アタマ

試験を終えた夜、リックは両親と食卓を囲んでいた。


「試験はどうだったんだ?リック。」

「訓練が役に立ったよ。ひとまず上手くいったかな。」

「筆記の心配しないなんて、大したもんだな!」

そう言いながら父は酒を飲む。


「スキルが使えたんだよ。」

両親は目を丸くする。

「まあ!本番で力を引き出すなんて、誰に似たのかしら。」

「どんな業だったんだ?」

「カウンターだよ。」

「なるほど、だから今まで発動しなかったんだな。」

真剣な顔で父はスキルを分析する。


「そういえば、父さんに似たスキルを持っている子がいたよ。」

「...ほんとか?」

「多分、大きくする能力だと思う」

「おおおおお!!」

興奮した様子で椅子から立ち上がる。

「ずっと考えてたんだよ!もし大きくできる能力なら、あれもこれもできるのになぁって!」

「教えて!」

「いいとも。ただし条件がある。」

「...なに?」

「この美味しい夜ご飯を食べ終わってからな!」

母は嬉しそうに目を逸らす。

前に酒に酔った父が言っていた、夫婦円満の秘訣だ。


「お、あったあった!」

父は数えきれないほどの木の板を取り出した。

「戦術メモだよ。確かこれに...」

そう言いながら木の板をめくっていく。

確かにそこには戦い方が書いてあった。初めは拙い文字だが、文字が大人びていくとともに、より具体的で洗練された内容が書き込まれている。

「父さん、僕との訓練でどれくらい本気出してる?」

「訓練ではリックに何もかけてないし、2割ぐらいかな?」


勝てない。


リックは直感的にそう思った。


「これこれ!思えば冒険者になっても書いてたなぁ。」

そこには『もし大きくできたら』という表題で、様々な戦術が書かれていた。

「これ、友達に教えてもいい?」

「いいとも。ただし、条件がある。」

「...なに?」

「父さんの強さも教えるんだぞ?」

「もちろんだよ。」

「ついでに教えてやる。相手との戦いは、ただスキルをぶつけ合うだけではない。アタマを使って戦え。」

途方もない戦術を考え尽くした父の言葉には重みがあった。

「そうしたら、5割ぐらいは本気出してやるよ。」

「冗談に聞こえないよ...」

「ハッハッハッ!!!」



ベッドに入った途端、長い一日が終わった。

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