第14話 身の程を
レンが炎を打ち込んで、サトラが槍で殲滅する。
まさに鎧袖一触。ゴブリンが雑魚のように跳ね飛ばされていく。
二人にとってみれば雑魚だろうけど、俺にとってはさっき死にかけた相手だ。
どうしても出現するたびに身構えてしまう。
『直方、一人でやってみるかい?』
それに気づいたらしいレンが提案してきた。
『危なくなったら私が助けるからさ。彼女もいるんだし。』
「やらせてくれ。」
次に出てくるゴブリンの群れは、俺が倒すことになった。
さっきは一体だけだったけど、今度は群れに挑む。
新宿御苑の時は死ぬ気しかしなかったけど、今ならいける気がする。
なぜか身体能力が大幅に引き上げられたような感覚がある。
『その先に、いるよ。』
レンが指し示す。
「行くぞ。」
ゴブリン
Lv 80
職業「リーダー」
ゴブリン
Lv77
職業「治療師」
ゴブリン
Lv76
職業「剣士」
ゴブリン
Lv74
職業「取り巻き」
ゴブリン
Lv76
職業「暗殺者」
ゴブリン
Lv70
職業「工兵」
⋯⋯
⋯⋯⋯⋯
⋯⋯⋯⋯⋯⋯
気づかれないように距離を詰める。
一歩、二歩、三歩。
呼気の隙間を縫って、刺突。
ようやく俺に気づいたようで、ゴブリンどもは叫び声をあげる。
遅い。
相手の動きが、スローモーションのようにゆっくり流れる。ナイフを抜いて、次のゴブリンを刺す。
なぜ俺は、この程度のやつら相手に負けそうになっていたのか、死にそうになっていたのかわからない。
こんなやつら、ただの雑魚じゃないか。
動きは遅く、リーチは短い。大剣には振り回されて、満足に扱えもしていない。
一撃で命を奪って、刺す。その動作を10回繰り返すだけで、群れは全滅した。
息を吐く。
Lvが上がった感触があった。
ステータスを確認する。
名前 直方仁
Lv86
職業「異世界主人公(召喚予定なし)」
技能「鑑定」「言語理解」「威圧耐性」
称号「異世界主人公」
ついに俺にも称号がついた。
異世界主人公だって?
どういうことだ。
何一つ思い当たる節がない。
称号にしばらく意識を向けていると、詳しい条件が出てきた。
称号「異世界主人公」⋯⋯レア職業のステータス解放条件を満たしたため獲得。
俺の「異世界主人公(召喚予定なし)」が、ステータス的に働いた、だと?
嘘だろ。今までゴミとしか認識できなかった職業だぞ。
いつも詳細が出なかった職業を詳しく確認する。
職業「異世界主人公」⋯⋯異世界において、ヒロインと認識した相手と一緒にいる時、全ステータス二倍。
なんだこれ。ぶっ壊れてる。そりゃ異世界で主人公になれるよ。
ステータスはLvと比例すると言われているら。
つまり、ステータス二倍ってことは、Lvが二倍になったのと同じだ。
Lv1の時はLv2だろうけど、Lv2ならLv4相当。
俺の今のLvは86だから、実質Lv172と同じってことか。
しかもLvが増えれば増えるほど二倍になった時の恩恵も上がる。実質成長速度二倍みたいな感じだ。
ヒロインってのは、多分確実にサトラのこと。
ひょっとしたらレンさんの方も加算されているのかもしれないが、俺はそんな節操なしじゃない。
一番疑問なのは、ここが異世界なのかどうかってとこだが、ダンジョンが異世界って言われると疑問は氷解する。
つまり俺の職業は、サトラを伴ってダンジョンに潜っている時だけめちゃくちゃ強くなるってことか。
使い所さん⋯⋯。
いや、今まで何もないゴミ職業だと思ってたのが、場所によっては最強に近くなるってことがわかっただけでも上出来だな。
『随分ぼうっとしてたけど、何かいいことでもあったのかい?』
「ああ。未来に希望が見えてきた。」
『そいつは良かった。やっぱり冒険者?』
「これまではちゃんと定職に就こうと思ってたけど、いける気がしてきた。」
『いいね。冒険者は楽しいよ。君ほどの実力があればよっぽどのことがない限り死ぬこともないだろうし。』
トップ冒険者からお墨付きをもらえた。心強い。
さっきまで俺を過剰に持ち上げてからかってるんだと思ってたけど、単に実力を見抜いていただけっぽい。
問題は、サトラが俺と一緒に冒険者をやってくれるかだけだ。
ちょっぴり不安はある。まだ彼女のことをきちんと理解できてはいない。
過去に何があったのか。ずっと俺と一緒にいてくれるのか。
信じ切りたい。
「サトラ。」
『なに?直方。』
彼女はこてんと首をかしげた。
無垢で、疑うことを知らないような彼女の青い瞳が、俺を射抜く。
なぜだか、言葉が出なかった。ただ一言、確かめるだけなのに。全てが変わってしまいそうな、そんな気がした。
「いや、なんでもない。」
『変な直方。』
くすりと彼女は笑った。
新宿御苑ダンジョンに着くと、様相がガラリと変化する。
コンクリートで補強された外壁と道。
先ほどの岩の洞窟とはえらい違いだ。
『何これ。階層跨いだりした?』
レンは混乱しているみたいだ。
「ちょっと確認だけど、レンが入ったダンジョンって代々木でいいんだよな。」
『そうだよ。』
「俺たちは新宿御苑から入った。」
『つまり、ドッキング?』
「やっぱり、珍しくないことなのか?」
『珍しいのは珍しいよ。でも、都市部では時々あるはず。セントラル・パークとランドルズ・アイランド・パークの二層はドッキングしてるし。』
「ニューヨークの?」
『そうそう。』
「へーえ。」
『代々木と新宿がドッキングしたって話は聞いたことないけどね。』
「ついさっき起こったばかりだから。」
『報告したの?』
「してない⋯⋯。」
『仕方ないね。私がやってくるよ。』
「助かる。」
『代わりと言ってはなんだけど、外に出たら連絡先を交換しようよ。』
「いいけど。」
『良かった。いい冒険者との繋がりは大事だからね。でも、一つアドバイスしておくと、武器だけは新調した方がいいよ。』
「わかってる。」
そりゃそうだ。ただの家庭用のサバイバルナイフである。
ゴブリンを倒しているうちに切れ味が落ちてきたしな。
「レンはどこで手に入れてるんだ?」
『私はダンジョンドロップのやつだね。魔道書に関しては、人間の研究はまだまだだから。でも、短剣でもできればダンジョン産の方がいいと思うよ。』
やっぱりダンジョンドロップの方が性能は良いらしい。
鍛治師とかいう職業は憧れるけど、積み重ねが少なすぎて、まだまだこれからという話だ。あとは各企業モデルの武器とかもあるらしい。
つまり、性能はダンジョンドロップ>鍛治>企業製という感じだ。一部の企業はダンジョン産と遜色ない武器を生産しているらしいが、例外なく高いので手が出ない。
なんとか宝箱に入っている武器を見つけたいものだ。
まだ宝箱からは武器はおろかポーションさえ見つけたことがないので、望み薄かもしれないが。
なんで現金ばっかり見つかるんだろうな。
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