第12話 妹降臨
圧倒的狂気を身に纏った愛宮さんが襲ってきた。
どうする……?
( よし大和、戦う時が来たようだ!)
( 相手は女だぞ! 戦うわけにはいかないだろ!)
とりあえず攻撃を避けたり防いで対処するしかない。
そう考えていたその時……。
「 やーっと見つけた! 私のお兄ちゃん!」
急に話し掛けてきたのは桃色の髪をツインテールにした、これまた美少女だ。
その場にいた全員がその声に反応し、動きが止まった。
「 大和お兄ちゃんだよね? 私、
「 は……? お兄ちゃん? どういう事?」
( 大和、お前妹いたのか)
( いやいないよ)
いきなり見知らぬ美少女からお兄ちゃんと言われた。
どういう事だ?
まさか僕に生き別れの妹がいたのか?
そんな事を思っていると、桃園さんは愛宮さんの方へ視線を向けた。
「 それとイズナお姉ちゃん! 今、大和お兄ちゃんのこと襲おうとしてたでしょ! 暴力はだめだよ!」
桃園さんは愛宮さんを注意した。
あの愛宮さんに説教だと!?
この子凄いな……。
僕が感心していると、愛宮さんが口を開いた。
「 分かったよ桃園さん。じゃあね」
愛宮さんはそう言い、この場を去った。
あの狂乱モードに突入した愛宮さんを説得させた!?
桃園さんは一体何者なんだ?
何はともあれ愛宮さんが去った事で僕は襲われずに済んだ。
とりあえず桃園さんにお礼を言おう。
僕は桃園さんにお礼を言おうとしたのだが……。
「 優吾お兄ちゃん! 元気だった?」
「 おう! もちろん元気だったさ! 桜花はいい子にしてたか?」
「 うん! 私いい子にしてたよ! だからご褒美に優吾お兄ちゃんに頭撫でてほしいな!」
「 全く〜しょうがない奴だな〜」
「 えへへ〜。優吾お兄ちゃんの手、おっきくて安心する〜」
……………………。
( なにこれ?)
( おいどうなってる大和)
( いや、僕に聞かれても……)
山君と桃園さんの意味の分からないやり取りが僕の視界に映り込んでいる。
僕は山君に声を掛けた。
「 や、山君、これどういう事?」
「 桃園さんはこの学校の全生徒の妹なんですよ」
「 マジで意味が分からないんだけど」
僕が困惑していると桃園さんがこちらを振り向く。
「 大和お兄ちゃん! 私は今日朝からずっと大和お兄ちゃんを探してたんだからね!」
「 僕を? なんで?」
「 転校してきた新しいお兄ちゃんに挨拶するために決まってるでしょ!」
「 えっと……」
本当に意味が分からない。
( 大和、この女も相当イカれてるぞ)
( うん。それは見てれば分かる)
なんなんだこの子は。悪い子ではなさそうだけど……。
「 昨日は私、他のお兄ちゃんと用事があって挨拶にいけなくて……。だから今日の朝、ずっと玄関の前で待ってたんだけど、大和お兄ちゃんがなかなか来ないから探してたんだ!」
「 そ、そうなんだ……」
「 とりあえず今日からよろしくね! 大和お兄ちゃん!」
桃園さんは僕に満面の笑みを見せると、この場を去った。
「 ……。山君、説明してくれ」
「 まあそうなりますよね。いいでしょう、説明します。彼女の名前は桃園桜花。そして、狂人ランキング第7位。通称 "妹改革の桜花" 。狂力は4300です」
「 まあ、狂人ランキングに入ってる事は予想してたけど、妹改革ってなんだ?」
「 桃園さんは一人っ子で兄姉がいません。ずっと1人で育った彼女は兄や姉に強い憧れを抱きました。そこで考えたのが、この学校の全生徒の妹となる事で、他の生徒を兄や姉にしたのです。妹という概念を改革したことから "妹改革" という異名がついたのです……」
「 なるほど……。めちゃくちゃすぎて、ついていけないな……」
( おい大和、ほんとこっちの世界はどうなってるんだ。今のところこっちの世界で出会った女性はイカれた奴しかいないぞ)
( だからこの学校がおかしいんだよ)
それにしても "妹改革の桜花" か……。
さすが狂人ランキングに入るだけの事はあるな……。全生徒を兄や姉にするなんて狂ってる……。
「 ですが桃園さんはこの学校でもかなりの人気があります。狂人といえば狂人ですが、愛宮さんみたいに誰かに危害を加えないですし、何より可愛い! 」
「 なるほど……。確かに一部の男子生徒からは人気でそうだな……。それに害が無い分、愛宮さんより全然いいな」
「 そうなんです! ちなみに僕も桃園さんの事を妹のように慕っています! 僕は桃園さん……いえ、桜花の兄ですからね! 妹のためならこの命……惜しくは無い!!」
( おいこのオカッパ、やっぱ気持ち悪いな)
( 山君は僕の友達なんだ。悪く言わないでやってくれ)
「 それにしても全生徒の妹って……この学校、とんでもない数の生徒がいるだろ」
そう。この黒月高校は都内でも有数のマンモス高だ。
「 確かにここ黒月高校にはとんでもない数の生徒がいます。ですが、ここが桜花の凄いところ! なんと全生徒の顔と名前を完全に把握してるんです!」
「 マジか……。確かにそれはすごいな」
「 そうでしょ? だから桜花は凄いんです! そして何より可愛い! 可愛いのは顔だけじゃなく性格も可愛くて、この前なんか」
山君が桃園さんの事をひたすら語り出したので、僕は玄関へと向かった。
( "告白中毒のイズナ"……。 "妹改革の桜花" ……。この学校にはまだまだイカれた狂人がいそうだな……)
( 他の狂人はどんな奴らなんだろうな! 楽しみだ!)
( 全然楽しみじゃないよ……)
僕とヨナさんの考えは真逆のようだ。
できれば他の狂人とは関わりたくないな……。
僕はそう思うのだった。
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