秋の田の かりほの庵の 苫をあらみ わが衣手は 露に濡れつつ

晩秋の夜の静寂さと透明感


リックは業の説明を見ながら、アーニアとドラムの訓練を見ていた。


「明鏡止水」


アーニアの新たな業「明鏡止水《めいきょうしすい》」は、五感を研ぎ澄ますことで、本能で防御・反撃を行う。


「木刀でいいから使いたいよぉ〜」

「ダメだ!木の枝で木1本真っ二つにするだろ!」

さすがに訓練で真っ二つは洒落にならない。


「刀が無くても戦う練習はしておこう。」

「わかった!次はリックが相手してよね!」

気がつけばドラムが倒れていた。


「生きてるぞ。」

生きているみたいだ。


リックとアーニアは距離を取る。

「行くぞ。」

互いに拳を受け止めては放つ。受け止めては放つ。


幼馴染とこうして語り合うのもたまには良いものだ。

ドラムも1人で盛り上がっている。

流れる汗が頬を伝う。


「明鏡止水」


受け止められたリックの拳は振り払われ、同時に視界が揺れた。


こうして身近に強敵がいることも幸運だ。


秋の田の かりほの庵の 苫をあらみ わが衣手は 露に濡れつつ


リックは詠んだ。

アーニアは体のバランスを崩す。

その瞬間、リックはアーニアを拘束した。


「うー!ギブアップー!」


手を離し、3人で改善点を言い合う。

「リックあの業なに?!耳が聞こえなくなったんだけど!」

「そんな効果だったのか?!」


明鏡止水は五感を研ぎ澄ますことで防御を本能まで落とし込むが、聴覚を奪ったことで感覚がズレたのだろう。


「でもちょっとガッカリだな。」

聴覚を奪うなど、戦闘中には普通使わない。

何より強力な攻撃手段が増えるわけではないのが痛手に思えた。


「明鏡止水での動きを真似すれば、技を使わなくてもすんごい防御ができそうだぞ。」

ドラムが目を輝かせて言う。

「それイイね!!ドラム君、ありがとう!!

リック、もっかいやるよ!」

「次はおいらだぞ!」


楽しい3人になってきた。

そう思いながらリックは


聴覚を奪う


と脳内でメモをした。

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