5、貴族のパーティが疲れるのは事実だった。

 

 

 結局、魔法属性についての説明は一切なかった。両親に聞こうとも母は何を聞いても

 

「これから頑張りましょう♪」

 

 と一言。いや、なんで教えてくれないの?嫌がらせ?

 ちなみに父に限っては号泣しており話せる状態にない。威厳あるところをもう少し見せてくれよー。


 こうして家に帰った俺は貴族パーティの主役として準備させられているのであった。

 死に衣装のような服を脱がされ、パーティ用の衣装に着替えさせられる。金の刺繍が入った煌びやかな見た目以上の重い衣装だ。スーツなんかじゃ比にならないぐらい生地がいい。いったいいくらぐらいするんだろうか……。俺の月収を普通に超えそう……。


「似合ってるわよ、ルーク!」

「ああ、成長したなぁ……」


 衣装を変えた俺を見て嬉しそうな母。そして普段は厳格なのに、家族関係になると涙脆い父は止みかけた涙をまた流し始めた。


「母様ありがとうございます。そして父様、そんなに泣かないでください……。恥ずかしいです」

「でも……」


 モゴモゴと言い訳を述べる涙の止まらない父。そこに母が一言。

 

「ルークの言う通りよ? 大体せっかくの誕生日なんだから泣いてばかりはよくないわ。それにそろそろ来賓の方々がいらっしゃるでしょう? 当主として、公爵家としてそれでいいの?」

「……そうだな。こんな姿を他の者に見せるわけにはいかないな」


 涙が引っ込み、キリッとした顔になる父。涙で目元は腫れてるけどね。少し残念。

 

 俺は主役ということで、ステージみたいなところの後ろでずっとスタンばっていた。チラリとカーテン越しから部屋を見渡す。来賓がめちゃくちゃ来ている。しかもみんなすごく派手だ。ひえ〜。貴族のパーティって恐ろしい。

 

「本日は我が息子ルークのお披露目会にお越しいただきありがとうございます」


 父の声と共にステージに立つ俺。

 パーティは始まった。


 ……

 




 


 ……結論を言おう。貴族のパーティはすごくめんどい。


「私、ルーク・リコルドは『弓使い』の職業を賜りました」

「おおー!」


 まず、職業発表。これは平和に終わった。だが、これからが長かった。

 

「ルーク殿、はじめまして。アンベル・ダルケリアです。そして我が娘の……」

「ナエリア・ダルケリアです」


 そう。婚約を結ぼうとあちらこちらから誘いが来る。

 この世界では10歳になってから初めて貴族のパーティに参加する。だから婚約を結ぶため10歳の披露宴に大勢の子ども(時々未婚の成人も)が来る。まぁ俺は婚約は早い気がするのでいい感じに受け流すけどね。でも時々すごく食い下がってくる人がいる。どんだけ婚約させたいんだよ……。

 見渡すと両親も同じように話しかけられていた。母がこっちを見る。


「(任せといて)」


 そう聞こえた気がする。少なくともこの時期に婚約者を決めさせられることはなさそうだ。よかった。


「私、バリッシュ商会のライジェア・バリッシュと申します」


 ホッとする俺にアフロヘアのおじさんがやってきた。

 披露宴にはツテを作るために商人なども来る。こういうのはしっかりと対応した方が将来的にいい。味方が増えるしね。


「ルーク・リコルドです。初めまして」

 

 バリッシュとの会話は思いのほか弾んだ。商人だけあって凄く物知りだったのだ。俺もこの世界について少し学べたし、とても有意義な時間だった。


「では、私はこれで」

「また、お話お聞かせください、楽しみにしています!」

「ははは。ありがとうございます。また参ります」

 

 こうしてパーティが過ぎていく。バリッシュと別れた俺はまた婚約を求められていた。はぁ。本当に疲れる。高校の三者懇談会レベルでだるい。もう好きにしてくれって言いたくなる。

 嫌気がさした俺は端の方に逃げた。


「「はぁ……。」」


 ん?ため息がハモった?

横を見るとそこには同い年ぐらいの女の子がいた。癖っ毛なのか、少しふわふわしている薄い茶色の髪に緑の目。物静かで可愛らしい姿の子だ。


「こ、こんにちは……」

「あ、ああこんにちは」


 お互い挨拶を交わしてみたが気まずい。何か話す話題を……、


「……ルークさんですよね」

「え、、はいそうです。貴女は?」

「私の名前はテネル・ランプロスです。」


 そう言ってはテネルはにかむ。可愛らしい。

 

「そうですか。……テネルさんもパーティに疲れてここに?」

「ええ。パーティはあんまり慣れなくて……。ルーク様もですか?」

「そうなんです。思っていたより話しかけられて疲れて……」

「わかります。 私は人と話すのが苦手で、婚約とかは全部兄に断ってもらってました」


 なんかわかる気がする。人見知りしそうな感じだし。


「でもルーク様の前だと不思議と喋れちゃいます」


 てへっと笑うテネル。うん。やっぱ可愛い。なんて言うんだろ? そう、庇護欲を掻き立てるような。

 

 「テネル。ここにいたのか」


 そう思う俺の前に、男性が近づいてきた。


「お父様!」


 テネルは父親に抱きついた。父親はにっこり笑ってテネルを抱き上げる。

 

「どこにもいないから焦ったぞ? ……おお、これはルーク殿。私はコルベラ・ランプロスです。娘がご迷惑をかけ、申し訳ない」

「いえ。楽しく話していただけなので」

「そうですか。ならばよかった」


 そう言ってコルベラはテネルの頭を撫でる。


「これで、お披露目会を終了させていただきます。本日はお越しくださりありがとうございました」


 使用人がそうアナウンスする。やっと終わったか……。長かった。


「では、私たちもこれで失礼しますね。」

「またね、ルーク様!」


 テネルが手を振ってくれた。俺も振り返す。

そうするとさらに笑ってぶんぶんと両手で振ってくれた。


 これが後に婚約者となるテネル・ランプロスとの出会いだ。

 

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