第3話 這い寄る今後

3話 這い寄る今後


 ※諸合周防視点※




 暗闇に自分自身の姿が映る。


「テケリ・リ、テケリ・リ」


 奇妙な声を発する“俺自身”が“俺”に語り掛けてくる。お前は王だ。取り戻さなければならない。お前の家を、お前の街を、お前の国を、お前の大陸を、お前の世界を、お前の………星を


「そう………だ……みんな俺のだ……偉そうにしてる………アイツらを………滅ぼして…………」


 カッ!と明るくなる。気が付くと医務室の様な所に居た。窓ガラスの向こうは真っ暗で何も見えない。……夜か?俺はいつまで寝ていた?だがここは動き難いな。おそらくは監視の目があるな。


 人間にいい奴悪い奴が居るように精霊にもいい奴悪い奴が居て、稀に人間を取り込もうとする精霊が居るとこの身体の知識にある。すぐに隠れ家を用意しなければな。


 俺は身体からハンマーの様な器官を生やし、窓ガラスを破壊する。チッ、割れない様になっている上に中に針金の補強が入ってやがるな。

 

 俺はハンマーの様な器官を鋭利な刃物の様な器官に作り変え、壁一面を切りつける。響き渡る破壊音と共に部屋の風通しが良くなる。


「止まりなさい!君は今精霊に乗っ取られつつある!今ならまだ子供のヤンチャで終わるからソレを降ろせ!」


 病室の入口に3人の探索者が現れ、コチラに対して静止の声を挙げる。


「何のつもりだ?王になるべき我に向かって子供のヤンチャだと?不愉快だ。貴様らの精霊を差し出せ。」


 俺は鋭利な刃物の器官を伸ばし探索者の傍らに居た小動物3匹を貫く。刃物を通して身体に染み込むチカラは甘美な味わいで、よく鍛えられた上質な精霊であった。


「寝起きのモーニングコーヒー代わりには悪くない味だったぞ。ではさらばだ。」


 自分の精霊を喰われたショックか固まっていた3人の探索者の胸にそれぞれ3本の器官を突き刺しその体の精神エネルギーを吸い出す。

 

 この身体ではまだ血肉は必要ないからな。エネルギーだけで良い。


 窓から夜の闇に身を投げだした俺はまず手駒が必要であるとし、庭院ダロスと魚目蛇魂を回収する為に街を疾走する。



◇◇◇




「ひっ!な、何が起こってるんだ?!」


 俺は今、何者かに襲撃を受けている庭院家の片隅で震えていた。


「ぼっちゃま、そこを動かないで下さい。すぐに高ランクの探索者が駆けつけます。私はそれまでの時間かせぎをば!」


 そう言って爺やは武器を取り部屋を後にするが、ボクはその言葉にも安心できず、今日召喚したばかりの子犬を抱いて震えていた。


 そもそもボクは戦いは嫌いだ。偉そうにする人を前にすると萎縮しちゃうんだ。そのせいで中学校までは腫れ物扱いだったんだよね……


 ボクの家の庭院家は地元の瑞角荷区では有数の名家と呼ばれてて、まあ有り体にいうとお金持ちのお坊ちゃんなんだよね。実家が実家だからイジメられたりもあんまりなかったんだけど、かと言って親しくしてくれる友人も居なかった。


 でも高校に上がった時に諸合くんが話しかけて来てくれたんだ。実家とかハーフでダロスって言うカタカナの名前も良いじゃないか、って言ってくれてさ。ちょっと乱暴者だけど、その乱暴さの近くに居る事でボクの不安は薄れて行ったんだ。彼が居たから強気になれた。


 虎の威を借る狐と笑われるかもしれないけど、変わるキッカケをくれたといい方向に考えようと思ってて、魚目蛇魂くんと3人でいろんな事をしたな………


 精霊も手に入れたんだからこれからもっと派手な事が出来ると思っていた矢先に、実家が襲撃を受けちゃって……どうしようどうしよう!このままやられたくない!もっと楽しい事がしたい!諸合くんのやるめちゃくちゃな事を見ていたい!


「助けてよ………諸合くん」


「おう、来たぞダロス。次は蛇魂のデブを拾いに行くからさっさと支度しろ」


 ポロリと漏れた呟きに返事が返ってくる。ふと見ると部屋の入り口には血塗れの諸合くんが居て、ボクに学校で見せてくれる様ないつもの笑顔を見せてくれていた。


 そのミスマッチな風景にプッと吹き出すとボクは安心から笑いだして、ソレを見て諸合くんも笑い出す。


「「アハハハハハハハハハハハ」」


 この日、庭院家が無くなった。



◇◇◇



 拘置所ってのは案外普通の部屋なんだな。

 

「なぁ、ハンギョ。アレはなんだったんだろうな。自分で自分が分からなかった。やっぱりお前のせいなのか?」


 壁一枚隔てた隣の空間には魔術的な結界を施された檻に入れられた相棒に向かって愚痴る。肝心の相棒は横になってピクリとも動かない。


 まるで陸に打ち上げられた魚の様に床に転がっているハンギョを見ていると昼間の事を思い出し無性にイライラし始めるてきた。そうだよ。すんなりアイツの相棒を八つ裂きにさせてくれてたらこんなに大事にならずに学校内の話で済んだのによぉ!タコなんて魚のエサだろうが!


 ふと振動を感じる。やにわに騒がしくなり上階で何者かが戦闘を始めている?しめた!脱出のチャンスかな!


「魚目くん、諸合くんが一緒に行こうってさ。キミの相棒を入れている檻のカギと封印解除キーはコレだ。早く準備してよ」


「ダロス?お前どっから………いや精霊の能力か?ありがたい。使わせて貰うぜ!」


 檻を開け隣の檻も手早く解放する。おぉハンギョ!こんなに弱っちまって……奥渡の野郎は必ず八つ裂きにしてやる……


「良いぞ。で、ダロス、どうやってココから出るんだ?」


「ふふふ、角さ。カド。鋭角の部分に触れて見てよ」


「お、おう。どうした?何か雰囲気変わったか?まあそれが能力ならそうするか」


 拘置所の床と壁の境界線に触れるとパッと視界が切り替わり警察署の前にダロスと2人で立っていた。

 

「警察署が燃えてやがる……コレは諸合が?」


「あぁ、僕らの新たな旅立ちを祝福する花火だってさ」


「ははっ!そりゃあ良い!サイコーじゃねぇか!」


「「ハハハハハハハハ!」」 


 いつの間にか合流していた諸合も合わせて3人で上げる笑い声が燃え盛る建物で明るくなった夜に響き渡っていた………




──────────



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