旅立ち

1週間後、リックのもとに合格の報が届いた。


『なお、入学は3ヶ月後だが、入寮はそれ以前でも構わない。良き3年となることを、ここに保証する。』


最後の文を読んで、リックは決意した。

「明日か。」


「「おめでとーー!!!」」

合格祝いで一際豪華な夜ご飯が並んだ。


「で、学院にはいつ行くの?」

リックの母、エドウィックが尋ねる。


アーマン・エドウィック

スキル:料理

アーマン・リックの母。夫アーマン・シュリンクが冒険者として立ち寄った料理店で、シュリンクが一目惚れし、その後15年ともに戦場を駆け巡った。その料理の腕は凄まじく、食べた者は言葉を失う。


「明日には出発しようと思う。」

「ハッハッハ!流石だリック、行ってこい!」

正直この反応にはリックも驚いた。


「え、いいの?母さん?」

「だってこの人の息子ですもの。」

「その代わり条件がある」

シュリンクが笑顔で続ける。


「3年で俺を越えて帰ってこい。」


アーマン・リックは目標に出会った。

今まで目標なしに行動してきたわけではないが、父シュリンクより強くなりたいという願いは心にあった。

しかしこのとき、本気で越えにいくことを心に誓い、笑顔で答えた。


「2年で越えてみせるよ。」


いつもより美味しくどこか寂しい夕食を終え、リックは眠りについた。


次の日、入学前最後の訓練。

「父さん、スキルを使ってみてもいい?」

入学試験以降、恐ろしくて使用していなかったスキルをもう一度試したい。

「もちろん。手加減はいらないぞ。」

そう言って2人は臨戦体制に入る。


シュリンクの突進と同時にリックは詠んだ。


難波津に 咲くやこの花 冬ごもり 今を春べと 咲くやこの花


リックの右腕に斬りかかったシュリンクは、瞬時に察知する。

視覚情報を脳へ伝達し、電気信号を運動神経を伝って筋肉へと伝達する過程を「縮め」、反応速度を早める。


リックの視界が明るくなると、シュリンクの右腕スレスレで剣は受け止められていた。


「3割だ。」

「まだまだだね。」

そのとき交わした握手は固く、長かった。


訓練を終えて出発するとき、目の前にアーニアが立っていた。

リックは驚いて両親を見る。


「幼馴染に伝えないなんて、リックは誰に似たんだか」

エドウィックは少し呆れて言う。

「そうよリック!私だって強くなるんだからね!」

アーニアがムスッとしている。

「ごめんごめん。」

「着いたら美味しいご飯行くわよ!」


そんな2人の背中に、シュリンクは手を当てる。

「2人に俺から、15歳の誕生日プレゼントだ。」


行ってらっしゃい。


その言葉と同時に目の前に王都の門が現れた。

王都と2人の距離を瞬時に「縮め」たのだった。




「2年は言い過ぎだったかな...」

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