第8話 告白中毒のイズナ

「 龍美大和です。よろしくお願いします」


僕は新しいクラスで自己紹介をした。


僕のクラスは二年一組。クラス全体を見渡すと、美男美女が多いように感じる。


本来、転校生イベントはイケメンや美少女が転校してきて盛り上がるというのがセオリーだろう。


しかし現実はそう上手くはいかない。

僕は黒髪陰キャの万年ぼっち。


僕が自己紹介を終えた後、クラスから残念そうな声が聞こえてくる。特に女子から。


「 うわー、転校生ハズレじゃん」

「 完全に陰キャだよ」

「 もっとイケメンがよかったな〜」


普通の人ならここでメンタルが崩壊し、精神を病むだろう。


しかし僕は万年ぼっちの超陰キャ。

この程度の悪口なんて慣れたものだ。


( おい大和。お前めちゃくちゃ言われてるな)


( うるさいなヨナさん。こんなの慣れっこだよ)


「 龍美の席はあそこだ」


茶髪のポニーテールが特徴な美人担任が僕の席を指差す。


その席は、一番後ろのちょうど真ん中の席。

後ろの席なのは良い事だ。


僕は自分の席に座り、その後、朝のホームルームを終えた。


教室から担任の先生が去った瞬間、右隣に座っている女生徒に声を掛けられた。


「 龍美君、よろしく! 私、愛宮泉菜あいみやいずな!」


その生徒は、長い黒髪で瞳も大きく誰がどう見ても美少女だ。

こんな僕に話し掛けてくれるなんて優しいな。


「 うん、よろしく」


僕はとりあえず返事をした。


「 昨日は転校初日だったのに、なんで休んだの?」


「 じ、実は、寝坊しちゃって……」


「 あはは! 転校初日に寝坊とか、龍美君は面白いね!」


凄く可愛い笑顔だ。


( 隣の席の人が優しくて本当に良かった……)


( お前のそばには優しい奴が常にいるだろ?)


( はいはいそーゆーのいいからヨナさん)


そんな会話をしていると突然……。


「 あの……龍美君に伝えておきたいことがあるんだけどいいかな? ここじゃ話しにくいし、今から屋上に来てくれない?」


愛宮さんは何やら顔を赤らめ、もじもじしている。ここじゃ話しにくい事ってどんな話なのだろうか。


まあ、断る理由もないし僕は愛宮さんにオッケーの返事をした。


そして屋上に来た瞬間、愛宮さんは僕の目を見てハッキリと言った。


「 私ね、龍美君を一目見た瞬間に恋に落ちちゃったの! だからお願い! 私と付き合って!」


愛宮さんは上目遣いで僕を見つめてくる。


………………。


何これ?

どういう状況?

意味が分からないんだけど。

罰ゲームか何か?

それとも何かのドッキリ?


正直僕の脳は混乱していた。


「 そーゆー事で龍美君、返事を聞かせてくれる?」


愛宮さんは僕に告白の返事を求めてきた。


( はっきりいって、僕は愛宮さんの事を何も知らない。そしてそれは向こうも同じ事だ。

だって今出会ったばっかだもん。

だがそれでも本当に僕に一目惚れをして本気の告白をしてきているのなら半端な回答をしてはいけないと思う……。ねぇ、どう思う? ヨナさん! 女性の意見も聞かせてくれ!)


( そうだな……。どうしたらいいかさっぱり分からん……)


( くそっ! 使えねーな!)


( おい口が悪いぞ大和)


とりあえず僕はもう少しゆっくり、真剣に告白の返事を考えたい。


これが人生で初めて告白された僕の回答だ。


というわけで素直に思った事を愛宮さんに伝える事にした。


「 愛宮さん。こんな僕に告白してくれてありがとう。でも僕たちはまだ知り合ったばかりだし、告白の返事については真剣に考えたい。だから明日まで待ってくれないかな?」


僕は愛宮さんへ告白の返事を待ってほしいと伝えた。とりあえず今はこれが最善策だろう。


だがしかし…………。


「 ……は?」


「 ……え?」


僕の返事を聞いた途端、愛宮さんの表情は無となり、先程までと同一人物とは思えない程に豹変した。


おまけに声のトーンも低くなり、プレッシャーを感じる。


「 はぁ。マジあり得ないんだけどあんた。会って数分の相手に告白されて、返事を真剣に考えたいとかマジキモすぎるんだけど。普通速攻で振るだろーが気色悪いなぁ」


とても美少女の口から発せられてるとは思えないドスの効いた声色だ。


何が起こっているのか理解できない僕は言葉を発する事もできず、ただただ黙って立ち尽くしていた。


そんな僕の方へ愛宮さんはゆっくりと近づき、僕の胸ぐらを掴んだ。


( おい大和! この女なんかヤバイぞ! 一旦逃げろ!)


ヨナさんが話し掛けてきたが、僕の脳は何が起こっているか分からず真っ白だ。


そして……。


ドゴッ!!


「 ぐわっ!」


愛宮さんは僕の顔面を思い切り殴った。


は?


いきなり殴られた?


てか……痛い。


本当にこれは女子高生のパンチなのかという程凄い威力だ。


「 愛宮さん、なんでこんなことを……」


ドゴッ!!


愛宮さんに話し掛けるが真顔で無視され、またしても顔面を殴られた。


( 大和! おい! 聞こえてるか! 大和!)


ヨナさんの声が聞こえるが、何が起きているのか理解できていない僕は、ひたすらに殴られ続けた。


そして数分が経ち……。


ドガッ!! バゴッ!! ドゴッ!!


気が付けば僕は仰向けに寝転び、僕の腹部に跨った愛宮さんに顔面を殴られ続けていた。


さらに数分が経ち、僕を殴り続けていた愛宮さんが立ち上がった。


「 龍美君、次はちゃんと私の事を振ってね」


愛宮さんは僕にそう言って屋上を去っていった。


…………。


何が起きたのか……何でこんな事になったのか……。


そして何より、愛宮さんは何がしたかったのか……意味が分からない……。


僕は愛宮さんに何度も殴られ、口は切れて鼻血も出ている。


( ヨナさん……。これどういう事?)


( いや私が知るか!!!! てか、こっちの世界の女、意味不明すぎるだろ! いきなり告白していきなり殴って何がしたいんだ!)


( いや、彼女を地球の女性基準にするのは間違ってるよ! まあ愛宮さんについて今ここで考えても仕方ないし、教室に戻ろう。もうすぐ授業が始まっちゃうし……)


僕は顔の痛みを堪えながら教室に戻った。


教室に入ると僕の顔の傷を見た生徒たちから声が上がる。


「 早速イズナさんにやられたね〜」

「 転校生もかわいそうだな」

「 やっぱこうなるよな」


そんな声が周りから聞こえてくる。

この反応からすると、周りの生徒たちはこうなる事が分かっていたかのようだ。


僕はとりあえず席に着くが、隣の席の愛宮さんは特に目を合わそうとしない。


さっきあんな事があったのに無反応だ。


僕はその後、愛宮さんの事を考えながら午前の授業を終えた。


そして放課後……。


( こっちの世界の授業は退屈だな)


( 仕方ないよ、授業だもん)


( まあそんな事より、あの愛宮とかいう女について誰かに聞いてみろよ)


( い、いや、僕には無理だよ……)


本当は同じクラスの生徒に愛宮さんの事を聞きたかったのだが、陰キャの僕にそんな事出来るわけがない。


もう帰ろ……。


僕が席を立ち上がろうとすると、一人の男子生徒に声を掛けられた。


「 転校生君! ちょっといいですか?」


僕に声を掛けてきたのは、おかっぱヘアーに丸メガネをした見た目がガリ勉君の男子生徒だ。


「 僕は山優吾やまゆうご。よろしくお願いします!!」


「 う、うん、よろしく」


自己紹介をした山君はテンションが妙に高く少し戸惑ってしまった。


( なんだこのオカッパは……ムカつくな)


( ヨナさん、外見でいちいちムカついたりしないで)


僕はヨナさんをあしらいつつ、山君に尋ねた。


「 それで山君、僕に何か用かな?」


「 いやですね、君を一目見た時、僕と同じ陰の気配を感じましてね〜。ぜひお友達になれたらなと思いまして!」


なるほど……。


要は自分と同じで陰キャだから仲良くなれると思ったのか。


なんて失礼な奴だ。

だが山君、君は正しい。


それに友達ができるのはいい事だ。

それに愛宮さんの事も聞けるしな。


「 いいよ、ぜひ友達になってくれ。むしろ今まで友達なんていなかったから助かるよ」


「 ほんとですかい!? いや〜ありがたいですな。僕も友達がいなくてね〜」


山君もか。


何はともあれ僕に友達ができた。

ならば今やるべき事はひとつ……。


「 あのさ山君。愛宮さんについて聞きたいんだけど…… 」


僕の問いかけに山君はメガネを少し上げ、話し始めた。


「 今朝いきなりあんな事になってはそりゃあ気になりますよね〜。いいでしょう、僕が説明してあげます……愛宮泉菜の事を……」


「 ありがとう」


「 では順番に話をしていきましょう。まずは愛宮泉菜。彼女はこの学校では通称 "告白中毒のイズナ" と呼ばれています」


「 告白中毒? 何それ?」


「 愛宮泉菜……彼女は異性に告白し、振られる事で快感を感じる超絶サイコなんです!」


「 ……は?」

( ……は?)


ヨナさんと僕の声がハモった。


それもしょうがないだろう。

だって、意味が分からないし。


「 龍美君の気持ちも分かります。マジで意味分かんないですよね? でも彼女は何度も異性に告白し何度も振られる事で悦びを感じる狂人なんですよ。それは紛れもない事実。何度も告白する事からついた異名が "告白中毒" 。それが愛宮泉菜です」


「 なるほど……。理解はできたけど意味は分からないな」


「 同感です……」


( まさかこの世にそんなサイコ野郎が存在したなんて)


( ああ……。こっちの世界は狂ってるな)


( いや、こっちの世界が狂ってるんじゃなくて、愛宮さんが狂ってるんだよ)


僕はヨナさんに軽いツッコミを入れた。


そして山君はさらに愛宮さんについて話を続ける。


「 そして愛宮泉菜の厄介なところは告白して振らなかった場合です」


「 振らなかった場合……。そういえば僕も考えさせてくれって言って、キッパリ振らずに返事を保留にしたな……」


「 愛宮さんは告白後、自分の事をキッパリ振らないと、その相手を一方的にボコるんです」


「 イカれてんな」

( イカれてんな)


またハモった。


「 同感です……」


それで僕はボコられたのか。

もはや理不尽だな。


「 というわけで龍美君、今後も愛宮さんに告白される事が何度もあると思いますが、すぐに振ってください。彼女は女子高生とは思えない程強いんです。腕に自信のある不良ですら一方的に倒してしまうくらい強いんですよ」


「 とんでもない化け物だな……」


「 そうなんです。だからこれからは気をつけてくださいね」


転校前日に異世界人が封印された【空間操作】ができる指輪を拾い、異世界へ行ってドラゴンを倒した。


日本では普通の生活がおくれると思ってた矢先にこれだよ。


( どうなってるんだ全く! 異世界転移ものと特殊設定学園ものを一緒にするんじゃねーよ!)


僕はそう思った。

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