第4話 降臨

4話 降臨


 俺はトボトボと通学路をあるく。昨日はホントに疲れたからぶっちゃけ休みたかったんだが、あいにく隣の家の妙子に起こされてしぶしぶ登校している。


 隣には俺の家の向かいに住んでるから同じ様に妙子に叩き起こされた久安が頭にウィスプを乗せながらトボトボとあるいていた。


「よぉ、奥渡……俺の相棒のウィスプが眩しくてよぉ、明るいとなんとなく夜ふかししちまって眠いのなんのって」


「モンスターに追い回されてフルマラソンした疲れが取れてないのよこっちは!」


「あぁ、今日はその話が学校であるかもな。コールプローラーの講習は来週からだっけ」


「そうだな」


 黄色いインコと仲よさげに歩く蓮見妙子の後ろからやる気無くダラダラと歩いていると、校門前に探索者が待ち構えていた。


「君、メンダコの妖精を肩に乗せたそこの君だよ。矢波奥渡くんだね?ちょっと来てもらえるかな?」


「えっ、ハイ。なんだろ?昨日の事ですか?」



◇◇◇



 ボロボロになった警察署を通り過ぎ、隣のビルの空き部屋に通される。

 

 あの警察署、まるで戦場になったみたいだな。


 コンクリの建物がまるでパンを切り分ける様に切り刻まれて、あちこちに焦げた跡や何かを叩きつけた様な赤いシミ、かなりの衝撃があったのだろう爆発の跡が見られた。


 いったい何人のならず者探索者に襲われたんだろうか……


 ガチャリとドアを開けて一人の刑事さんが入って来た。


「こんにちは。矢波奥渡くん。俺は南部改。アラタってんだ。突然すまないが、ちょっとハナシを聞かせちゃ貰えないか?」


 目の前の刑事さんはそう言うとドカッとパイプ椅子に腰を下ろしタバコをふかし始める。


 ずいぶん古い銘柄で相当なヘビースモーカーなのかメッキが擦り切れたライターを使っていた。


「話って…昨日の?」


「それもあるが、アレだよ」


 窓の外を指差す改。崩壊した警察署からはいまだに煙がくすぶっていた。


「アレの下手人は諸合周防、高校2年、先日精霊を召喚したばかり。と来りゃあまあ理由は召喚した精霊がアレな奴で悪い影響を受けたんだろうって上の見解だ。珍しい事だが無くはない」


 そこで話を区切って灰を落とす。


「ただなぁ、諸合周防の奴は拘置所に勾留していた魚目蛇魂を連れ出し行方を眩ませている。さらに、クラスメイトの庭院ダロスもな。」


「あぁ、もしかして蛇魂と因縁がある自分が何か知らないかと呼ばれたんです?」


「話が早くて助かる。あの三人は何を起こそうとしている?精霊が暴走しただけなら仲間を集める様な事はしない。だが諸合周防は取巻き2人を誘拐したんだ。少なからず諸合周防の意識も残っているだろうな」


「諸合周防が何を企んでいるか……?分かんないですよそんなの。でもひょっとしたら目立ちたいんじゃないですかね?」


「目立ちたい?」


「自分が一番で、自分が真ん中に居て、自分が認められてないと許せない。そんな感じはなんとなく」


「なるほど……だったら部下を伸したお前は力を示すのにうってつけって訳だ」


「それって危なくないですか?自分がまた狙われるんですよね」


「そこは大丈夫だ。入ってこい!」


 ガチャリと扉が開いた先にはクラス委員長であの時コールプローラーを持ってきてくれた主部仁倉が立っていた。


「主部さん?なんでここに……?」


「彼女は実は父親が警察官でな。探索者関係の捜査は人手が足りず、時たまアルバイトで手伝って貰って居るんだ。」


 主部仁倉はおずおずといった感じで目の前に来ると、深々と頭を下げる。


「まずは、昨日は助けてくれてありがとうございます。そして守ることが出来ずにすみませんでした!」


「二人共無事だったんだし気にしないで」


「それで、だ。今後は君に恨みを抱いている魚目蛇魂がまた君に襲撃をかけるとも限らないから出来るだけ彼女と共に行動して欲しい。彼女にはコールプローラーの召喚器も持たせている。」


 そう言って南部改はゴテゴテとした小箱がくっついた銃を取り出すと主部仁倉に渡す。


「コレはコールプローラーの召喚器だ。相手が巨大なバケモノやコールプローラーで襲って来た時にはコレを使え。しばらくはこっちでも調査をするから2人は学校に行けよ」



 そう言うと南部改は部屋から出ていき、その場にはタバコの香りに包まれた主部仁倉が立ち尽くしていた。


「えっと……登校しようか」




◇◇◇





「昨日はよくもやってくれた!てめぇをブチのめせと俺の相棒が囁くんだ!八つ裂きにすると言った!」


 警察署の近くのバス停からバスに乗ってしばらくするとバスを通行止めするように5メートルの魚人が立ちふさがっていた。

 

 昨日上半身をブチ抜いたからコールプローラーと同化していた精霊にはかなりダメージが入っているハズなのにもう回復している?!


「お前は!昨日で懲りてなかったのか!」


「なんで懲りる必要がある!何も悪い事をしていないじゃないか!」


 バスの窓から飛び出すと、その直後、魚人の持つモリでバスが破壊される。物凄いパワーで潰れたお菓子の箱の様になったバスの上に立ちまるで宣言する様に俺に向かって叫ぶ。


「人を八つ裂きにするという事が悪い事じゃない?!」


「お前の相棒のそのタコ!ソイツは世界を滅ぼす存在なんだ!諸合周防も言っていた!お前が戦ったアイツは滅ぼさなければならない存在だと!これは大義である!」


「人を八つ裂きにする事が大義などと!」


「問題無用ォー!」


「仁倉さん!!」


 モリが俺に向かって振り下ろされる瞬間、光の柱がたちのぼり魚人の攻撃を弾き飛ばす。


「おのれ!コールプローラーか!」


 主部仁倉を背中に隠す様に蒼とも緑ともつかない深い色を湛えた巨人が立ち上がる。


 背には小さなコウモリ羽根を携え、たてがみの様に首と頭から触手が生え、まるでギリシャ神話の神の様なトーガをまとう。


 神が降臨した


───────


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