剣色の夢(連載版)

チャカノリ

第一話 夢

耳が変な感じがする。まるで、飛行機乗って急上昇した時に気圧の変化で、耳の中がぶわあっとなるような…

こうして暗い中で、耳がだんだんこもってゆく。


その中で、響いてくる音がある。水が岩にあたってはつるっと滑り、下にある水へ、泡をじょぼじょぼ立てて流れ込むような。

そしてその音を、林の木々は籠らせ、さらに丸い音へ変えてゆく。


この音のこもり具合。

あの川だ。


登下校中に通学路から見える、神社の裏を流れる川だ。

小学生の頃はそこで独り、さきいかでザリガニを釣り、両手をがばっと広げてはカエルを捕まえた。何が起きるかいつも分からない、時間を忘れる遊び場だった。

しかし、中学に進級し、高校生にもなってからというものの、ビル街と同じように気に留める必要もない風景と化し、何も思わない。ヘドロや腐った藻で、あのときよりもこんもりとした湿気を出し、ニオイが少しキツくなったくらいだ。


もし、本当にあの川なら―


懐かしいあの遊び場だと築いた瞬間、どうしてもその川なのか気になり、目を開けた。

あの川だった。今立っているのは、緩やかな傾斜の赤土でできた岸。木々が後ろや横に生い茂り、すぐそばにも木があった。いや、木のうちの一本がすぐそばにあるのは、僕が寄っかかっているからだ。一方で向こうには、砂利でできた岸がある。あちらの奥もまた、木々が生い茂っていた。。

ということは、後ろを振り向けば。

やっぱりある。境内の背中。


神社の裏を流れる川の確証が持てたところで、もう一度川を見る。

先程までいなかったか、あるいはたまたま視界の中に入れていなかっただけか、赤いシャツを着た少年が川の真ん中にいる。

そして、川に流されそうでも細い両足を踏ん張り、川底から何かを引き抜こうとしている。


この少年、見たことがあるような。

あ、あいつか。

何があるんだ。小学生の僕。



ツルッ、ツルッ、ツルッ。



なんども引き抜こうとしては、川の流れで手が滑る。川底に大根でも生えているのか、幼き日の僕。

だがついに手ごたえがあったのか、目を見開く川の中の僕。

その時、ギリシャの神殿の柱ようにたくましい水柱がバッ、とたち、その白さで少年を覆い隠した。



バシャンッ



という音とともに、そんな水の爆発が消えたとき、ずぶ濡れになって川底に尻餅つく少年がいた。そして、その小さな両手で引き抜いた何かを、天へ向けている。

手が高く掲げるそれは、どんな赤い太陽よりも、青白い北極星よりも輝き、赤白く少年を照らしていた

棒状のような、先端がとがっているような。光はそんな輪郭を形作っている。

まさしく、騎士が持つような剣だ。

それに目を輝かせ、無邪気にかっこいいと感じる川の僕。

そんな様子をまるで親のように慈しみ、自身の思い出のように懐かしむ岸の僕。


すると、岸にいる今の僕に対し、後ろからいきなり、冷淡さのこもった女性の声が投げつけられた。


「それ、あたしのなんだけど」


「えっ!?」

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