第4話 異世界人とカップ麺
「 どうなってるの? ここどこ? 家の中?」
「 何が起こったんだ?」
金髪の女性と茶髪の男性が困惑しているようだ。
「 おい! どうなっている! ここはどこだ!」
赤髪の男性が僕を取り押さえながら声を荒げた。
「 ちょっと落ち着いてもらえませんか? 事情は説明するので、手を離してもらえるとありがたいです……」
「 …。変な気は起こすなよ。何か怪しい動きを見せたら容赦しないからな」
「 何もしませんよ……」
赤髪の男性は僕に警戒しつつも手を離し、他の3人も僕から離れた。
( 随分と賑やかだな! 楽しそうで何よりだ!)
( ヨナさんちょっと黙ってて。ヨナさんの声はこの人達には聞こえないんだから)
ヨナさんの声は僕にしか聞こえないし、手に嵌めている指輪も見えていないはずだ。
「 それで、ここはどこだ? お前は何者だ?」
赤髪の男性が詰め寄ってくる。
何て答えたらいいんだろう。
「 えっと……信じてもらえるか分からないんですけど、ここはあなた達のいた世界とは別の世界なんです。地球という星の日本という国です……。僕は龍美大和っていいます。その……よろしくお願いします……」
とりあえず自己紹介しつつ説明した。
……。
少しの沈黙の後、赤髪の男性が口を開いた。
「 ……冗談だよな? お前、俺たちの事、馬鹿にしてるのか?」
「 いや、全然馬鹿にしてないですし、冗談じゃ無いです……」
「 ……」
赤髪の男性は黙り込んでしまったが、今までずっと黙っていた銀髪の女性がゆっくりと口を開いた。
「 その人が言っている事が嘘か本当かは分かりませんが、私達が森から転移してきたのは間違いありません。それだけは確かです」
「 転移って……そんな事できるなんて信じられない……」
銀髪の女性の発言に、金髪の女性が疑問を抱いた。
銀髪の女性は僕を鋭く睨みつける。
美人だが目が怖い……。
「 えーっと……」
「 あなたは本当に何者なのですか? あなたは一体……」
グゥゥゥゥ〜。
?
何を言おうとしたのかは分からないが、銀髪の女性が顔を赤らめてお腹を抑えている。
どうやらお腹が鳴ったようだ。
「 ……。良かったら何か食べます?」
銀髪の女性は目に少し涙を浮かべ、恥ずかしそうに言った。
「 ひ、必要ありません!」
その言葉に茶髪の男性が笑顔で口を開いた。
「 まあそう言わず、貰っとこうや。俺も腹が減ってよ〜」
他の3人とは違い、茶髪の男性は意外とあっさりしている。体が大きく、ドレッドヘアーで見た目も怖いが、案外優しそうだ。
「 分かりました。とりあえず何かすぐできるもの作ります。あと、ここ一応家の中なので靴を脱いでいただけるとありがたいです……」
僕も靴を履いていたため、4人を玄関へ案内し、スリッパに履き替えてもらった。
僕はその後キッチンへ向かった。
「 とりあえず、4人はここに座って待っていてください」
僕は4人をリビングのテーブルへ案内した。
さて、何を作ろうか。
普段から料理はしているから、ある程度の料理は作れる。
ただ……。
めんどくさいからカップ麺でいいか。
一応客人ではあるからそれなりの料理を振る舞った方がいいかとも思ったが、今はめんどくさいからカップ麺にする。
ちょうど4つあるし。
僕がお湯を沸かそうとすると、銀髪の女性が話しかけてきた。
「 大和さん……でしたよね? 一応私達の自己紹介もしておきましょうか。私はイヴローラと申します。よろしくお願いします」
銀髪の子がイヴローラさんか。よし、覚えた。
続いて赤髪の男性が口を開く。
「 俺はレッドだ」
レッド!? そのまんま髪の色じゃないか。覚えやすいな。レッドさんの名前を忘れる事は無いだろう。
レッドさんに続いて、金髪の女性が口を開いた。
「 私はレナンよ。よろしく」
はい、レナンさんね。金髪ツインテールなんて、今時珍しいよな。よし、覚えた。
最後にドレッドヘアーの男性が口を開いた。
「 俺はデスタだ! よろしくな!」
なんかめちゃくちゃ笑顔なんですけどデスタさん。凄い明るい人だな。
「 ちなみに全員今年で17歳です。大和さんはおいくつですか?」
イヴローラさんが最後に全員の年齢を付け加えた。今年で17歳って事は同い年か。
てかデスタさん、めっちゃゴツいのに俺と同い年かよ。
「 僕も今年で17歳です。よろしくお願いしますね」
僕は4人によろしくと伝え、自己紹介が終わると同時にお湯が沸騰した。
カップ麺にお湯をかけ、4人の目の前に運んだ。
カップ麺の味は、味噌、塩、醤油、とんこつと4種類あるが適当に配った。
「 じゃあ、あと3分したら出来上がるので召し上がってください」
「「「「 えっ?」」」」
「 えっ?」
何故か全員が驚いた表情を浮かべているが、その理由は分からない。
「 えっ? じゃねーよ! たった3分で料理が出来上がるだと? お前俺たちに何を食わす気だ!」
「 毒でも入ってんじゃないの?」
レッドさんとレナンさんが僕を睨みつけてくる。
「 いやいや普通の食べ物ですよ。毒なんて入ってませんよ」
「 そうか。それなら俺たち全員が食べる前に毒味をしろ」
レッドさんが詰め寄ってくる。
……。
めんどくせー。この反応でこの4人がカップ麺を知らない事は分かった。異世界にはカップ麺は存在しないのだろう。
そうだとしてもカップ麺を毒味って……。
まあでも言う通りにしよう。
「 分かりました。そこまで言うなら毒味しますよ……」
3分経過し、僕はカップ麺の蓋を開けた。
カップ麺の香りが辺りに充満する。
すると……。
「 初めて嗅ぐ匂いだな……」
「 何だこの匂い! 早く食べてーぜ!」
「 めっちゃいい匂い……」
「 すごく美味しそうです……」
蓋を開けた途端、全員が呟いた。
「 じゃあ、毒味しますね」
僕は約束通り全員分の麺をすすり、毒味した。
まあ、普通にどれも美味しいな。
毒味が終わり、僕は4人に箸を配った。
「 はい、毒味しましたよ。それじゃあ召し上がってください」
4人は箸を持ち、麺をすすった。
麺を飲み込んだ後、全員黙り込んでしまった。
……。
そして少しの沈黙の後……。
「「「「 なんじゃこりゃーー!!!!」」」」
全員が大声を上げた。
凄くうるさい。
そして全員が麺を頬張りながら声を荒げる。
「 何だよこれ!! うますぎるだろ!!」
「 ありえねーぜ! こんなうまいもん存在するのかよ!!」
「 美味しすぎるでしょこれ!! 何なの!?」
「 こんな美味しい料理、食べたことありません!!」
全員が目を輝かせながらカップ麺にかぶりつく。
いや、確かに美味しいとは思うけど、そこまで驚く事か?
喜んでくれているのは良いことだけど……。
カップ麺を食べただけでこのリアクション……かなり新鮮だ。
「 これは何という料理なんだ??」
レッドさんが質問してきたので答える。
「 カップ麺ですね。細長いやつが麺で、あとは汁です」
料理と呼べるかは疑問だけどね。
てか、麺知らないのか。異世界人は何を食べているのだろうか。
( 大和。この料理はそんなにうまいのか? 私も食べてみたいぞ!!)
( ヨナさんあんた今指輪でしょ。どうやって食べるんだよ。それとも僕の視覚を共有しているように味覚も共有できるのか?)
( いや、共有できるのは視覚と聴覚だけなんだ。くそっ!!! 早くこの封印を解いてくれ大和!! 私も食べたい!!)
( 残念ですが諦めてください……)
食べたい食べたいとヨナさんがうるさいが、放っておこう。
「 おい大和。さっきは色々すまなかった。これを食べて分かった、お前はいい奴だ」
レッドさんがいきなり謝ってきた。
謝ってきたのは良いのだが、カップ麺を食べただけで、何故僕がいい奴になるかは分からない。
そしてレッドさんは話を続ける。
「 こんな料理は見た事ない。お前は本当に違う世界の人間なんだな……」
カップ麺で違う世界かどうか判別するのかよ。
まあ、僕の話を信じてもらえるのならそれでいいんだが……。
「 私も、大和さんが嘘をついているようには見えません。それに、こんな美味しい料理を振る舞ってくれるなんて、悪い人ではないと思います」
イヴローラさんも僕の言った事を信じてくれたようだ。
「 大和が違う世界の人間だろうが、こんなうまいもん食わせてくれるなら何でもいいぜ!!! それよりレッド、お前のやつと俺のやつ、汁の色が違くねぇか? もしかして味違うんじゃねぇのか?」
「 なに!? 本当だ! 一口くれ!!」
「 お前のも寄越せ!!」
「 ちょっとあんた達だけずるいわよ! 私にも他の味食べさせてよ!」
「 私も他の味がどんなのか気になります!!」
全員の味が違うと知り、麺の奪い合いが始まった。
「 ちょっと!! 私の麺取らないでよ!」
「 レナンお前、俺の麺食ったじゃねぇか! 寄越せよ!!」
「 私、レッドさんのやつ食べたいです!!」
「 いくらイヴローラの頼みでもそれは無理だ!」
……。
カップ麺如きでみんなが言い争っている……。
醜い……。
僕は4人の麺の奪い合いをただただ黙って見届けた。
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