春過ぎて 夏来にけらし 白妙の 衣干すてふ 天の香具山
訓練場にはシュタインがいた。
「これで最後かな...っと。」
結界を設け、その中ではいかなる怪我も怪我にならず、いかなる死も死にはならない。治癒を超えた治癒。
訓練場に結界を張り終えたシュタインはリックを見た。
「やあ、リックくん。と...クラバくん...かな?」
クラバは驚く。
「はは。見どころのある学生の名前は自然と覚えてしまうんだよ。まあ、期待されてるってことだね。」
「ありがとうございます!」
シュタインは微笑みながら言った。
「そうだ。訓練場に結界を張ったから、訓練で思う存分、業を使ってくれて構わないよ。死なない、ケガもしない、痛みは感じる特別仕様さ。」
「最後の機能は余計ですね。」
「はは。大いに励んでくれ。」
そういってシュタインは去っていった。
「じゃあ、僕に技を使ってみてくれ。」
「特別仕様だぞ?」
「自業自得だ。」
リックは詠む。
春過ぎて 夏来にけらし 白妙の 衣干すてふ 天の香具山
リックの手には小さな火種がひとつ浮かび、やがて大きくなった。
それをクラバに投げると、炎は勢いを増した。
リックの予想に反して、クラバは無反応だった。
「僕のスキルは欲す者。自分を含め対象の欲求を操作するのさ。今のは生存欲求を極限まで下げることで痛みの感覚の機能を止めたんだよ。」
「なるほど...便利なスキルだ。」
「戦いには向いてないけどね...」
そう言ってうつむくクラバに、リックは言った。
「戦いはスキル同士のぶつかり合いではない。スキルは使い方だよ。」
クラバは顔を上げる。
「例えば、相手の防御したい欲求を上げれば防御させることができる。反対に攻撃させることもできる。そうすれば隙を作るのは簡単だよね。」
「気持ち悪くないのかい?」
「そういう使い方しないだろ。サ・クラバは。」
クラバは嬉しそうに笑って涙を流した。
過去に受けた軽蔑を拭ってくれたリックに感謝をしながら。
「で、今日はなんで授業中にちょっかいを出してきたんだ?」
「根に持つタイプだな?」
「絵は好きだからね。」
「不貞腐れたのさ。目が覚めたけどね。」
「そうか。では僕の友達を紹介しよう。」
そう言って訓練場の入り口に立つドラムとアーニアを見た。
「放課後はゴロゴロする予定だったんだけどな。」
「自業自得だ。」
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