試験開始

筆記試験開始の合図とともに、会場ではペンを走らせる音だけが響いていた。

前の席のアーニアも頭を抱えながら、なんとか回答しているらしい。

先ほどのニガ・ドラムは解き終えたのか、居眠りする余裕を見せている。


この2ヶ月間、午前中は座学、午後は父との実践訓練を続けてきた。

それが功を奏したのか、リックにとっては難題という難題は無かった。

しかし、リックの緊張は膨らむばかりであった。


筆記試験終了後、受験生は競技場へと移動する。

問題の、実践試験である。

「大丈夫だって、お父さんと訓練したんでしょう?」

アーニアが心配そうに話しかけてくる。

「リックのお父さん、すんごく強いんだから。」


リックの父、アーマン・シュリンクは冒険者として有名だった。

縮めるシュリンカーはそれほど強い技を持っていないが、さまざまな物を「縮める」ことができる。相手との距離を瞬間的に縮めたり、自身の筋肉を縮めて爆発的な動きを用いるなど、対人戦においてはかなりの実力を誇った。


実際にリックはこの2ヶ月間負け続け、一度も剣を当てることすらできなかった。


「まあ、最善は尽くすよ。」

難波津に 咲くやこの花 冬ごもり 今を春べと 咲くやこの花

この技は一向に発動しない。最悪の想定のもと訓練はしてきたつもりだが、やはり不安は残っていた。


「ではこれより、実践試験を始める。試験内容は受験生同士の1対1の模擬戦だ。どちらかが戦闘不能もしくは降参した時点で試験を終了とする。」

受験生がざわつく。

「一定以上のダメージはコイツが肩代わりしてくれる。安心しろ。」

試験官が男を指差す。

「俺ぁ、カインズ・ギガドニア。ダメージは俺のスキルで肩代わりしてやるから、思う存分暴れろ、ガキどもぉ!!」


カインズ・ギガドニア

スキル:護るガーディアン。大砲でもかすり傷ひとつつかないほどの防御力を誇る。技を発動することで周囲の仲間へのダメージを代わりに受けることができる。


その後ろから、メガネをかけた細い男性が現れた。

「もし死んでも私が治しますから、遠慮はいりませんよ。」

受験生は静まる。


「ではこれから名前を呼ぶ者以外は観客席へ。

 ドミニク・アーニア、ミア・ソルバルト、前へ。」


「えええ、一番最初?!どうしよう...」

アーニアが心配そうにこちらを向く。

「大丈夫、アーニアなら大丈夫だよ」

「き、緊張するよ...」

震えながら指定された位置へと歩くアーニアを見送り、観客席へと座る。

「各自、好きな武器を使っていいからな。」

試験官が指差す先には綺麗に手入れされた武器が並んでいる。


2人は剣を構えて距離を取る。

カインズ・ギガドニアが真ん中に立ち、合図を出す。

「はじめ。」


と同時に、


一閃。






















カインズ・ギガドニアの腕が地面に落ちた。

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