欲

ライアンは向かってくるクラバを全く警戒していなかった。

人間離れした体格を持ち、欲望のままに喰らってきた。

そうして生きてきたライアンにとって、細くか弱いクラバはただ喰らう獲物でしかなかった。


「君は僕をどうしたい?」

クラバの問いにライアンは答える。

「クうぅぅぅ....」

「欲張りだね...アグモンテル。」


その瞬間ライアンは激しい食欲に襲われ、地面を食べた。

地面に突っ込んだ顔を再び上げ、咀嚼し飲み込む。

「うわ...ほんとに食べたよ...」

ライアンの食欲を上昇させたクラバは心の中で驚いた。

だがその驚きは顔には表れていない。


「お、おいしいぃぃ」

そう言ってライアンは地面を食べ続ける。

その様子を眺めながらクラバは考える。


どうこの怪物に勝つか。


人は食べたものでできている。ライアンの体はこれまで普通の食べ物ではないものを食べてきたことを表していた。

それほどに大きく、異常な発達をしていた。

食べている隙に剣で切りつけてみたが、全く刃が通らない。


「こりゃぁ、厄介だなぁ。」


決定的な攻撃力を持ち合わせていないクラバはつぶやいた。

真っ直ぐに欲に従う怪物は操りやすいが、他の欲がない分、付け入る隙が少ない。


「お前、喰うぅぅ...」

そう言いながら一歩ずつ近づいてくる。

幸いにも動きが早いわけではないため、他の生徒に被害が出ないようにしながら時間を稼ぐことにした。


「どこか...ないのか...」


時間稼ぎを意識しながらも、ライアンの身体中を切りつけて弱点を探していく。


「邪魔ダァぁぁ」

そう言ってライアンはゆっくりとクラバを振り払う。

「そうか、その欲はあるんだな。」

クラバは地面の砂をライアンに投げつけると、ゆっくりと振り払った。


砂を投げ続ける。振り払い続ける。

そうしているうちにライアンが口を開ける。

「あ..ありがとう...」

クラバが投げた砂は口へと入り、飲み込まれる。



「なんで食欲が湧くんだよ...」

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