかった。
レンはバーガーをたくさん所持していたので俺たちと交換した。
たまにはこういうのもいいものだ。
レンがフレンドリーすぎて、これまでずっと三人でやってきたように錯覚してしまう。
まだ二時間くらいしか一緒に行動していないのに。
レンは、極秘任務があると言われてこっちに来たらしい。
その内容に関してはほとんど知らないみたいだ。
軍人としてそれでいいんだろうか。
その中で一日待機時間ができたから、ダンジョンに潜りにきたと言って笑った。かなりのダンジョン狂だ。
暇さえあればダンジョンに潜る、か。
流石にそこまでダンジョンに賭ける気にはならないけど、素直にすごいと思った。
『サトラさん、とっても強いな。直方もなかなかだけど。』
「サトラはともかく、俺はLv85の雑魚だよ。」
『ええ? 私と同じか少し弱いくらいの実力はありそうだ。』
「気のせいだと思うぞ。」
思い当たる節がないな。
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