第5話 狂気の発現

5話 狂気の発現


  


 ドン!と激しい音を立てて魚人が大勢を崩す。


 モリを杖にして立ち上がると魚人がおぞましい金切り声で叫びをあげると、あちこちから一回り小さな魚人がワラワラと現れた。


「昨日の今日でケンカを売ってきた理由がコレか!」


 俺のコールプローラーメンダコが右腕を前に出すと、そこに捻じくれた杖が現れる。


 これもコールプローラーの実体化能力の恩恵か。


「これが諸合さんのチカラだ!いくらでも複製を作れる!俺の軍隊と俺の国を作ってやっても良いとあのお方は言ってくれたからなぁ!」


 10体は出て来た3メートル程のサイズの魚人。


 5メートルのコールプローラーからすれば一体一体は敵じゃないが、蛇魂の相手をしている最中に横から攻撃されればコチラもただでは済むまい。


「お前は!人に貰った椅子でふんぞり返る程度で満足なのかよ!」


 小魚人の数を減らそうと捻れた杖を棍棒にして殴りかかる。だがソレをモリで防ぐ蛇魂。


 何度も殴りかかるが、俺の棍棒をいなし、弾き、まるで長年槍を振り回して来たような自然な動きで俺を翻弄する。


 なんだこの違和感、気色悪いな!


「コピー出来るのがコールプローラーだけだと思ったら大間違いだ!記憶や経験もコピー出来るんだよあの方はっはぁ!」

 

 勝った気でいるのかずいぶんペラペラと!


 だがどうする?え?お前と俺で戦ってる?そうだな。ならばッ!


「ままよ!杖術技能!賽を投げるっ!」


「バカが!俺の槍術技能は一流探索者の経験をフィードバックしている!いなして弾くのは容易いことっ!」


 カァン!と弾かれる。直後、小型のモリを一斉にコチラに投擲してくる小魚人。


 間に合わずに身体中を小さなモリに貫かれ膝を付く。


「ギョヒヒヒヒヒヒ!お前のような危険人物は早めに対処するに限るな!」


 クソッ!俺の何がそんなに気に入らねぇ!


「そもそもこんなクラスで目立たないボケッとしてる奴になにこんなにもビビってたのかね」


 い、いやだ死にたくない!ころされるのか?こんなチンピラに!


「まあ良いか。じっくりトドメを刺してから昨日のお礼を主部仁倉に貰おうとするかなァ!」


 なんで殺そうとするんだよ!それに主部さんにも危害を加えようとしてる?!逆恨みもいい加減にしろよ!


「あばよクソ野郎!」


 ……フヒッ!


 槍が俺を貫く。僅かに上体を捻り、槍は俺の左肩を貫いて地面に縫い付けられる。


 しかし直後、俺と蛇魂の足元の地面が崩れ落ち、地下鉄の線路に投げ出される。


 そこで痛みと衝撃、そこから恐怖のあまり目の前がまっくらになりてがふるえはじめた。


 「なんでころされなきゃいけないんだ!ころしてやる!!こんなおもちゃを刺したぐらいでずいぶんえらそうになれたなぁ!あはっ!あはっ!ハハハハハハ!」


 つちのちからでおさえつけて、おれをさそうとしたさかなをたたく。


 うろこがとびちる


 うでがちぎれてとぶ


 あっ、にくらちゃんだかわいいなぁ


「にくらちゃん!あぶないからこないで!にくらちゃんはかわいいからまもらなきゃ!」


「かわっ……じゃなくて殺しちゃダメです!奥渡くんが人殺しになるのは嫌なんです!」


 さかながうごけないようにうえからふみつけておこう。


「やっつけたらにくらちゃんはぼくをきらいになる?」


「え、えぇ!嫌いになります!悪い事をしたらメッてされますけど!メッてし過ぎるのも悪い事なんですっ!だから戻って来て下さい!」


 にくらちゃんにきらわれたくないからやーめよ




◇◇◇


 ※主部仁倉視点



「大変な事をしてくれたな……」


 私は今また警察署の隣の空きビルで取り調べを受けていた。


 まったく、グースカ寝てる奥渡くんが羨ましいわね。


「いや、君を攻めているんじゃないんだ。だが、まさか万が一にと持たせたコールプローラーをこんなに早く使うとは……はぁ……地下鉄の事もだが、頭が痛いな」


「南部さん。一応彼のコールプローラーのドライブレコーダと私の撮っていた映像は証拠になりますよね。」


 流石に彼が可哀想だもんね。本当に恨まれる事に身に覚えが無いみたいだし。


「あぁ、だが世間の目はそうは思ってはくれないかもしれないぞ。アレだけ狙われたらその場面を見ていた人間も大勢居るだろう。これから奥渡くんを非難する者も出て来るだろうな」


「そもそも、彼の目的は何なんです?それと蛇魂くん彼の動きは昨日今日で獲得出来るモノじゃないと思います。」


 南部さんはタバコを掴み火を付ける。何度か吸い込んだ後に吐き出される煙に顔を顰めるが、この人はお構い無しだ。


「さらに回収しようとしたら蛇魂のコールプローラーは小型の魚人が抱えて回収してどこかに消えたって話じゃないか。この話、もっとデカくなるぞ」


 窓から警察署の瓦礫を見下ろしながら煙を吐く。


 なにかどんよりしたものが私達に這い寄って来ている。そんなおぞましい感覚をこの時私は感じていたのだ。



──────────



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