予感

「次、サ・クラバ、ミュジカ・ウマク。」


「いよいよ僕の番か...」

クラバがつぶやく。

「嫌なら戦闘の欲を上げれば?」

すれ違いざまにリックは返事をする。

「争いは好きじゃないんだよ...」


そう言ってトボトボ歩く背中には覇気がなかった。


ウマクが話しかける。

「前回は降参してたが、今回は私の指揮を堪能していただきたい。」

指揮棒をクラバに向けながら、刺すように言い放つ。

「好みの音楽を頼むよ。」


「はじめ。」


ウマクは指揮棒を動かして空中に文字を描く。


「 ff《フォルテッシモ》」


その文字を殴ると、クラバに向かって風が吹き荒れる。

「好みじゃないね。」

そう言って風をひらりとかわす。


「unison《ユニゾン》」

分身した2人のウマクがクラバに向かって走る。

その2人に向かってクラバも走り出す。


その瞬間、ウマクは後ろに退いた。

「っ...??!」


クラバも走り出した瞬間にウマクに生じた、「逃げたい」という欲を増大させた。


クラバはウマクの顔に蹴りを見舞う。

が、ウマクは全く動じない。


「pp《ピアニッシモ》」


クラバの脚にくっついていた文字が蹴りを極限まで弱くしていた。

クラバは構わず蹴り続ける。

弱い攻撃にも関わらず、「防ぎたい」という欲が増大し防御を続けるウマクにクラバは言う。


「防戦一方だなぁ!鍛錬、サボったんじゃないのか?」

ウマクはつい楽をしてしまった日々を後悔し、自分を責めた。


そう、「自分を責めた」のだった。


その瞬間をクラバは見逃さなかった。

「自分を責めたい」という欲が増大したウマクは自分を攻撃し始めた。

ひたすら自分を殴るウマクを横目に、クラバはシュタインに伝える。


「もう、止めてあげてください。」


「そ、そこまで。」


ウマクは放心状態だった。

入学試験では降参をした相手に負けたのだから。


「もう少しテンポの遅い音楽が、僕は好きだな。」


シュタインは少し疑問に思っていた。

非詠唱型のスキルの持ち主であるニガ・ドラムとサ・クラバ。

この2人が短期間で戦闘スタイルの大幅な変更を行なっていたからだ。


このドミニオン大陸の主流は詠唱型のスキルだ。

多彩な能力を発揮しながら柔軟に対応し、さまざまな局面で力を発揮する。

非詠唱型で歴史に名を残す者など、一握りもいない。

名を挙げるとすれば、


アーマン・シュリンク。


その名を思い浮かべたシュタインはリックを見た。

その席の近くにはニガ・ドラムとサ・クラバの姿があった。







新しい風の予感をシュタインは感じていた。

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