ダイジェスト:第七話から第九話

第七話

 赤山は、気づいた。

 そういえば青海さん、何か妙なことを言っていた、と。


「さっき言ってた、思い出のスーパービュー踊り子って何。」


「昔あった、東京と伊豆を結ぶJRの特急。先頭車が二階建て車両であるのと、ターコイズブルーのラインが入っているのが特徴。あのターコイズにあたしは助けられたの。」


 すると、



 グブォォォン!



 青海を吹っ飛ばした爆発から、金属音混じる電車の警笛がこだまする。

 その中で、人型のような影が作られてゆく。


「それじゃ、あんたの剣貸して。あいつを後ろから切るから、あんたは囮になって逃げて。」


 赤山の剣を貸すように提案する青海。

 若干渋りつつ、彼女に柄を手渡そうとしたその時。

 糊で引っ付いたように、剣が張り付いて取れなくなった。

 手をパーにしてもなかなか落ちない。

 そこで、青海が囮になり、赤山が背中から切りつけることになった。


 爆発の中から出てきたのは、背中からレーシングカーのウィングが生え、胸部よりターコイズの特急電車が張り出したロボ。高さ190cmほどである。

 そして首より上にはなぜか、青い目に灰色の蛇の頭が生えていた。


 どうやら青海が赤山に放った「蛇高速伊豆ターコイズ」という技は、レーシングカーと、思い出の特急スーパービュー踊り子だけではなく、蛇のしなやかさもイメージした技のようだ。


 ロボが赤山と青海の方へ歩み始めると、羽織っている甚兵衛をたなびかせて、すかさずロボに飛び蹴りを喰らわせる青海。直後、ロボを陽動するため、近くの遊具へ向かって逃げて行った。


 しかし、ロボは背中に生えたパンタグラフより電気を集め、青海の方へ突進するチャージを始めてしまう。


 チャージを中断させようとするも、周りにほとばしる電気によって吹っ飛ばされてしまい、地面に転がって痺れに苦しむ赤山。


 ロボの電撃による火傷に耐えるには、自分がそれ以上に、火のように熱くならなければ。


 そうイメージした時、彼は全身火だるまになっていた。

 とはいえ熱くはなく、優しい温かさだった。

 赤山はもう一度ロボの背中へ、剣を逆手持ちした右拳と共に突進する。

 そして、こう放った。




吾火あか!」




 燃えるパンチは命中。

 ロボはチャージを中断するとともに、前へ倒れる。

 ホッとしたのもつかの間、ロボはまた立ち上がる。

 彼に肉弾戦を仕掛ける様子だった。

 先程の技で戦う余力など、もう残っていない赤山。


「赤山!逃げろ!鼻血出てるぞ。おい踊り子!こっちに進め!」


 青海がそう叫ぶ最中、赤山は再び「思い出のスーパービュー踊り子」というワードに引っかかる。

 すると肉弾戦を免れる方法を思いついた。


 彼女に襲い掛かる想像の「スーパービュー踊り子」は、「想像」である前に「思い出」なのだ。つまり、思い出であることを思い出させれば、想像としての暴走を止められるだろう、と。


 そこで赤山は青海より、幼い青海さんとスーパービュー踊り子の思い出を聞き出すと、ロボに向かって叫んだ。


「スーパービュー踊り子。その三つに並んだライト、すごく可愛い。二階建てでいろんな人を載せているの、すごいよ。何よりも、ホームが混雑し、迷子だったところを親と再び会わせてくれて、ありがとう。スーパービュー踊り子、大好きだよ。」


 いつの間にか、自分なりに幼いころの青海に感情移入し、感謝まで伝えて、歩み寄っていた。

 そして、スーパービュー踊り子を胸に抱きしめていた。

 一方のロボ。襲う様子など、それらしい敵意は無くなった。


 そんな様子を見て青海も感極まったのか、目を潤ませて近づき、ハグに加わる。


「ありがとうスーパービュー踊り子!初めての家族旅行で死ぬほど怖かったあたしを勇気づけてくれて!ごめんね!あなたに赤山を殴らせちゃって!なんで、もう走ってないの!もう一回、あなたに乗りたいよ!」


 ロボは、青海の大切な思い出であることを思い出したことで、光の粒になって消えた。そうして元の、青海の柄である「青の柄」になった。

 青の柄を前に、青海の嗚咽は止まらなかった。


第八話

 青海は青の柄を拾い上げると、目尻と眉間を下げ、申し訳ない表情をした。


「赤山。今日、散々な目に合わせて、本当に、うっ、ごめんなさい。」


「いいよべつに。本当に僕、赤の柄に出会って変われた気がするし。それに、思い出に対して、青海さんが言いたいことを言うことができて、幸せを実感できたんじゃない?」



「たしかに。スーパービュー踊り子に、あの時の感謝や思っていたことを伝えられてよかった。それに、あんたに出会ってなかったら、この先も柄の使い方を間違えていた。」


「柄の使い方を間違える、というのは?」


「ああ。柄は、掴んだ者の想像を具現化させるもの。本来はこの色生市に生きる人たちを守り、喜ばせ、幸せにするために、ここの土地神様が作ったとされているの。だからあんたが言うように、幸せを実感するために想像を使い、柄を使った方が、土地神様が喜ぶ。けどあたしは、あんたを傷つけて、自分勝手に現実から逃げるために使ってしまった。」


「それはそれ。今は今からだよ青海さん。言ったでしょ。想像は、幸せを実感するためのもの。」


「ところで、土地神様が喜ぶってことは、この柄、僕が持ってていいの?」


「ええ。あたしが回収するって言っても、悪い使い方をする人からだけ。あんたみたいに、想像を正しいことに使う人からは回収しないわ。想像の暴走の心配がないし、あんたに使われたいって、柄も、土地神様も思うだろうから。」


 赤山は、青海に赤の柄を使うことを認められたのだ。

 彼は、ついに変われる。


「そうだ、あんたが赤の柄の持ち主になるなら、土地神様に報告しないと。」


 ということで、青海の父が神主をしており、土地神様を祀っている色生神社に参拝しに来た二人。

 境内の前で二礼二拍手して目を閉じる。


 少ししたのち、赤山は違和感を感じた。

 隣にいたはずの誰かがいないような。

 彼が目を開けたとき、隣にいたはずの青海は消えていた。


第九話

 とにかく辺りを見回す赤山。

 すると、川がしぶきを上げる音が、境内の後ろを流れる川から聞こえた。

 出所へ向かうと、黒づくめの長髪の男が川の中に立ち、その手にある細長い剣を水面へ向けていた。そして剣先には、青海の首があった。

 青海は川の中に倒され、男に首を切られかけていたのだ。


 せっかく青海の想像の暴走を命からがら止めたのに、死んでしまえば幸せを実感するための想像ができなくなってしまう。


 そんな悲しい結末を止めるべく、赤山は焦りつつも赤の柄を右手に、こう叫んでいた。




環印零止ワインレッド!」




 剣から放った斬撃は男に命中し、そのまま輪っかに変化すると男の手を拘束するように腰ごと彼に巻きついた。さらにそこへ体当たりを仕掛けて男を川底へ倒し、青海を小石でできた岸へ連れてゆく赤山。


「青海さん、大丈夫か!」


「ええ、何とか。」


 身体が冷たく、唇が青紫っぽくなっていた。体を小刻みに震わすが、さらに言葉を続ける。


「それにしても、あいつ、『黒の柄』を持っていて、影にひそめるみたい。あたしの影から現れたかと思ったら、ここに連れてこられたの。」


 どうやら男が影に潜んでおり、青海を川へ攫った犯人のようだ。そして青海は男について、もう一つ分かったことがあるようだ。


「それは、想像の暴走で生み出された者であること。」

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